高速シリアルバスをサージから守る:3つの策で「難敵」をシャットアウト!(1/4 ページ)
電子機器のサージ対策手法は、一種のマジックのようなものに思えるかもしれない。しかし、実際にはその裏には理論の積み重ねがあり、幾重もの対策を施すことによって、初めて機器の耐性を最大化することができる。その結果として、対策部品のコストや開発スケジュールへの影響を抑えることが可能になるのだ。
半導体デバイスの故障の主原因となるものに、ESD(electrostatic discharge:静電気放電)やEOS(electrical overstress:過電圧)がある。組み立て時に物性的な劣化が生じたのではないか、取り扱いの際に適切な対策を行っていなかったのではないか、テスト時に問題はなかったのか――。こうした故障原因を究明するのは非常に困難な作業であることが多い。そのため、故障をなくし、原因究明の作業が発生しないようにすることは、最も効果的なコスト削減策となる。
本稿では、IEEE 1394(FireWire)、USB、PCIe(peripheral component interconnect express)などの高速シリアルバスを用いるプリント回路基板のESD/EOS耐性を向上させる方法についてまとめる。その手法は、中世の城に見られる多段防御戦略に例えることができ、以下の3つの対策から成る。
【対策1】敵の侵入防止
【対策2】侵入者への攻撃
【対策3】武装の強化
以下、これらについて順に説明していく。なお、本稿ではESD/EOSなどによって発生する各種高電圧をまとめて「サージ」と表記する。
【対策1】敵の侵入防止 サージの印加を阻む
第1の対策は、可能な限り半導体デバイスにサージが印加されないようにすることである。この対策を実現する最良の方策はファラデーケージを使用することだ。理想的には、大地にアースされた導電性の容器(通常は筐体がこれに当たる)により、電子機器を完全に覆うとよい。このようなアプローチの好例として、パソコンのタワー型金属性筐体が挙げられる。この筐体は、構成要素となる電子部品を完全に覆うファラデーケージとして働く。
しかし、高速シリアルバスを用いる場合、筐体には信号入出力用のコネクタを取り付けるための穴が必要となる。適切に設計されたシリアルバスでは、信号線は全体がシールドされ、プリント基板のコネクタは金属でシールドされる。この場合、信号線用のシールドとコネクタ用シールドの間、およびコネクタ用シールドと筐体のグラウンドの間を、それぞれ低インピーダンスに接続する。それにより、一方の装置の金属筐体から信号線/コネクタのシールドを経由して相手方の装置の金属筐体に至るまでの間を、等価的にほぼ連続した導体面として構成することができる。「ほぼ連続」と表現したのは、筐体にコネクタ取り付け用の穴が存在するからである。
ここに生じる隙間はサージの侵入経路となり得る。その対策として、バネを使用し、コネクタシェルを筐体に押し付けて密着させる方法がある。この種のコネクタでは、その内部構造によって、コネクタと筐体の導通が確保される。コネクタの取り付け個所となるこのような構造において、コネクタシェルと筐体の間を短い導線で接続するとともに、コネクタ周りの隙間をなくすようにすることによって、サージおよびEMI(electromagnetic interference:電磁波干渉)の影響を一層低減できる。この対策を城の防御に例えていうなら、城壁(ファラデーケージ)が完全で、門(コネクタ)を破るものがいなければ、城内の人間(半導体デバイス)は安全なのである。
製品が導電性の筐体を持たない場合には、次のような対策が考えられる。それは導電性を持つ大きなバルクにサージを吸収させることである。この方法では、サージを導電性バルクまで伝達させるために導体を引き回す必要があり、その導体とほかの導体/半導体デバイスとの間で放電する恐れがある。また、導体から発生する電界によって、近傍の半導体デバイスが破損してしまうこともあり得る。こうした問題点を回避するように設計できれば、この方法は良い対策になる。
導電性の筐体を持たない場合にも適用できるもう1つの対策が、「侵入者への攻撃」である。次節では、この方法について詳しく説明する。
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