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M2Mネットワークの「今」あらゆる機器をワイヤレスでつなぐ(4/4 ページ)

安価なワイヤレスネットワークと組み込みプロセッサの組み合わせがコンピュータ革命を持続させている。本稿では、あらゆる機器をワイヤレスでつなぐための、いくつかの通信方式とその事例を交えながら、ワイヤレスネットワークの実用性や現状の問題点について解説する。

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生態系と通信方式

 図5は、ここまでに述べてきた2.4GHz帯域内のすべての無線通信とそのプロトコルを表している。この周波数が生態系であったとしたら、図5(a)のWi-Fiは食物連鎖の頂点に立つライオンだといえる。Wi-Fiはひと固まりの帯域幅を占有し、混雑しているときは、その固まり内にあるほかのトラフィックを消し去る。図5(b)のBluetooth対応機器は79チャンネルを飛び回る昆虫のようだ。周辺を飛び回り、ヘッドセットを持っている人が通りかかるとひょいと現れる。また、図5(c)のZigBeeは春が近いかどうかを確かめるために地中から頭だけを出しているウッドチャック(マーモットと呼ばれるげっ歯類の仲間)のようなものだ。広い帯域幅を利用するものの、その頻度は低い。ウッドチャックは機敏ではないため、その穴はいつも同じ周波数にある。他方、図5(d)のCypress社のWireless USBはハイエナのようだ。すぐに使える周波数を求めていつも辺りをうろついている鋭敏なハンターである。使用可能な周波数を見つけたらそこにとどまり、低データレートで情報を連続的に送信する。この生態系での最大の問題は図5(e)のコードレス電話である。コードレス電話はあらゆるものを切り刻んでしまうトラのようだ。ジャングルに住むほかのすべての動物を圧倒するほどの強力な信号を送る。このため、一部のWi-Fi対応機器メーカーは、コードレス電話を使用しないよう顧客に勧めている。ライセンス不要の2.4GHz帯域は規制されてはいないが、出力レベルだけはFCCによって規定されている。DSSSとFHSSの変調方式が混在していると、両方のタイプの機器に問題が生じる可能性があるからだ。

図5 2.4GHz帯域内の無線通信とそのプロトコル
図5 2.4GHz帯域内の無線通信とそのプロトコル 2.4GHzのISM帯域には、共存が不可能であるか、あるいは互いに干渉する恐れのある多くの無線規格が存在する。Wi-Fi帯域は11あるが、干渉しないものは3つしかない。Wi-Fiに使用されているDSSS変調符号では、同一周波数で動作するほかのWi-Fiトランスミッタからの干渉を防ぐことができない。

 以下に挙げる2つの要因が、こうしたすべての悲運を白日の下にさらしている。1つは局所性であり、もう1つは一部のワイヤレス機器の伝送頻度が低いことだ。ベルトに付けている小さなBluetoothトランスミッタの威力は20ヤード(約18m)離れたところにあるワイヤレスLANを上回るだろう。米Dust Networks社のエンジニアたちは、これら2つの欠点を克服しようと努力している。同社がZigBee規格に厳密に準拠していない理由は、周波数選択の機動性を提供しているからだ。同社の機器は、クリアなチャンネルを確保するために違うZigBeeの周波数にジャンプする。米Texas Instruments(TI)社も同様の取り組みを見せている。同社は2005年にZigBeeのパイオニアであるノルウェーのChipcon社を買収した。無線範囲を広げ、干渉を回避するため、TI社はその新しいZigBeeトランスミッタでZigBee規格を上回る感度と選択性を実現している。

 もう1つのアプローチとしては、単にそれほど混雑していない帯域を利用する方法がある。どのZigBeeベンダーの機器も、混雑している2.4GHz帯域の代わりに800MHz帯域あるいは900MHz帯域で動作できる。周波数が低いほど到達距離も延びる。カナダZarlink Semiconductor社は、400MHz〜405MHzのMICS(medical implant communications service)帯域を利用する埋め込み可能な無線チップ「ZL70101」を製造している。これは、MAC(media access control)に基づく800キロビット/ 秒 のデータレートを実現するほか、信頼性の高いデータリンクを確立するためのリードソロモン符号方式によるFEC(forward error correction)およびCRC(cyclic redundancy check)誤り検出機能と再伝送機能を備えている。

 ある革新的企業は、ZigBeeを支持する人たちが考えるメッシュネットワークよりもシンプルな、ビル照明制御機器に市場を見出している。米PulseSwitch Systems社の照明用スイッチは、圧電型トランスミッタで500WのACラインコントローラにコードを送信する。このときの周波数は、キーレスエントリや車庫の扉を開閉するリモコンに使用されるのと同じ434MHzである。これらのトランスミッタに必要なエネルギは、ユーザーがスイッチを切り替えることで供給されるため、電池が不要である。「車庫の扉を開閉する機器とリモートのカーロックシステムにはFCCによって同じ周波数が割り当てられているものもあるが、当社のトランスミッタはほかの車庫の扉を開けたり、誰かの自動車のロックを解除したりするようなことは決してない」と、PulseSwitch社エンジニアリング部門ディレクタのJeff Rogers氏は語る。その理由を「当社は、特許取得済みの方式を適用したIDコードを使っている。それはカーロックや車庫の扉の開閉用機器に使用されているものとはまったく異なるものだ」と説明する。同氏によれば、使用できるコード数は2億6800万個以上あり、1つの部屋で同じ数のトランスミッタ/レシーバを対で使用できるほか、それらの機器が互いに干渉することも、ほかのISM帯域で動作する別の機器に干渉することもないという。

 排ガス検査の時期がきたときに、陸運局(DMV:department of motor vehicles)が自動車と通信できるようなアプリケーションを想像してほしい。その車は自動的に実際の走行負荷と運転サイクルに対する汚染特性データを収集し、転送する。そうなれば二度と排ガス検査を受ける必要がなくなる。しかし、例えばBluetoothは今でこそ多くの人々の生活の一部になっているが、普及するまでには長い年月がかかった。EDN誌エグゼクティブエディタのRon Wilsonは「われわれが見るのは、いつも背中に矢を負っている先駆者たちの姿だ」と指摘している。例えば、Ricochetモバイルワイヤレスネットワークは、失敗に終わったワイヤレスメッシュネットワークだった。M2Mワイヤレスネットワークの現状は、悲劇的な失敗でも、大成功でもなく、そのどこか中間点にあるだろう。そして誰かがキラーアプリケーションを発見したときには、皆が額を叩き、「なぜそれを思いつかなかったのだろう」とつぶやくことになるはずだ。

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