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周波数ドメインか、時間ドメインかSignal Integrity

計測精度や感度、ノイズフロアの低さ、自動校正機能などの点で、時間ドメインの計測器に、ネットワークアナライザを超えるものはない

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 プリント基板のパターン設計仕様を周波数ドメイン(周波数領域)で規定している例がしばしば見受けられる。これはなぜなのだろうか。

 ある設計仕様では、周波数11.2GHzにおけるパターン伝送損失が最悪時で3dB以下と規定されていた。しかし、この基板はデータレート(転送速度)が3.2Gビット/秒で動作する試験装置に組み込まれるものである。周波数11.2GHzという規定は、システムのデータレートに比べて異常なほど高いといえよう。この仕様は、システム設計者が、立ち上がり/降下時間が装置のデータレート間隔よりも十分に小さい極めてクリーンな伝送路を望んだ結果だと思われるかもしれない。しかし残念なことに、その希望が仕様に正しく反映できているとはいえない。この仕様は、単に「周波数11.2GHzでのパターン伝送損失が最悪時に3dB以下」ということを規定しているだけなのである。

 この過剰ともいえる厳格な仕様に適合するシステムがあったとする。しかし、おそらくそのシステムは3.2Gビット/秒において満足に動作しない。例えば、カットオフ周波数(−3dBの減衰ポイント)が11.2GHzの10次バタワースローパスフィルタはこの規定にぴったりと適合する。しかし、時間軸応答で見ると、このローパスフィルタでは驚くほど大きなリンギングが発生する。別の例として、終端条件が悪いため、非常に大きなオーバシュートが発生する伝送路があったとする。それでも先ほどの規定を満足することはあるが、それをクリーンな伝送路とはいわないだろう。

 このような仕様のあいまいさは、2つの事柄に起因する。1つは周波数に軸足を置いたこと、もう1つは詳細な仕様が不足していることだ。仕様の詳細を補うためには、仕様で規定する周波数ポイントを増やす、振幅だけでなく位相についても規定する、滑らかで単調な周波数特性であることを要求するといったことが必要になる。こうした条件を追加することで、立派な仕様になったと感じられるだろう。しかし、それでもなお仕様の最も重要な部分を直接規定したことにはならない。時間ドメイン(時間領域)の特性に関する規定が欠けているのだ。

 線形時不変システムを伝搬する信号の時間ドメインの波形を制御するには、そのための試験について規定しなければならない。その試験としては、筆者はステップ応答特性試験を推奨する。この試験に対しては、少なくとも以下のような事柄を規定する必要がある。

ステップ応答信号源の振幅、立ち上がり時間、信号源のインピーダンス

試験用システムへの接続方法。通常、試験のためにコネクタを用意しなければならない

試験時の負荷条件(多くの場合50Ω、または差動の100Ω)

ステップ応答出力に対する規格表(テンプレート)

 4つ目に挙げた規格表には、立ち上がり時間の最大/最小許容値、単調なステップ応答特性であるか否か、リップルを許容する場合にはその振幅と振動回数といった項目の記載が必要である。ここで重要なのは、規格表は試験における現実の入力信号に対する現実の出力信号波形の詳細を規定するもので、理想的なステップ入力に対する理想的なステップ応答出力を示すためのものではないということである。

 周波数特性を計測するための機器は重要なものだが、仕様を満たすか否かを検証する際には周波数特性に主要な役割を持たせるべきではない。例えば、ベクトルネットワークアナライザを使用することで、システムのSパラメータ応答を計測できる。その結果から、時間軸上のステップ応答特性を計算することが可能である。その結果と規格表を比較/照合すればよい。

 筆者は、このように周波数ドメインの機器を使用して時間ドメインの解析を行うハイブリッド的な手法が好ましいと考える。時間ドメインの計測器は、計測精度や感度、ノイズフロアの低さ、自動校正機能などの点でネットワークアナライザを凌駕できない。これらネットワークアナライザの利点を活用し、周波数ドメインだけに目を奪われるのではなく、時間ドメインにも注目すべきである。むしろ、時間ドメインこそが重要なのだ。

<筆者紹介>

Howard Johnson

Howard Johnson氏はSignal Consultingの学術博士。Oxford大学などで、デジタル・エンジニアを対象にしたテクニカル・ワークショップを頻繁に開催している。ご意見は次のアドレスまで。www.sigcon.comまたはhowie03@sigcon.com。


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