過電流検出/回路保護を目的として直流の大電流を計測する場合、通常はシャント抵抗を利用する方法や、トロイダルコアとホール効果素子を利用する方法が用いられる。しかし、これらの方法には問題点がある。前者の方法では、10mΩのシャント抵抗で20Aの電流を計測すると4Wもの電力が消費されてしまう。一方、後者のホール効果素子を用いる方法は高精度で低消費電力だが、単純な電流検出用途に対しては高価に過ぎる。
本稿では低コスト、低消費電力で、さほど精度を必要としない用途に適した電流検出回路を紹介する。これらの特徴に加えて、その回路は、DC-DCコンバータで用いるインダクタを電流検出用のセンサーとして利用できるという利点も併せ持つ。
通常のフェライトコア(トロイダルコア)の透磁率はコアが飽和に近づくとともに減少する(図1)。そのカーブの傾向と値はコア材の特性やコアにエアギャップ(空気層)が含まれているか否かによって変わるが、いずれにしても、コアの透磁率はフェライトの磁化レベルに依存する。言い換えれば、コアの透磁率は巻線に流れる電流に依存するということである。本稿で紹介する回路では、簡単なLC発振回路を用いてコアの透磁率を測定する(図2)。それによって、過電流検出を行う仕組みだ。
LC発振回路で用いる1次巻線は、コアに少しの巻き数(ターン)で線を巻いたものであり、その巻線を計測の対象となる電流が流れる。巻き数を多くした2次巻線はインダクタLとして働き、これにより発振回路の共振周波数が決まる。理論的にはどのようなタイプのLC発振回路でも利用できるが、電流計測用の巻線が低インピーダンスであることから、LCの共振特性がダンピングされるとともに、起動特性や安定性に問題が出るといった制約がある。さまざまな発振回路について検討した結果、最良の性能が得られたのが図2に示した回路だ。ただし、コアの透磁率は多くの要因によって変化するため、この回路には発振周波数の安定性の面で問題がある。従って、その用途は過電流検出や低い精度しか要求されない電流計測などに限られる。
図3は、同一サイズの異なるフェライトコア3種に対して同じ巻き数の2次巻線を用意し、それぞれを流れる電流と出力周波数を計測した結果である。直線性を最良にするには、低ヒステリシス特性のコアを使用するとよい。図2の回路の動作はコア材の種類とサイズには制限されないが、1次巻線と2次巻線の巻き数は最適化する必要がある。エアギャップを持つコアの場合には、エアギャップを増大させることにより飽和電流を増やすことができる。より良好な性能、直線性を得るには、閉ループ方式を採用するとよい。*1)
脚注
※1…Nell, Susanne, "Improved current monitor delivers proportional-voltage output," EDN, Jan 19, 2006, p.84.
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.