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携帯機器の消費電力はこうして抑えるきめ細かに電力管理

携帯電話機の機能拡張と小型化がますます進み、ポータブル・マルチメディア・アプリケーション向けLSIにおける高集積化がこれまで以上に求められるようになってきた。加えて、高品質なオーディオと大音量スピーカに対するユーザーの要望も強くなってきた。しかし、そのために電池の使用時間が短縮されることは許されない。きめ細かく柔軟に電力を管理したり、D級アンプを採用したりすることで、オーディオ回路の電力効率を最大限に高めることができる。

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 最新の携帯電話機において、映像や画像の処理、音声認識、MPEG復号など、より複雑な信号処理機能が求められるに連れ、消費する電力は増大する傾向にある。映像の再生、モバイルTV、ゲームなど、マルチメディア機能をサポートすることも、電池の使用時間に影響を及ぼす。旧式の携帯電話機では、着信音を数時間に1回、数秒間再生するだけでよかったため、モノラルのラウドスピーカで十分であった。しかし最近のマルチメディア携帯電話機には、テレビストリーミングやゲームなどのアプリケーションが搭載されており、それらに対応するステレオスピーカを内蔵している。ステレオスピーカは、モノラルスピーカに比べて約2倍の電力を消費する。動画を10分間再生した場合には、モノラル着信音を10秒間鳴らした場合の120倍にも相当する電力が消費される。また、最近では大音量への要求も強く、1W出力のスピーカがごく一般的に使われており、電池の使用時間への影響が問題視されている。

 最小限の消費電力でより多くの機能を追加するためには、無駄になっている部分や効率の悪い部分がないか設計段階で細かく調べて、できる限り電池を有効に活用するよう努力しなければならない。また、電池の使用時間を少しでも長くしたいというこのような要求に基づき、D級アンプ技術が注目されている。これにより、オーディオ回路における最も非効率的な部分を除去できるからである。さらには、消費電力を上げずに、しかもレギュレータや受動部品などの外部部品を追加することなくオーディオ品質レベルを改善するという課題もある。

 以上に述べたような設計上の複雑な問題を解決するため、「オーディオハブ」という新たなコンセプトが生まれた。これによって上記のような問題が解決されつつある。

オーディオハブのコンセプト

 オーディオハブが開発された主な目的は大きく次の3つである。1つ目はアクティブモードおよびスタンドバイモードにおける消費電力を低減すること。2つ目は、オーディオ品質の向上。これは単に主要部品のSN比(信号対雑音比)や全高調波歪率(THD)を改善するだけにとどまらない。他の部品が生成するノイズを除去すること、ポップ、クリック、ジッパーノイズやその他の過渡現象をなくすこと、高い音量レベルにおいても高い音質を維持することなど、エンドユーザー側から見てオーディオ性能の向上につながるものすべてを含む。3つ目は、プリント基板の実装面積と部品数を削減することである。

 携帯電話機を含むポータブル・マルチメディア機器は、さまざまなデータ形式のアナログ/デジタルオーディオソースを扱う。イヤースピーカ、ラウドスピーカ、ヘッドホン、ヘッドセットなど種々の部品を通して外界へ出力するために、それぞれのオーディオソースを変換したりミキシングしたりする処理が必要となる。プリント基板上の占有面積を縮小し、コストを削減し、設計を簡略化するために、これらのオーディオ処理機能を1個のLSIに集積することができれば非常に便利だ。このLSIがオーディオハブである(図1)。

図1 一般的なポータブル・マルチメディアシステム
図1 一般的なポータブル・マルチメディアシステム

 オーディオ機能への電力供給は、オーディオハブ機能を持つLSIの中で最も多種多様な部分である。一般的には、電圧、電流、ノイズ特性がそれぞれ異なる3〜4個の回路ブロックがある。オーディオハブは、これらの回路ブロックのさまざまな制約を考慮して設計する必要がある。オーディオ信号を劣化させることなく消費電力を低減することが、電池の使用時間を短縮させずにHi-Fi品質の音楽を再生するポータブル・マルチメディア機器を提供するための鍵である。この実現には各回路ブロックに対して、それぞれ異なる電源電圧を適用する必要がある(図2)。

図2 信号処理ブロックごとの電源電圧
図2 信号処理ブロックごとの電源電圧

デジタル回路は電圧を下げて消費電力を抑える

 オーディオ回路では、全体の消費電力を抑えるために、デジタル回路部とアナログ回路部を分けて電力を供給するとよい。I/O部分を除くデジタルコア部では、電圧を下げてもオーディオ品質には影響しない。消費電力を抑えるため、デジタルコアには最低限の電圧を供給すればよい。そこで、リニアレギュレータに比べてかなり効率が良いDC-DCコンバータを使用する。また、アナログ回路においてはノイズをできる限り抑えるために安定した電圧供給が必要となる。そのため、DC-DCコンバータの高周波スイッチングによる電源リップルが問題となるが、デジタルコア部ではあまり気にしなくてよい。

 同様に、デジタルI/Oバッファ電源の電圧を下げることにより、オーディオ品質を下げることなく消費電力を低減させることができる。しかし実際には、オーディオハブ機能を持つLSIと、通信相手のデバイスとの電圧レベルを合わせるため、この部分の電圧はデジタルコアの電圧よりも高くなることが多い。

アナログ回路はきめ細かく電力管理

 A-DコンバータやD-Aコンバータ、ミキサー、アンプ、マイクインターフェースなどのアナログ信号を処理する回路は、デジタル回路とは異なり、ノイズの影響を非常に受けやすい。SN比はアナログ回路の電圧を上げることにより改善できるが、消費電力は増大してしまう。このため、目標とするオーディオ品質と消費電力のバランスを考えてシステムを設計する必要がある。

 オーディオハブ機能を持つLSIの、アナログ回路における消費電力を下げるために最も重要となるのは、用途に関係のない回路は無効にできるよう、きめ細かい制御が可能な電力管理機能を提供することである。例えば、オーディオハブ機能を持つLSIのほとんどは、A-DコンバータとD-Aコンバータを少なくとも2つずつ備えている。しかし、実際には、音声録音機能では1つのA-Dコンバータのみ、PCM音声通話ではA-DコンバータとD-Aコンバータが1つずつ、MP3再生では2つのD-Aコンバータが使用できればよい。また、消費電力とオーディオ品質のトレードオフが存在する特定の回路に対しては、低電力モードを提供する。例えば音声通話時などのように品質要求があまり高くない場合には、低電力モードに設定し、適切なレベルに性能を落として使うとよい。携帯電話機の機能の増加に伴い、オーディオハブ機能を持つLSIの無駄な電力消費をなくすためには、さまざまなブロックを細かく制御することが不可欠となる。

最も電力を消費するスピーカ部の対策

図3 ポータブル・マルチメディア・アプリケーションにおける一般的な電力供給方法
図3 ポータブル・マルチメディア・アプリケーションにおける一般的な電力供給方法  

 スピーカアンプとヘッドホンアンプには、別々の電源が使われることが多い。スピーカアンプに供給する電圧は、出力電力を最大限にするために、ほかのアナログ回路に供給する電圧よりも高くする。スピーカアンプの負荷電流が多い場合には、供給電圧の低下を防ぐため、スピーカアンプ用の電源を別に用意する。こうすることで、他のアナログ回路がスピーカアンプへの電力供給による影響を受けないように隔離できるという効果がある。


図4 スピーカアンプにおけるリーク電流の影響
図4 スピーカアンプにおけるリーク電流の影響 

 スピーカアンプには高い電圧を供給することが望ましいが、追加部品が必要となり、コストも増加する。また、スピーカアンプだけのために電源電圧を上げることは現実的な選択ではない。以上の理由から、スピーカアンプ用電源は、電池に直接接続する方法がよく使われる(図3)。

 オーディオハブ機能を持つLSIのスピーカアンプ用電源が常に電池に接続されていると、デバイス内部に常にリーク電流が流れることになり、消費電力が増大する。エンドユーザーはこれを許容しない。他の回路が使用中か否かにかかわらず、スピーカアンプのリーク電流が少ないことは不可欠である(図4)。

D級アンプが消費電力を抑える鍵を握る

 スピーカアンプに使用される技術は、システム全体の電力効率に与える影響が最も大きい部分である。AB級スピーカアンプを使う場合、通常、スピーカに伝送される電力よりもデバイス内で浪費される電力の方が大きいため、電池の使用時間が短くなり、デバイスがオーバーヒートする危険性もある。

 例えば、40%の効率で1チャンネル当たり1W供給するAB級ステレオスピーカアンプは、5Wもの電力を消費する。そのうち3Wがデバイス側で熱となって消費されてしまうわけだ。アプリケーションによっては、そのほかのすべてのオーディオ関連電力を合わせてもAB級ステレオスピーカアンプより2桁以上も消費電力量が小さいものがある。このことからも、従来のAB級スピーカアンプが、どれだけ電力効率を下げ、電池の電力を消費しているかがわかる(図5)。

図5 AB級スピーカアンプとD級アンプの電力効率比較
図5 AB級スピーカアンプとD級アンプの電力効率比較

 D級スピーカアンプは、電力効率の向上と電池の使用時間の延長に貢献し、また熱処理の問題を緩和するものとして広く使われるようになってきた。

 映像再生、ゲーム機やそのほかのマルチメディア機能をサポートする携帯機器向けアプリケーションでは、ラウドスピーカがアクティブ状態となっている時間が非常に長い。電池の消費量を減らすには、D級スピーカアンプの技術を使うのが効果的である。携帯電話機も少し前までは、着信音再生時などのラウドスピーカがアクティブである時間は比較的短かった。しかし現在では、スピーカアンプをより長時間利用する、スピーカホンやマルチメディア・ストリーミング機能をサポートするものが増えてきた。このため、AB級スピーカアンプの代わりに、D級スピーカアンプの技術がますます携帯機器の設計に使われるようになってきている。

オーディオハブの特徴

 オーディオハブは、FM受信機、マイクなどとのハードウエア的なインターフェース機能を持つだけでなく、送信/受信音声データ、着信音、Hi-Fiライン入力といった、振幅、ソースインピーダンス、DCオフセット、帯域幅が多種多様なアナログ信号とのインターフェースも備える。柔軟な入力構成を持つため、このような異なるシステムアーキテクチャにおける多様な信号特性をサポートすることができる。

 デジタルデータソースにも、さまざまなデータ形式、ワード長、およびサンプルレートが存在する。通話モードでは通常、PCM形式の8kHzモノラルデータを処理できれば十分だが、デジタル音楽再生機能を実装すると、例えば、サンプリング周波数44.1kHzの16ビットI2Sフォーマット ステレオデータのように、複数のサンプルレート、ワード長、データ形式を処理する機能が必要となる。柔軟なデジタルオーディオ・インターフェースやクロックスキームと、Hi-Fi品質のデータ変換機能を備えるオーディオハブがあれば、携帯機器にミックスドシグナル部品を追加することなく、1つのLSIでデジタル音楽の再生が可能である。

 オーディオハブにおいてアナログ領域でミキシングを行うことにより、サンプルレートの変換はより簡単になる。また柔軟なミキシングパスにより、新しいアプリケーション機能が実現できる。オーディオハブ機能を持つLSI*1)は、マイク入力、デジタル音楽、FM受信機、受信音声データのあらゆる組み合わせをミキシングすることができ、このミキシングされたデータを再デジタル化することにより、カラオケ録音などの機能も提供できる(図A)。

図A オーディオハブコンセプトのイメージ図
図A オーディオハブコンセプトのイメージ図

オーディオ品質を高める

図B 電池の電圧と時間の関係
図B 電池の電圧と時間の関係 

 ポータブル・マルチメディア機器では、オーディオ品質にも気を配る必要がある。ノイズの少ない安定した電圧を維持することも、電源ノイズによるオーディオ品質の低下を防ぐために重要である。電源電圧変動の除去には巧妙な設計と差動技術が必要だが、電源電圧変動除去比(PSRR)が高いリニアレギュレータがオーディオハブのアナログ回路用の電源として使われることが多い。リニアレギュレータの出力電圧は、電池放電時に高いPSRRレベルを維持するのに最低限必要な入力電圧よりも十分に高くすることが重要である。ポータブル・オーディオ・アプリケーションでは、2.7Vから3.0Vのアナログ電源が一般的である(図B)。

ポップノイズ、クリックノイズの抑制

 オーディオ回路セットアップ時にポップノイズやクリックノイズが入ると大変耳障りなため、システム開発時にはこれらのノイズを除去するために多大な努力が費やされている。ポップノイズやクリックノイズを抑制する統合されたメカニズムを持つオーディオハブデバイスは、さらに開発時間を短縮し、オーディオ品質の知覚レベルを改善することができる。興味深いことに、ポップやクリックなどの不快なノイズが少ない高品質なオーディオは、ビデオ画像の知覚品質も向上させる効果がある。

スピーカアンプへ直接電力を供給する際の留意点

図C スピーカアンプにおける低PSRRの影響
図C スピーカアンプにおける低PSRRの影響 

 スピーカアンプ用電源を電池に直接接続する方法にも課題がある。電池のノイズレベルが高くなりやすいのだ。このノイズは、携帯型プレーヤにおけるハードディスクドライブの動作や、携帯電話機における通信時のRFパワーアンプによるパルス生成などにより、システムの他の部分において負荷電流の変動を激しくさせる。このことで電圧降下を招きかねない。また、スピーカアンプ用電源を直接電池に接続する場合には、このノイズがスピーカから出力されないように、スピーカアンプのPSRRを高くする必要がある(図C)。


大音量を出力するために

 ポータブル・マルチメディア・アプリケーションにおいて、ラウドスピーカから最大限の音量を得るには、スピーカアンプのダイナミックレンジをフルに活用しなければならない。スピーカアンプの入力信号は、より低い電圧が供給されている別の回路から入力されるため、スピーカアンプで信号を増幅しなければ、利用可能なレンジをフルに活用することはできない。また波形のクリッピングを防ぐために、コモンモードのレベルシフトも必要である。こうしたことから、外部のスピーカアンプを利用する方法もよく使われるが、その場合にはこれらのAC/DCゲインの値を設定するための受動部品を追加する必要がある*2)(図D、E)。

図D 外部スピーカアンプの利用による部品数の増加
図D 外部スピーカアンプの利用による部品数の増加  
図E スピーカ音量を最大にするための内部信号増幅
図E スピーカ音量を最大にするための内部信号増幅 


脚注

※1…Wolfson社が「WM8983」、「WM8985」などの製品を提供している。

http://www.wolfsonmicro.com/index.jsp

※2…Wolfson社の「WM8960」のような製品では、スピーカアンプとゲイン調整回路が集積されているため、面積とコストの両面で節約が可能である。

http://www.wolfsonmicro.com/index.jsp


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