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デジタルビデオカメラ用オーディオシステム設計の課題と対策(3/3 ページ)

廉価なデジタルビデオカメラのオーディオ性能を飛躍的に向上させるいくつかのコツを紹介する。

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電気的雑音は?

 DC-DCコンバータの過渡電流とデジタル信号はEMI(electro magnetic interference)を発生させ、周囲の回路基板の配線がこれを拾ってしまう。マイクからプリアンプまでの接続部は、誘導されるスパイクに対して信号振幅が小さいため、EMIの影響を特に受けやすい。EMIは広帯域にわたるのでフィルタでは除去できない。しかし、マイクに差動プリアンプを搭載すれば、マイク信号とマイクグランドの両方に現れるEMIスパイクを抑制できる。この手法を用いる場合は、マイクグランド自体を信号とみなし、マイク信号の配線の隣にルーティングする必要がある。そうすれば、差動アンプがその信号からグランド電圧を吸収し、EMIを除去して必要な信号のみを残す。

 ただし、この方法は完全ではない。実際の回路基板のレイアウトでは、2本の配線のうちの一方が若干長いか、雑音源により近いため、一方の配線において他方の配線よりも大きなEMIスパイクが発生してしまう。また、差動アンプのCMRR(common mode rejection Ratio)には限界があるため、まったく同じ信号でさえ完全に相殺されずに減衰する。したがって、EMIの影響を低減するようにボードを設計しなくてはならない。まず、マイクの配線をできるだけ短くする。ケーブルを使う場合はシールドで保護する。信号トラックの両側にグランド領域を設け、隣接する銅層上にグランドプレーンを形成することで、ボード上でもシールド効果を得ることができる。次に、EMIの発生源とアナログオーディオ回路との物理的な距離を最大限に広げる。最後に、可能であれば、デジタル/パワースイッチング回路がカメラ内で放射するEMIを最小限に抑える。

 アナログ回路における雑音に関してもう一つのポイントとなるのが電源である。デジタル回路と電源管理回路のスイッチングが電力供給路に雑音を発生させるため、マイクのプリアンプとA-Dコンバータのアナログ部分には個別の低雑音電源が必要である。デジタルとアナログのグランドは慎重に分離しなくてはならない。最後に、電源電圧短絡時の雑音を、システム全体に拡散する前にデカップリングする必要がある。

 カメラ特有のものとしてズーム雑音がある。ズームレンズに取り付けられたステッパモーターからの雑音は、音響的、機構的、電気的雑音として、あるいはモーターの回転が生み出す交流磁界からのEMIとして放射される。ズーム雑音は周期的で、モーターのステップ周波数付近、通常は可聴範囲内の狭帯域で発生する。高調波や機械的振動によって他の周波数でピークが発生することもある。この種の雑音はデジタルノッチフィルタで除去できるが、同じ周波数帯域内の必要なオーディオ信号まで抑えられてしまう。ダメージを最小限に抑えるには、ノッチフィルタの狭い遮断周波数帯域に対する感度を高くして、レンズのモーターが動いていないときはそれを無効にする必要がある。ハードディスクや他の電子機械装置のモーターが発生させる狭帯域雑音にも、これと同じ手法を用いることができる。

オーディオ再生を高品質に

 ビデオカメラは基本的に記録用機器だが、再生時の音質もユーザーにとっては重要である。オーディオ再生の出力方法としては、ヘッドフォン、内蔵スピーカ、家庭用Hi-Fiシステムへのラインアウト接続などがある。ラインアウト接続には最も高い信号品質が求められ、低雑音・低歪みのD-Aコンバータと出力バッファが必要となる。実際のところ、ヘッドフォン出力はライン出力としても使用できることが多い。16Ωまたは32Ωのヘッドフォンを使用するよりも、ハイインピーダンスのライン負荷を使用した方がTHDがはるかに低くなるからだ。再生時における信号チェーンの雑音耐性は、信号振幅が大きいほど、録音時に比較して強くなる。しかし、ミックスドシグナル回路を使用する際の注意点は変わらない。すなわち、アナログとデジタルを分離することでアナログ電源に雑音が入らないようにし、アナログ信号をEMIから保護しなくてはならないということだ。

 信号がラインアウト接続に耐えうるほどの品質であれば、ヘッドフォンにも十分に耐えられるだろう。全体のパフォーマンスを決定するのは、電子部品よりも、むしろ変換器(トランスデューサ)であることが多い。内蔵スピーカで十分な音量を出すことが困難なことがある。磁石や振動膜の直径が小さいことがエネルギー効率の制約となり、信号レベルを上げようとすると歪みが発生するだけでなく、バッテリの消耗も早くなる。

 デジタル信号処理技術を用いれば、スピーカやアナログ信号パスにおけるピーク信号レベルを上げることなく、知覚音量を大きくすることができる。その方法の1つが、信号振幅が小さいときに利得を大きくする、動的圧縮である。この方法では、信号のダイナミックレンジを、フルスケール近くの狭範囲に絞り込む。

図3 動的圧縮(a)またはピーク制限(b)を使用することで、小型スピーカから得られる音量を大きくできる。
図3 動的圧縮(a)またはピーク制限(b)を使用することで、小型スピーカから得られる音量を大きくできる。 

 もう1つの方法が、ピーク制限である。フルスケールを超える信号を増幅した後、信号ピーク時のゲインを瞬間的に降下させることでクリッピングを回避する(図3)。実質的にこの方法では、元の信号のダイナミックレンジの最上部を圧縮し、それより下の部分を増幅している。これらの方法は信号のダイナミックレンジを小さくするもので、ヘッドフォンまたはラインアウト接続を使用する際に用いるべきである。

 小型スピーカのもう1つの問題は、低域応答がよくないことだ。バスブースト回路でもこの問題は軽減できるが、イコライザを使えばスピーカの周波数応答における問題も解決でき、より優れた結果を得られる。超小型スピーカで20Hzまでのフラットな応答を得られるかまではわからないが、バスブーストとイコライザを用いればかなり改善できる。1つ以上の周波数帯域に大きな利得をかける場合は、これらにピーク制限を組み合わせることで、信号のクリッピングを回避すべきである。動的圧縮、ピーク制限、バスブースト、イコライザは比較的低コストでオーディオチップに実装できる。他の信号処理機能と同様、汎用プロセッサ上でソフトウエアアルゴリズムを実行するよりも、専用ハードウエアやDSPを使用すれば消費電力が少なくてすむ。

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