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ビデオアーキテクチャの正しい選択ここが差異化のポイント(1/3 ページ)

携帯機器向けのデジタル放送と“iPod現象”がモバイルテレビ市場の競争に火を付けた。それを支えるアーキテクチャの違いが焦点となっている。

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 ついに手のひらサイズのビデオプレーヤが登場する。民生電子機器メーカーは携帯型DVDプレーヤから「Video iPod」競合製品へと開発ターゲットを移しつつある。新しいDVB(digital video broadcast:デジタルビデオ放送)規格に対応できるモバイルテレビに誰もが注目している。すでに、VGA(video graphics array:640×480画素)の解像度に近い映像が携帯電話機で見られるようになってきている。そして、これらすべての市場で最も期待されているのが、高品位テレビ(HDTV)に対応した携帯機器の登場である。

 携帯電話機の代わりに数百米ドルもする新しい「おもちゃ」を買うよう消費者に訴える民生電子機器/携帯電話機メーカーにとって、このような動きは追い風となるだろう。しかし、携帯機器でHDTVを見たいという要望が強くなるほど、システム設計者は大きな課題を抱えることになる。また、システム仕様の設計者は多様なハードウエアの中から何を選択すべきかという問題に直面することになる。

OEMメーカーのジレンマ

 機器の設計者が最初に見極めなくてはならないのは、開発作業の工数がどれだけ必要になるかということだ。ほとんどの場合は、UI(user interface)ソフトウエアや基板設計データ、筐体などを含めた完全なシステム設計のライセンスを取得して、単にOEM企業に製造させている。この方法であれば開発費を最小限に抑えることができる。しかし、リファレンス設計ベンダーを賢く選択すること以外に他社との差異化を図る道はない。これと対照的な方法は、ほぼ白紙の状態からシステムを開発する方法である。IP(intellectual property)コアの開発から始めてSoC(system on chip)や基板を設計し、周辺機能を選択する。この方法では大きな差異化を図れるが、独自のデジタルビデオ信号処理技術がない限り成功する保証はなく、実現するまでに50人/年の開発リソースを要するかもしれない。

 「顧客は完全なソリューションほどにはリファレンス設計に期待してはいない」と、米Analog Devices社のエンジニアであるJosh Kablotsky氏はいう。「彼らは差異化を図りたいとは思っているが、同時に複雑なことはすべてチップメーカーに任せたいと考えている」と同氏は続ける。

 「アルゴリズム」、「システムリソース」、「消費者の体験」の関係は非常に複雑である。システム開発の根幹を成すのはハードウエアとソフトウエアの両方だが、デジタルテレビ分野で長年の経験を持つ一部のメーカーを除き、そのような専門技術をほとんど理解していないのが一般的だ。従って、エキスパートの地位を確立しようとしている半導体メーカーにこれらの問題解決を委ねることは理にかなっている。

 しかし、この考えは機器メーカーと半導体メーカーの両者にとって深い意味を持つ。機器メーカーにとっては、自社の機器設計をブラックボックスとして受け入れることを意味する。機器メーカーが設計を変更できる部分はわずかで、市場でのポジションを確立していくにも決められたロードマップに従わなくてはならない。しかも、変更が可能な範囲やロードマップがどのような方向に向かっているのかを、リファレンス設計メーカーが行うデモや簡単な説明だけで判断することが求められる。

 半導体メーカーにとって、リファレンス設計の重要性が増すということは、自社内に優秀な設計チームを抱え、大事に育ててきたアーキテクチャが、顧客にほとんど無視されることを意味する。「顧客は自らが抱える問題の解決策が欲しいだけだ。アーキテクチャに基づいて選択することはない」と、Kablotsky氏はいう。つまり、これらの市場で競争するということは、半導体メーカーがハードウエアやコーデック、アプリケーションソフトウエア、OS、UIツールを含めた完全な製品を提供しなければならないことを意味する。顧客が半導体メーカーから購入したい主な製品はソフトウエアモジュールのAPI(application programming interfaces)であり、ハードウエア基盤ではない。チップ開発者がソフトウエアメーカーを引き付けるための強力なAPIを提供できるかどうかである。アーキテクチャは間接的にシステム設計上の問題となる。

システムを熟知したOEMメーカー

 システムを熟知したOEMメーカーは、こうした繊細な問題にバランス良く対処している。米Fast Forward Video社は、1999年からJPEGベースのデジタルビデオレコーダサブシステムを開発している。同社は基板レベルの設計を行い、できるだけFPGAやASICを使わずに標準IC製品を用いるようにしている。カスタムのハードウエアではなく、ビデオ信号処理アルゴリズムに関する豊富なノウハウで差異化を図っている。他社製チップを使うのなら、これも1つの手である。「一番の課題は、外部とディスクドライブの間のデータフローを妨げないことだ」と、Fast Forward社の社長であるPaul DeKeyser氏はいう。この課題を解決するために、同社は対象としたすべてのJPEGチップの内部を徹底的に調査した。「2つ目の課題は、期待した結果が得られるコーデックを選択することだ」と同氏はいう。このために同社はJPEG-2000コーデックを使っている。「マルチパスエンコードを実行できなければ、フレーム内のエンコードを行うどの仕組みでも画像上の問題が生じる」と同氏は指摘する。

 最も難しいことの1つは、ディスクドライブの遅くて不規則な速度にコーデックの可変データレートを合わせることである。「最初に米LSI Logic社製のチップセットを試してみた。JPEGには対応していたが、データレートが非常に変化しやすいという問題があった」とDeKeyser氏は語る。現在、Fast Forward社は米Zoran社製チップを使用している。「JPEG-2000では、データレートが可変となっている。チップがターゲットのデータレートを追跡し、その平均値をターゲットに近づけようとする。これはZoran社製チップの特徴の1つである」と同氏はいう。

 Fast Forward社はチップに関してかなり深い知識を蓄えつつある。JPEGエンジンがユーザープログラマブルであるというような多くのユーザーが気付かないことまで知っている。データレートと画質のバランスを取るため、同社はハフマン符号化テーブルなどに関して内部的な実験も行っている。「どのチップにはどのようなレジスタ設定が最適か、といった知識まで、チップメーカーさながらに蓄積されてきた」とDeKeyser氏はいう。しかし、こうした知識を生かすためには経験が必要だ。その経験は、チップを選択しなければならない設計の最初の段階では得られない。従ってDeKeyser氏が指摘するように、設計チームはデモの評価結果をよく吟味する必要がある。例えばデモの内容がひどいものであったら、それはチップメーカーがデータコンバータの重要性を理解していないのかもしれない。逆に素晴らしいデモなら、そのメーカーがサンプルビットストリームに手を加えたからかもしれない。設計チームはチップの品質を見るだけでなく、アーキテクチャを決定する前にチップをどれだけ最適化できるかも予測しなくてはならない。そのためには自らの直感と、チップを使ったことのある知人からよく話を聞くことが重要だ。「当社ではまったく聞いたことのないような最新のチップは使わない」とDeKeyser氏は述べている。

基本はアーキテクチャ

 半導体メーカーは自社チップを搭載した完成システムを提供するだけでなく、多様なリファレンス設計の利用方法を提供しなくてはならない。リファレンス設計を完全なシステムととらえ、UIのみを利用したがる顧客もいれば、プラットフォームをホストCPU上で実行するAPIの集まりとしてとらえる顧客もいる。業界団体Khronos Groupが提供するロイヤルティフリーでクロスプラットフォームのAPIである「OpenMax」に準拠していれば、標準方式でコーデックの組み込みや取り外しが可能となる。さらにアプリケーションとコーデック処理の詳しい構造を理解して、コーデックのパラメータやDRAMとの間のデータフローを調整したいという顧客もいるだろう。Fast Forward社のように、個々のハードウエアブロックの動作をレジスタレベルで理解したいと考えている企業もある。半導体メーカーが多様なニーズに応えるには(特にコーデックとアプリケーションでパートナー企業への依存度が高い場合)、カスタマサポート業務の増加と頻繁に行われる設計のアップデートという負担を背負うことになる。半導体メーカーは、海外のサードパーティが作ったコーデックを最適化するために顧客の意見を聞くようになるかもしれない。

 リファレンス設計を目的に応じて利用できるかどうかや、顧客が設計を変更できることの有効性、設計変更できる範囲などは、すべてアーキテクチャで決まる。一部のアーキテクチャは特定の市場をターゲットにしたもので、ほかの用途に使用するのは実用的ではない。柔軟性と効率性という2つの相反する目標のバランスを取ることで、1つのハードウエアプラットフォームを使い多様な製品をカバーしようとする顧客もいる。その一方で、電力効率やコストを犠牲にしてでも、柔軟性と拡張性にこだわる顧客もいる。

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