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究極のセキュリティ技術?量子暗号(3/5 ページ)

量子暗号は、アルゴリズムの複雑さではなく、量子力学理論と単一光子の組み合わせを用いた物理学で安全性を実現する技術である。

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光子を1個だけ取り出す

 QCシステムの実装には多くの機能ブロックと機器が必要になる。そのほとんどは標準的なものだが、例外もある。BBN社の主席技師を務めるChip Elliott氏とプログラムマネジャーのHenry Yeh氏は、他のスタッフとともに大変な労力をかけてシステムの実装に取り組んだ(図2)。


図2 米BBN社のHenryYeh氏(向かって左)とChipElliott氏(右)。DARPAが援助するQCプロジェクトのリーダーを務める。
図2 米BBN社のHenryYeh氏(向かって左)とChipElliott氏(右)。DARPAが援助するQCプロジェクトのリーダーを務める。 

 現在、このQCシステムのノードはBBN社、ハーバード大学、ボストン大学フォトニクスセンターにあり、商用ダークファイバが未使用の状態で既に約19kmにわたって敷設されている。BBN社はNIST(米国標準技術局、http://www.nist.gov)の技術者とともに、BBN社から隣接ビルへの自由空間リンクも開発した(図3)。このシステムは単なるポイントツーポイントの単一プロトコルトポロジではない。各ノードにはQCを利用してデータを捕捉、復元、再暗号化、再伝送するための電気光学中継器があり、異なるデータプロトコルが使用される。

図3 このQCシステムのノードは、マサチューセッツ州ケンブリッジ市内の2カ所(「Alice」と「Bob」の拠点であるBBN社と「Anna」のハーバード大学)、そしてボストン市内のボストン大学(Boris)にある。
図3 このQCシステムのノードは、マサチューセッツ州ケンブリッジ市内の2カ所(「Alice」と「Bob」の拠点であるBBN社と「Anna」のハーバード大学)、そしてボストン市内のボストン大学(Boris)にある。
図4 既知の量子状態をもつ単一光子を発生させるために、レーザー光で非線形結晶を励起し、同じ量子状態をもつ光子対を生成する。
図4 既知の量子状態をもつ単一光子を発生させるために、レーザー光で非線形結晶を励起し、同じ量子状態をもつ光子対を生成する。

 QCシステムには、単一光子源とそれに対応する単一光子検出器が不可欠である。BBN社のシステムには単一光子を生成するための方法が2つある。1つは、レーザーを使用してその出力をフィルタリングする方法であり、もう1つは量子もつれ光子を発生させる方法である。1つ目の方法では、フィルタがレーザー出力を著しく減衰させるか、位相変調パスがフィルタとして機能し、光子を分離させる。このレーザー光をフィルタリングする方法は、原理としては量子もつれ光子の方法よりも簡単だが、厳密に1つの光子だけを通過させるのは難しい。フィルタを通過して減衰した出力は、1個、2個、あるいは3個の光子で構成されている可能性もある。量子の世界では、光子の数は確率論では受け入れられない正確さを暗示しているのだ。

 量子もつれ光子を利用する方法では、レーザー光を非線形結晶にあてる*2)(図4)。入射する光子が結晶を励起し、これによって反対の方向性をもつが量子状態が同じ光子対が生成され、放出される。この光子対を、量子もつれ光子と呼ぶ。この方法には、なんらかの光フィルタリングと特殊な鏡も利用される。BBN社も利用しているこのシステムの利点は、光子対の一方を観察することで、その対についての情報が分かることである。BBN社のElliott氏は、RFや電気通信分野のエンジニアには分からなくても、量子物理学の研究者たちには聞きなれたこの言葉でポイントを突いている。「何かを見るときは十分に気をつけることだ。一瞬の行動がすべてを決定する」。

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