プリント回路基板上の配線のインピーダンス特性の測定には、TDR(time-domain reflectormeter:時間領域反射測定器)がよく使われる。終端処理されていない長い配線にTDRを接続し、非常に高速で精密な立ち上がりエッジを配線に一回入力する。そしてその配線からの反射信号を解析することで、配線インピーダンスを算出できる。特に高速測定の際には、ノイズフロアを低減するために平均化する装置もある。
通常の設定において、TDR装置は、反射信号の最初の数ns分しか使用しない。最初のステップエッジが、終端していない配線の遠端まで伝播した後、信号が反射してTDR装置に返って来るため、2つ目のエッジ以降はインピーダンス特性の読み値にはならない。図1は、その典型的な波形を示したものである。上側の曲線(TDR:赤線)は、プリント回路基板の始端で観測される典型的な信号の変化を表したもので、最初のTDRステップ(1つめのエッジ)と、配線の遠端からの反射信号(2つめのエッジ)がプロットされている。
下側の曲線(青線:見やすいように下にずらして表示されている)は、TDR波形から算出したものである。つまり、Sパラメータ関数S11のステップ応答である。周波数領域では、S11(f)は(2×(j2πf)×TDR(f)−1)となる。S11のステップ応答は、送信される信号を除いた配線からの反射信号のみを示している(1を差し引くことにより得られる)。
S11のステップ応答には台状の立ち上がりがあり、その振幅から1ns程度に相当する配線部分の実効インピーダンスを得ることができる。最初のステップの後、S11のステップ応答は緩やかに上昇する。この上昇勾配は、表皮効果に起因する損失が非常に大きいことを示している。
通常、2つめのエッジまでがTDR波形において有効なデータとみなされる。その後の波形にも配線の損失およびインピーダンスに関する情報が多く含まれているにもかかわらず、その内容は破棄されてしまうのである。しかし、この2つめのエッジ以降に隠された情報を得る手段は存在する。
ここにその方法を示そう。まず、測定は1回だけではなく2回必要となる。1回目は通常どおり、遠端を開放した配線で測定する。2回目は、配線の遠端をグラウンドに短絡させて測定を行う。そして、両者の測定結果をFFT(高速フーリエ変換)によって周波数領域に変換するのである。
FFT計算については、装置のヘルプ画面で「FFTウィンドウ機能」を検索するとよい。時間領域ウィンドウにより、パルスジェネレータの不要な降下エッジはうまい具合に除去される。例えば周波数領域出力における波形の乱れなどの副作用は起きない。また、ウィンドウ処理前の波形を微分して、後で周波数領域形式で再現する際に有用となる場合もある。
次に、2つのTDR測定結果を、S11(f)=(2×(j2πf)×TDR(f)−1)を用いてS11形式に変換する。
得られた2つのS11関数と、TDR測定装置のソースインピーダンス ZS(f)(通常は50Ω)から、プリント回路基板配線の特性インピーダンス ZC(f)を算出できる。以下に示す計算式は、測定した波形の全長に相当する周波数で有効であり、TDR測定時の反射時間に制約されるものではない。
周波数領域におけるこの巧妙な手法は、ネットワークアナライザ用のSMAケーブルを較正する際に一般的に用いられる方法を応用したものである。
<筆者紹介>
Howard Johnson
Howard Johnson氏はSignal Consultingの学術博士。Oxford大学などで、デジタル・エンジニアを対象にしたテクニカル・ワークショップを頻繁に開催している。ご意見は次の電子メールアドレスまで。www.sigcon.comまたはhowie03@sigcon.com。
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