規格競争の陰鬱
HPAが規格団体かどうかは議論の余地があり、欧州組織Opera(Open PLC Research Alliance)はDS2社の技術を採用したが、規格をめぐる争いは依然として平行線をたどっている。IEEE P1901委員会は、BPLと家庭内電力線ネットワークの両方に取り組んでいる。
仏Schneider Electric社のJean-Philippe Faure氏と、米Current Communications Group社のJim Mollenkopf氏が同委員会の共同委員長を務めている。BPLサービスプロバイダのCurrent Communications社と、BPL機器ベンダーのCurrent Technologies社は、両方ともCurrent Communications Groupの子会社だ。今やCurrent社がHomePlug陣営であることは明白であり、Schneider社はDS2社側に傾くと思われる。
しかし、Faure氏とMollenkopf氏には、コンセンサスを確立し、ベストな技術を公平に開発できる環境を作るという義務がある。Current社のチーフアーキテクトであるMollenkopf氏は、共同委員長の立場で、「私達は最も優れたソリューションを選ぶだけ」と述べている。同氏によれば、BPLは現在LVに主軸を置いているが、「おそらく、徐々にMVにシフトしていくだろう」という。同グループが求めているのは、100Mビット/秒以上でデータを伝送できる技術なのだ。
Mollenkopf氏は、P1901委員会の中で3つの業界コンソーシアムの活動が活発であることを認めている。DS2が主要メンバーであるUPA(Universal Powerline Alliance)、HPA、そしてCEPCA(Consumer Electronics Power-line Communication Alliance)だ。家庭内ネットワークに重点を置くCEPCAは、松下電器産業をはじめとする民生機器メーカーが推進している。Mollenkopf氏によると、Main.netは委員会に参加していない。
規格が問題?
いずれにしても、IEEEからすぐに規格が発表されることはない。IEEEは2005年夏に1つの案を検討し始めたばかりで、Mollenkopf氏は2006年末までに規格が承認されることを望んでいるが、同時にその予定が楽観的なものであることを認めている。多くの点で、このプロセスは複数の方式が混在していた他の通信技術と変わりないのだ。たとえば、DSLの初期の頃には、市場シェアを争っていた技術が少なくとも3つあった。プレーヤが規格問題に奔走している間にベンダーは互換性のない製品を出荷し続け、最終的には規格淘汰によって市場の受ける傷を最小限にとどめた。
しかしBPLは基本的に他のブロードバンド技術と異なる。DSLやケーブルの場合は、ブロードバンドアクセスネットワークが家庭内ネットワークから完全に切り離されている。それは、家庭内ネットワークにイーサネット、802.11、HomePlugのどれが使用されていたとしても関係ない。BPLは、家庭内ネットワークに電力線が使用されていても機能しなくてはならない。アクセス用ネットワークと家庭内ネットワークを切り離すゲートウェイもない。Mollenkopf氏は、「アクセス用と家庭内の両方に低電圧電力線を使用できるかどうかが最大のポイントだ。電力線にははっきりとした境界点はないのだから」と言う。
これが、BPLの最大の強みであり、アキレス腱でもある。HPAは「ブロードバンド・コンセント」のコンセプトを推進している。そこには、すべての電源コンセントからブロードバンドに接続できるというビジョンが描かれている。ゲートウェイもルーターもいらない。自室でもHomePlugモデムを使ってゲームコンソールを接続できるし、リビングでもHomePlugモデムを使ってセットトップボックスを接続できるし、オフィスでも別のHomePlugモデムを使ってパソコンを接続できる。電力会社のCinergy社と提携しているCurrent Communications社は、北米最大のBPLサービスの1つをシンシナティ地域で展開している。Current社の製品にはHomePlug 1.0準拠チップが採用されており、同社は「ブロードバンド・コンセント」モデルに基づいたBPLを販売している。消費者はHome Plug 1.0製品を購入して、各パソコンまたは各インターネット接続機器にインストールしなくてはならない。この作業はユーザー自身が行なわなくてはならず、それらの製品は大手小売店でも30米ドル以上で販売されている。BPLは対称帯域型であり、各モデムはトランスでブリッジ/ルーターと直接通信する。HPAとCurrent社は、この方式のほうがケーブルやDSLよりもパフォーマンスが高いと主張している。Current社が米オハイオ州シンシナティ市で提供しているサービスの月額利用料は、ユーザーが所有するモデムの台数に関係なく、1カ月27米ドルである。
「ブロードバンド・コンセント」のデメリットの一つにセキュリティの問題がある。物理的に一体化されたアクセス用ネットワークと家庭内ネットワークとの間に何らかの通信規格が絶対に必要である。たとえば、家庭内ネットワークを介してファイルを共有したいとき、2台のコンピュータを接続する電力線が、インターネットへの接続にも使用される。つまり、そのファイルは、隣家とも共有しているネットワーク上を移動することになる。ケーブルモデムにも同じことが言えるかもしれないが、ケーブル利用者のほとんどはケーブルモデムをファイアウォール/ルーターに接続しているため、家庭内ネットワーク上のデータ転送はファイアウォールの内側で発生する。HPAのシナリオでは、2台のHomePlugモデム間のデータ転送を保護するのは内蔵の56ビットDES(data encryption standard:データ暗号規格)のみであるが、そのうちにより強力なセキュリティ対策を講じるだろう。
アクセス用と家庭内用で互換性のある規格として、HPAは両方に同じMAC(media access controller)層とPHY(physical)層を使用する決定を下した。HPAは、2006年半ばの導入を予定しているHomePlug BPLの仕様に、すでにHomePlug AVで採用されているMACとPHYを使用すると発表した。
アクセス用と家庭内用の物理的なネットワークを一本化するという考えに誰もが賛同しているわけではない。たとえば、米Motorola社は、HomePlug 1.0チップを搭載したPowerLine LVというブランド名のBPL機器を提供している。主任エンジニアのDick Illman氏は、「当社のモデルは依然としてDSLモデムやケーブルモデムと非常によく似ている。一家庭につき1クライアントというのが我々の考えだ」と述べている。Motorola社ビジネスディベロップメントマネジャーのMary Ashe氏は、ユーザーの大半が802.11またはイーサネットを家庭用ネットワークとして使用すると予想している。
Motorola社はHomePlugチップを使っているが、暗号化・認証機能を強化している。したがって、Motorola方式のBPLを採用したユーザーは、小売店で売られているモデムを買うのではなく、サービスプロバイダから提供されるモデムを使用しなくてはならない。つまり、より高価なモデムを買わされるわけだが、Ashe氏はそれでも100米ドルもしないと言う。システムは依然としてユーザーが自分でインストールしなくてはならない。Illman氏は、Power Line LVモデムはHomePlug家庭内用ネットワークと共存すると主張するが、帯域幅の問題がある。CSMA/CA(carrier sense multiple access with collision avoidance)MAC方式では、両方のネットワークから電力線にアクセスできる。
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