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「熱」と正しく向き合う熱設計の基礎理論から評価/計測ノウハウまで(4/8 ページ)

温度の変化は、予期せぬ回路動作や部品の破損を引き起こす原因となる。本稿では、熱が部品に及ぼす影響や、部品が発生する熱量の見積もり方、温度測定環境の整え方、実際の熱測定の方法など、熱設計を正しく行うためのポイントとなる事柄について解説する。

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熱解析の3つのステップ

 回路における熱解析は、3つのステップで行う(図4)。まず、チップの消費電力を評価する。次に基板やヒートシンクによって逃げる熱を評価する。最後に部品動作時の周囲温度を評価する。以下、各ステップについて詳細に説明する。


図4 熱解析の手順
図4 熱解析の手順 熱解析では、まずチップの消費電力を評価し、続いてチップの外に逃げた熱を評価する。その上で周囲温度を把握すれば、実際に知りたい動作中のチップの温度を得ることができる。通常、放射によって逃げる熱(図には示していない)はほとんどない。

■(1)チップの消費電力の評価

 チップが生成する熱を評価するために、まずはチップの消費電力を求める。消費電力が分かれば、熱の評価はDC的なものであれば簡単に行える。例えば、両端電圧が1Vの抵抗に1Aの電流が流れると、1Wの熱が発生する。しかし、AC的または規則性のない信号が生成する熱を評価するのは困難だ。

 電源からグラウンド端子へと流れる静止電流(定常電流)は、常にDC的に電力を消費する。10Vの電源レールを持ち5mAの静止電流が流れる部品は、50mWの熱を生成する。しかし動作時には、この静止電流の値も変化する可能性がある。例えば、バイアス電流やベース駆動電流は、通常、AC信号が入力されると増加する。

 最大の課題は、部品の出力電流が生成する熱を見積もることである。この値の評価は簡単ではない。通常、部品は負荷に対してかなりの電力を提供し得るが、出力トランジスタが完全にオンか、完全にオフの場合には、部品が内部で消費する電力は比較的小さくなる。ほとんどのアンプで用いられているような従来の出力段では、レールツーレールの方形波を出力する場合に最も多くの熱が生成されるわけではない。電源電圧の半分の幅の方形波を出力する場合に最も熱を生成するといった具合になる。例えば、ある部品が±12Vで動作するのであれば、±6Vでスイングする方形波を出力する場合がこれに当たる。なお、正弦波が出力されるケースも、内部に生成される熱は少ない。

 信号が複雑な場合や一定の性質を持つものでない場合、ICが生成する熱の最大量を正確に評価するのは困難となる。大きな容量性部品や誘導性部品、つまりリアクティブな負荷は、消費電力の見積もりをさらに複雑にする。電圧と電流の位相が等しくないため、方形波に対する単純な計算では正しい結果は得られない。

 ICで伝送される信号の特性が分かれば、SPICEシミュレーションを用いて消費電力を見積もることができる。その場合、消費電力の計算が簡単に行えるいくつかのテスト信号に対し、使用するSPICEモデルによって正しい結果が得られることを確認しておく必要がある。;

 図5に示したのは、SPICEシミュレーション用の回路図である。2つの回路の違いは、図5(b)には200nFの容量負荷が存在することである。一方、図6は、図5の回路図に対してSPICEシミュレーションを行った結果だ。下の2つの曲線は、各オペアンプの電源端子に流れる電流を表す。上の2つの曲線は、各部品が消費する電力を表している。赤い曲線は図5(b)のアンプに対するもので、容量負荷が存在する分、消費電力が多くなっている。平均電力の算出にはRMS関数を利用している。ちなみに、赤い曲線を見ると、起動時に発振が生じていることが分かる。試作品では、このような動作がないことを確認してみるとよい。

図5 SPICEシミュレーション用の回路図
図5 SPICEシミュレーション用の回路図 
図6 図5の回路のシミュレーション結果
図6 図5の回路のシミュレーション結果 

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