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どうする?SoCのオーディオ品質課題は山積み、出口は見えず (3/5 ページ)

マルチメディア機器の映像品質が向上するに連れ、オーディオ品質に対する要求もより高まってきた。もともと、大規模なシステムLSIにオーディオ機能を統合するのは音質その他の理由から困難だったが、従来の評価/テストでは検出できない新たな問題も顕在化してきている。開発者の前に立ちふさがる課題とは何なのか。

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多様化する評価項目

 高精度のアナログ製品を長く扱ってきたベンダーは、特性評価に関して次のような観点から考えを進める。何を測定すればよいのか、どのように測定すればよいのか、どのような環境で測定するのか、どのレベルまで実施するのかといった具合だ。しかし、ハイエンドオーディオの場合には、もう1つの問題が残る。それは、測定結果がどうなっていれば正しいのかということだ。ハイエンドオーディオの場合、評価の目的は、出力の電気的特性を調べることではなく、ユーザーの満足度を予測することである。そのため、上記の疑問に答えるのは容易なことではない。というよりも、その答えはかなり難解なものだ。

 何を測定するのかということだけをとっても議論が生じる。音質への要求がさほど高くなければ、機能的な評価だけで済むともいえる。普通のユーザーが安いヘッドホンで聴くだけなら、周波数応答、THD、ある種のノイズ測定だけでオーディオ部分に対するテストはほぼ十分だ。これらのテストはHi-Fi オーディオが登場したころから存在し、現在でもテストの基本である。またエンジニアにとっては便利なことに、これらすべてのテストを自動的に実施できるような単一の装置が提供されている。

 米NVIDIA社のPortalPlayer部門(その前身はNVIDIA社が買収した米PortalPlayer社)でマーケティング/ビジネス開発担当ディレクタを務めるPhilippe Mora氏は、「最近では、いずれの関連企業もAudio Precision社製の測定装置を所持している」と述べる。Audio Precision社は、信号の生成、取得、解析、パソコンベースの制御機能を統合した製品を提供しており、それがここ数年でオーディオ特性評価における事実上の標準となっている。同社製の装置では、使用するハードウエアと測定シーケンスを表すコーディング済みのスクリプトを組み合わせることにより、従来の測定項目だけでなく、サードパーティの標準化団体が求める項目の多くについても測定を自動化することが可能となっている。

 24ビット、192キロサンプル/秒の条件でも正確な測定が行えるAudio Precision社製装置の能力は誰もが認めるところだ。しかし、この装置では、必要なもののうち、一部の結果しか得られないと警告する人もいる。 National Semiconductor社のオーディオアプリケーション担当ディレクタであるJeff Bridges氏は、「確かにAudio Precision社製の装置は主要な特性評価ツールには違いない。だが、特定のテストに対しては、ほかの測定装置も必要になる。例えば、ネットワークアナライザやスペクトルアナライザといったものだ」と語る。そのため、特性評価環境には多くの機器がずらりと並ぶことになる(図1)。これは、特性評価では多くの手作業が発生することも意味している。

図1 特性評価環境の例
図1 特性評価環境の例 音質の評価には、さまざまな装置が必要になる(提供:NationalSemiconductor社)

 Wolfson社のCTO(最高技術責任者)を務めるPeter Frith氏は、「特性評価の作業では多様化が進んでいる」と指摘する。「従来のように、入力をゼロにして電圧計で出力ノイズを測定してから、オシロスコープでフルスケール正弦波を観測してダイナミックレンジを測定する場合もあれば、THD、S/N比、ダイナミックレンジを順に測定するといった以前からある手法を用いることもある。いずれにせよ、これらは測定の基本にすぎず、それ以外のさまざまな評価作業が必要になってきている」(Frith氏)という。

 特性評価では、システム関連の問題も扱わなければならない。代表的なものにノイズの問題がある。多くのデジタルコンテンツを扱い、多くの処理を行うチップからアナログ出力を得る場合、ノイズの問題は音質に大きな影響を与えることになる。アナログ出力を備えていたとしても、SoCは基本的にデジタルチップである。そのことから、特性評価に関する新たな種類の問題が生じる。Wolfson社のHayes氏は、以下のように語る。

 「以前は、アナログ出力におけるクリックノイズやポップノイズに関する標準的な規定は存在しなかった。同様に、システムにおいてデジタルゲイン制御のレベルを変化させる際に生じるジッパーノイズは、オーディオの世界にとっては新しいものであった。こうしたノイズ源は、ユーザーによる特定の操作によって生じるものなので、従来は特性評価項目に挙がっていなかった。しかし、高性能なヘッドホンを使用する場合、そうしたノイズは非常に耳障りで、人体に対して有害でさえもある。そのため、特性評価の新たな手法を開発する必要があった」。

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