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マルチメディア携帯電話機の電力管理(2/2 ページ)

アジアその他の市場では、デジタルテレビやストリーミングビデオ・音楽を楽しめるハンドヘルド機器の開発が進んでいる。その技術は素晴らしいが、設計者は小型化・省電力化を実現しながらマルチメディア機能を搭載するという難題に直面している。

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オーディオ再生の課題

 ポータブルマルチメディア機能を携帯電話機に搭載するにはオーディオアンプに関して問題が2つある。1つは、マルチメディア電話機では音楽やビデオを最低でも2時間連続して再生できなくてはならないということだ。マルチメディア電話機ではオーディオ再生時間の長さが選択基準の1つとなる。2つ目は、モバイル機器のオーディオ品質を家庭用オーディオシステムのそれに近づけなくてはならないということだ。ユーザーはバスブースト機能を持ち低ノイズで高出力のステレオオーディオを求めている。今日の携帯電話機にはClass AB(AB級)のオーディオアンプが使われている。典型的なClass ABのオーディオアンプは、THD+N(全高調波歪+ノイズ)が0.1%未満の高品質オーディオを実現する。これらのアンプはPSRR(power supply rejection ratio)も高く、Class ABアンプのリニア特性により基板上のRFシステムに干渉することもない。電力効率は低いが、ハンズフリースピーカや音声・着メロ再生など、短時間の低電力オーディオアプリケーションには広く使われている。

 しかし、モバイルメディアプラットフォームではMP3が一般的なアプリケーションになり、再生時間が数分から数時間に延びてきていることから、電力効率が低く放熱量が大きいClass ABでは要件を満たせなくなってきた。現在の新しい設計には代わりにClass D(D級)のオーディオアンプが採用されている。標準的な携帯電話機で、オーディオアンプの定格消費電力は100mW未満、最大出力電力は700mWである。典型的なClass ABのオーディオアンプとClass Dのオーディオアンプの効率性を比較してみると、50mWでのClass Dアンプの電力効率が80%であるに対し、Class ABではわずか20%である。100mW〜500mWの動作電力になると、Class Dアンプは安定して85〜90%の効率性を示すのに対し、Class ABは30〜60%にとどまる(図3)。

図3 Class Dのアンプが安定して85〜90%の電力効率を実現するのに対し、Class ABでは30〜60%にとどまる。
図3 Class Dのアンプが安定して85〜90%の電力効率を実現するのに対し、Class ABでは30〜60%にとどまる。 

 電力効率が低いために高熱を発するClass ABのオーディオアンプは、飽和あるいは歪みを発生させることなく1W以上の出力電力を供給できるほど頑強ではないということになる。Class Dアンプはそのスイッチングモード動作により、オーディオ信号を効率的に増幅して高い出力電力を供給し、大音量のオーディオ再生を可能にする。8Ωのスピーカに対しては最大1.4Wを、1%未満のTHD+Nで出力できる。低い周波数のサウンドを生成するにはかなりの電力が必要となるため、特にスピーカの面積が小さい場合には、このアンプの電力が重低音の再生に役立つ。音楽やゲームのオーディオ再生では重低音を再生できることが重要なポイントである。

 MP3プレーヤには(そしておそらくは将来のモバイルメディアデバイスにも)4Ωステレオスピーカ付きの外部クレードルがよく使われる。これがオーディオアンプに関するもう1つの課題で、5V〜5.5Vの高い電圧でクレードルを動作させることで解決できる。ただしこの方法には、ステレオアプリケーションに必要な2つのClass Dアンプに安定して5Vの電力を供給するためのDC-DC昇圧コンバータが必要となる(図4)。

図4 DC-DC昇圧コンバータを使えば、ステレオアプリケーションに必要な2つのClass Dアンプに安定して5Vの電圧を供給できる。
図4 DC-DC昇圧コンバータを使えば、ステレオアプリケーションに必要な2つのClass Dアンプに安定して5Vの電圧を供給できる。 

EMIに関する注意点

 Class Dアンプは周波数一定のPWMスイッチングモードで動作する。つまり、近くにあるRF回路の動作に干渉するEMIを生成する可能性がある。RFシステムへのEMI干渉を防ぐ手段は2つある。1つは、Class Dアンプをスピーカの近くに置くことだ。ステレオアプリケーションの場合は、1つのステレオチップではなく2つのモノラルアンプを使う。そうすれば、普通は端末の両側にある2つのスピーカの近くにそれぞれアンプを配置することができる。この作業とは別に、設計者はフェライトビーズなどのEMIフィルタをアンプの出力に接続する必要がある。EMIフィルタは、オーディオ出力からの高周波スイッチング信号がRF回路に伝播される前に除去するバンドパスフィルタとして機能する。

 今や成熟市場と発展途上市場の両方で、携帯電話機の代わりにモバイルマルチメディア機器を普及させようとする動きが活発化している。この新しいモバイルメディア市場をにらみ、ベンダーは電源メーカーが追いつけないほどのペースでプロセッサをアップグレードし、チップセットを出荷し始めている。そのため、新しいモバイルメディア機器の設計者は、システム要件を満たすと同時に短期間で新型モデルを開発するために、独立した電源やオーディオ機器を使うほかない。

 最新の同期降圧コンバータは電力効率が高く、組み込みも簡単で、これを使えば設計者は低コストで小型システムを開発できる。同様に電力効率の高いClass Dのオーディオアンプを使えば、新しい市場に求められる長時間オーディオ再生が可能となる。またClass Dアンプの高出力電力により、MP3やテレビ機能、ゲーム機能に不可欠な迫力のあるサウンドを実現できる。

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