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HD映像技術の「今」を俯瞰する(1/3 ページ)

携帯電話機をはじめ、各種機器に映像機能が組み込まれるのは当たり前のことになった。どのような機器でも、より良い映像が求められるのは必然だが、機器/アプリケーションによって、その仕様/実装技術の最適な選択肢は異なる。本稿では、高品位(HD)な映像を実現するためのさまざまな技術についてまとめる。

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映像機器にはHDが必須?

 近年の技術の進歩によって、携帯電話機やMP3プレーヤなどの小型機器を含め、さまざまな製品に映像機能が組み込まれるようになった。デジタルビデオの市場は驚異的な速さで発展しており、メーカーは、自社の新製品に映像機能を組み込む方法を考えることを迫られている。その際、問題となるのは「HD(high definition:高品位)ディスプレイのことを考慮する必要があるか」ということだ。その画質はこれまで消費者が体験してきたものとは比べものにならないくらい素晴らしい。市場では、より大きく、より優れた映像機能を求める声が高まっていることを思えば、上の疑問に対する答えは分かりきっている――「イエス」だ。

 しかし、すべてがHDでなければならないかといえば、そういうわけではない。HDディスプレイを採用すると決め付ける前に、まずはHDとは何を意味するのかということを明確にしておく必要がある。「高品位」と呼ばれているディスプレイフォーマットにはさまざまな種類があり、アプリケーションによっては、そのうちのいくつか、あるいはすべてが不向きな可能性がある。また、信号圧縮のレベルを考慮した上で画質にどのくらいのウェイトを置くかを検討しなければならない。さらに、どのようなシステムでもコストの問題がある。従って、現実的には、あるアプリケーションにおいてHDが必要かどうかということよりも、システムのディスプレイ性能、帯域幅、ストレージの制約条件、さらに消費者の期待する価格といったことを考慮しながら、いかに最高の品質を達成するかということが問題となる。この問題の答えが見出せて、初めてパフォーマンス、柔軟性、費用対効果に優れ、一般的なシステム要件を満たした処理技術を選択することができる。

「HD」の意味

 HDという言葉の意味を説明した記述をいろいろ探してみると、それがいかにあいまいな概念であるかが分かる。大半の人々にとって、そして大半のケースにおいて、「HD」とはHDTV(高品位テレビ)のことを意味する。HDTVは、従来のSDTV(standard definition television:標準画質テレビ)よりも画面が大きく、解像度が高い。SDTVの縦横アスペクト比は1:1.33(3:4)であるのに対し、HDTVでは1:1.78(9:16)と、より映画フィルムの寸法に近くなっている。このことから、映画フィルムの映像を画面内に収めるためにクロッピング(映像の一部を切り出す)したり、縦横比を調整したりする必要があまりない。

 メーカーがHDTVのために定義している最高の解像度では、SDTVの6倍の視覚情報が得られる。そのため、HDTVではSDTVよりも細部までくっきりと見えると同時に、色も鮮明になる。また、デジタルソースを基にしたシステムであれば、1つの画面に複数の映像を同時に表示することも可能なので、“チャンネルサーフィン”を楽しんだり、番組表などの情報を簡単に見たりすることができる。こうした視覚的な刺激にマルチスピーカによるサラウンド効果が加われば、まったく新しいホームエンターテインメントの世界を体験することが可能だ。映画館にいるような雰囲気を醸し出す大きくてきれいな画面が、新しいデジタル伝送技術を魅力的なものに見せてくれるだろう。

 ここで1つ注意しなければならないことがある。HDTVは、DTV(digital TV:デジタルテレビ)と同義ではない。DTVもまたあいまいな言葉だが、米国ではここ数年、数々のデジタル放送フォーマットを定義しているATSC(Advanced Television Systems Committee)の指針に基づき、メーカーによってDTVの普及が進められている。ATSCと同等の国際機関であるDVB(digital video broadcasting)も、ATSCのフォーマットと重複するフォーマットを定義している。

 表1は、いくつかの一般的なDTVフォーマットをまとめたものである。これを見ると、DTVのフォーマットにはいくつもの種類があることが分かる。

表1 一般的なDTVフォーマット
表1 一般的なDTVフォーマット プログレッシブスキャン(p)ではフレーム/秒、インターレーススキャン(i)ではフィールド/秒。2インターレースフィールドが1フレームとなる。

 現在のHDディスプレイのほぼすべてがプログレッシブスキャン方式を採用している。しかし、1080p(プログレッシブスキャン方式で解像度が1920×1080ピクセル)のHDTVセットを入手できるようになったのはつい最近のことだ。PAL(phase alternation line)あるいはSECAM(sequential couleur avec memoire)方式のアナログテレビ放送が主流となっている国々では、25または50フレーム/秒のリフレッシュレートが用いられている。一方、米国では、NTSC(National Television System Committee)によってリフレッシュレートは30または60フレーム/秒と規定されている。例えば、SDフォーマットの480i60(インターレーススキャン方式で、リフレッシュレートが60フレーム/秒、解像度が720×480ピクセル)はNTSCのアナログテレビをDTV向けに近似した規格であり、576i50はPALとSECAMをDTV向けに近似した規格である。なお、HDTVの画面にはこれらSDフォーマットの映像も表示できるが、フル解像度では表示されない。

 480p60フォーマットや576p60フォーマットのほかに、1080×720ピクセルのように規格として定義されていない解像度のものも、EDTV(extended definition TV)の名称で流通している。さらに、放送用の伝送レートではないが、映画フィルムとの互換性を保つために、ビデオ製作用の規格として24フレーム/秒の規格も定義されている。

ほかにもある「HD」

 DTVには低解像度のものもある。LDTV(low definition TV)と呼ばれるものがそれで、インターネット経由のストリーミングやローエンドのビデオ機器でよく利用されている。そうした規格の1つであるCIF(common inter-mediate format)は、SDディスプレイの解像度のおよそ1/4に当たる352×288ピクセルに対応している。CIFや、それから派生した解像度が176×144ピクセルのQCIF(quarter CIF)は、コンピュータ向けのストリーミングビデオでおなじみであり、DTVの分割画面アプリケーションにも利用されている。そのほかにも、CIFの拡張バージョンとして、4CIF(CIFの4倍の704×576ピクセル)、9CIF(CIFの9倍の1056×864ピクセル)、16CIF(CIFの16倍の1408×1152ピクセル)がある。これらの拡張バージョンは、規格上のある部分でオーバーラップしているところはあるものの、HDTVフォーマットとは異なるものだ。

 より高解像度なものに目を向けると、UHDV(ultra high definition video)などの新しいフォーマットがある。UHDVでは、1920×1080ピクセルの16倍の解像度で表示が行える。こうしたものの出現は、今後さらにディスプレイ技術が進化していくことを示唆している。ここまで高い解像度でなくても、デジタルシネマやコマーシャルビデオの製作現場では、HDTVの解像度を上回る機器を目にすることがある。

 また、ビデオディスプレイではさまざまなHDコンピュータグラフィックスフォーマットも利用されている。従来、コンピュータグラフィックスフォーマットはCRTのSDフォーマットのアスペクト比である1:1.33に対応していたが、最近ではHDデジタルビデオなどにも対応できるワイド画面液晶ディスプレイをサポートしているものもある。1280×800ピクセルのWXGA(wide extended graphics adapter)、1680×1050ピクセルのWSXGA+(wide super XGA+)、1920×1200ピクセルのWUXGA(wide ultra XGA)などがそれで、これらのアスペクト比はすべて1:1.6だ。いずれもプログレッシブスキャン方式が使われることが多く、リフレッシュレートはDTVのそれよりもはるかに速い。これらのフォーマットはHDTVの標準フォーマットとは異なる。しかし、コンピュータとDTVのディスプレイ技術は今日では密につながっており、ほとんどのHDTV機器ではWXGAなどのVESA(Video Electronics Standards Association)規格が採用されている。

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