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信号発生器を選ぶ、使う何年たっても変わらないその秘訣(3/3 ページ)

信号発生器を購入する際には、データシートを注意深く読み解く必要がある。印象的な機能を持ち、魅力的な価格で提供されるたくさんの製品の中から、自分の用途に合ったものを的確に選び出すのは意外に困難なことだ。そこで本稿では、信号発生器の選び方、さらには使い方においてポイントとなる事柄をまとめてみたい。

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AWGの仕組みは単純

 AWGは、SFGの欠点を補うために開発されたものである――この説明が成り立つならAWGについて理解しやすいはずだが、実際にはAWGはSFGよりも前から存在していた。SFGが大容量アプリケーションでのシェアを伸ばす一方で、AWGはハイエンドの信号発生器の主流として発展した。

 AWGの仕組みは単純である。DDSベースのクロックがカウンタを駆動し、そのカウンタが波形メモリーにアドレスを提供するだけだ。任意波形の生成に当たり、波形メモリーとしては常にRAMが使用される。ループや分岐機能を実現するシーケンスロジックは、カウンタの出力と波形メモリーのアドレスラインとの間に配置される。波形メモリーからのデータ集合はD-Aコンバータの入力となり、その出力信号がアナログ信号のコンディショニング機能を実現する回路に渡される。ブロック図を見ると、AWGにおけるアナログ信号のコンディショニング機能はSFGのそれとほとんど同じに見えるが、実際にはかなり異なるフィルタが使用される場合がある。

 パソコンにプラグイン可能なデータ取得用ボード上にD-Aコンバータを配置して、任意波形を生成することも可能だろう。しかし、厳密に言えば、そのようなボードはAWGの定義からは外れる。そのようなボードは、ループや分岐を実現するメモリーアドレッシングロジックを持たない。また、そのようなボードでもD-Aコンバータのオフセットやフルスケール出力電圧を狭い範囲で調整することならできるかもしれないが、例えばフルスケール出力を10.24Vから5.12Vに減少したいといった場合には、出力アッテネータ(減衰器)を独自に搭載する必要がある。つまり、抵抗分割などの方法を用いるか、D-Aコンバータへのデジタル入力を2で割るといった方法で対応しなければならないわけだ。一方、多くのAWGではそのような処理は不要で、広範囲のゲイン制御機能をあらかじめ備えている。

図6 LeCroy社の「PXA125」
図6 LeCroy社の「PXA125」 PXIベースの製品であり、125Mサンプル/秒の速度で2Mポイントにも及ぶデータ集合を基に波形生成を行う。同製品以外にも、モジュラ機器の形態の信号発生器が数社のメーカーから提供されている。

 上述したデータ取得用のボードはAWGでもSFGでもないが、実際のAWGやSFGはベンチトップ型の機器だけでなく、Compact PCIやPXIに対応したモジュール、PCIに対応した標準のパソコンプラグインとしても存在する。サプライヤとしては、米LeCroy社(図6)、National Instruments社、VXI Technology社などがある。

 出力信号のフィルタリング機能は、AWGとSFGとで大きく異なる部分だ。先述したように、SFGは比較的簡単な固定周波数のローパスフィルタでうまく動作する。一方のAWGでは、クロック周波数に対する一定の割合の値をカットオフ周波数(−3dB減衰する周波数)とするローパスフィルタが利用される場合がある。DDSベースのクロックを用いる場合、カットオフ周波数はDDSの出力周波数に対して一定の割合の値となる。しかしこの手法には、複雑かつコストがかかるという問題がある。そのため、実際の任意波形発生器では、スイッチによって切り替え可能な固定周波数のフィルタで代用していることもある。

 AWGにおいて、カットオフ周波数とフィルタのストップバンド応答の形状をユーザーが選択できるようにし、カットオフ周波数をクロック周波数に関連付けないことには利点がある。ユーザーがどの程度、複雑な波形を合成したいのかということについて、任意波形発生器の設計者には漠然としたイメージしかない。ある繰り返しレートに対し、複雑な波形ほど単純なものよりも高周波成分が大きくなり、より複雑なフィルタ構成か、より大きなカットオフ周波数か、あるいはその両方が必要となる可能性がある。

 この問題に対しては、DSPを使用して、D-Aコンバータに入力する前のデータの値を調整する方法が考えられる。これは、信号発生器の周波数応答を最適化し、フィルタ要件を低減する方法として有効かもしれない。マルチメディアの世界では、アップサンプリングと呼ばれるDSP技術によって、帯域幅が制限された離散データ集合に対して中間値を埋める手法が使用されている。この方法を用いると、サンプルデータからアナログ信号を生成するのが容易になる。このような手法は、信号発生器でも有効に利用できるかもしれない。しかしながら、現在販売されているベースバンド帯の信号発生器で、そのようなアプローチをとるものは存在しない。

十分な学習時間を確保せよ

 信号発生器のメーカーによれば、顧客が経験する最も大きな問題は次のようなことだという。それは、特に任意波形を定義する際に、あまり一般的に知られていない機能の使用方法を習得しなければならないということだ。

 多くの任意波形発生器では、機器とは別のコンピュータ上で波形定義ファイルを作成するためのアプリケーションを実行しなければならない。あるいは、波形定義用のアプリケーションを内蔵する製品の場合、それを実行することになる。そうしたアプリケーションを使用した経験がないユーザーは、現在必要としている複雑な波形を生成しながらその方法を学習すればよいと考えがちだ。しかし、そのような考えでいると、失望といらだちを感じてしまう可能性がある。なぜなら、波形定義用のアプリケーションを使用した経験を豊富に持つユーザーであっても、複雑な波形の生成には時間がかかるからだ。

 このようなアプリケーションの使用方法を習得するには、比較的単純な波形の定義方法の学習から始める必要がある。そのためには、差し迫った要求のないときに、十分な学習時間をとることが望ましい。基本的な操作方法を理解してから複雑な信号の定義に取りかかるようにするである。繰り返しになるが、差し迫った時間の制約があるときに、複雑な定義に挑戦するのは避けるべきだ。

 一般的に、信号発生器のユーザーインターフェースはそれほど複雑ではない。多くの製品では、フロントパネルに波形示画面があり、オシロスコープのような形状をなしている。ただし、この形状にだまされてはならない。こうした機器で、実際の出力波形を表示するものはほとんどない。この波形表示画面は、立ち上がり時間など、あくまでもユーザーが指定した波形の仕様を示すためのものである。

 波形定義データの分解能(ビット数)は重要だが、信号発生器の分解能は必ずしもフルスケール出力を2N(Nはビット数)で割った数に等しいとは限らない。また、D-Aコンバータや信号のコンディショニング処理回路には静的/動的なエラーがあるため、有効ビット数は少し小さい値となるだろう。さらに、広帯域幅の信号発生器では、実際のワード長と有効ワード長はどちらも小さくなることを忘れてはならない。有効分解能が16ビットで500MHzの帯域幅を持つ信号発生器があるとしたら、その価格は恐ろしく高いに違いない。

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