HD映像技術の「今」を俯瞰する(3/3 ページ)
携帯電話機をはじめ、各種機器に映像機能が組み込まれるのは当たり前のことになった。どのような機器でも、より良い映像が求められるのは必然だが、機器/アプリケーションによって、その仕様/実装技術の最適な選択肢は異なる。本稿では、高品位(HD)な映像を実現するためのさまざまな技術についてまとめる。
もう1つのアプリケーションであるビデオ会議システムは、多くのWAN(wide area network)から利用できるように低帯域幅に対応しなくてはならない。それと同時に、大画面に表示するHD映像データを伝送できる必要もある。さらには、コーディング/デコーディング時に発生する遅延は、音声と映像のずれが生じないように最小限に抑えなければならない。伝送要件を考慮し、圧縮にH.264 Baseline Profileを使うと仮定すると、720p30のHDフォーマット(HDTVよりも解像度は若干落ちるが、依然としてハイエンド)を用いるのが現実的だろう。今日の技術でこのアプリケーションを実現するには、いくつかのDSPと数百メガバイトのメモリーが必要である。
ビデオ圧縮が行われる一般的な民生向けアプリケーションとしては、デジタルスチルカメラ(DSC:digital still camera)システムが挙げられる。これはショートビデオクリップをキャプチャしてHDディスプレイで表示するというものだ。このシステムには使いやすさと低価格であることが求められる。そのため、処理要件とメモリー要件を最小限に抑えられるMPEG-4 Simple Profileが採用されている。コーデックの要件は、ポータブルシステムアプリケーション向けに1つに統合されたDSP搭載のSoC(system on chip)で満たすことができる。
次ページの表3に、各種アプリケーションとそれに用いられるコーデック技術の関係をまとめておく。
コストや汎用性の問題
HDシステムの要件は、帯域幅や圧縮レベル、ディスプレイフォーマットなどによって大きく異なる。デジタルスチルカメラを使って保存されたビデオクリップは放送アプリケーションでは粗末なものに感じられるだろうし、HD放送の大量のビットストリームデータをビデオ会議システムで処理することには無理があるだろう。しかし、どのレベルのアプリケーションでも、HDフォーマットのメモリー要件と処理要件がSDフォーマットに比べてはるかに厳しいことに違いはない。
要件が厳しくなれば部品の価格も上がる。ただし、ほぼすべての半導体製品の価格がそうであったように、HD用のチップの価格もいずれは下がることが予想される。そのため、システムメーカーは、コストをかけてでも今すぐHD対応製品を作るのか、それとも部品の価格が下がり、かつHDの需要が高まるまではSDのサポートにとどめておくのかで頭を悩ませることになるかもしれない。
また、メーカーは自社の設計の汎用性についても検討する必要がある。今日、どのデジタル映像システムでも、新しいコーデックが次々に登場することと、それらが継続的に改良されることを考慮しておかなければならない。H.264は今後数年のうちに、DTV放送、IPTV(internet protocol TV)、ビデオ会議をはじめとするさまざまなアプリケーションに大きな影響を及ぼすようになるだろう。これに対抗する規格としては、WMV9(Windows Media Video 9)/VC-1や中国のAVS(audio video coding Standard) 、ITU/MPEG規格などがある。セットトップボックスなどのシステムは、いくつもの規格に対応し、ゲームなどエンターテインメント機器のコンソールとのインターフェース機能を備え、ホームコンピュータネットワークやビデオホンもサポートしなくてはならない可能性がある。
こうしたシステムでさまざまなディスプレイをサポートし、アプリケーション/制御ソフトウエアを処理するには、デコードだけでなく、コード変換やレート変換も行えることが重要となるだろう。ビデオ監視システムなどのアプリケーションでさえ、コーデックをアップグレードできたり、物体の解析/認識機能などを追加できたりすることが求められる。HD出力に対応する入力ストリームフォーマットとアプリケーションの幅を広げようとすれば、システムに柔軟性が必要になることは明らかだ。設計者は自らのビデオシステムを実現する技術を選択する際、このことを念頭に置いておく必要がある。
DSPの効用
HDシステムの高いスループットやマルチアプリケーション要件をサポートするには、パフォーマンスと汎用性の高さの両方を手頃な価格で実現できるプロセッサが必要となる。
DSPを使えば、音声/映像用のコーデック機能やHDデータストリームなどのアルゴリズムをリアルタイムに処理できるだけの優れたパフォーマンスが得られる。DSPとRISCプロセッサコアの両方を組み込んだプロセッサならば、信号処理にDSPを、制御/通信/アプリケーションソフトウエアにRISCプロセッサコアを割り当てるといったように、処理負荷を分散できるという利点がある。音声/映像アプリケーション向けのマルチコアDSPには、コーデックが頻繁に実行する処理に対するハードウエアアクセラレーション機能を提供するVICP(video image coprocessor)が組み込まれる。そのほかにも、ビデオスケーリングを行ったり、ディスプレイ処理の負荷を軽減したりするためのオンチップのハードウエアを備えているものもある。
DSPには、さまざまなコーデックとディスプレイ規格をサポートできるだけの柔軟性があり、新しい機能も追加しやすい。また、1つの設計を基に、プログラムを作り直すだけで、市場セグメントや地域ごとの要件を満たすことができる。近年、音声/映像用のAPI(application programming interface)を提供する包括的なオープンソフトウエアプラットフォームが登場したことで、DSPはますます使いやすくなってきた。さらには、映像用のメモリーサブシステムとペリフェラルをSoCに統合したDSPを使えば、HDやほかの高度な映像機能を備えたシステムでさえも、コストを最小限に抑えて構成することが可能である。
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