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ワイヤレス電力伝送技術最新研究(2/2 ページ)

配線を介さずにさまざまな電気製品に電力を伝送する――この長年の夢は実現可能なのだろうか。本稿では、実用化済みのものから研究段階のものまで、ワイヤレス電力伝送にかかわる最新技術を紹介する。

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その他の電力伝送技術

 Powercast社の販売/マーケティング担当バイスプレジデントであるKeith Kressin氏によると、「RFの安全に関する問題を扱うのは、FCC(米連邦通信委員会)のOffice of Engineering and Technology Bulletin 65だ」という。同Bulletinは、RF信号を送信する機器の最大許容電力を定めている*1)。例えば、電子レンジのリークレベルは50mW/cm2であり、携帯電話の放射RFエネルギとほぼ同レベルだ。テレビやラジオのトランスミッタの放射は10mW/cm2であるのに対し、RFエネルギ伝送におけるトランスミッタの放射は約20μW/cm2と、日常的な環境よりもかなり低いレベルとなっている*2)

 周囲のRFエネルギをハーベスティングにより収集し、RFエネルギ伝送に用いることも考えられる。ただし、RFエネルギによる電力を見積もる際には注意が必要である。米コロラド大学の電気/コンピューティング工学教授であるZoya Popovic博士は、次の3点を心に留めておかなければならないと述べている。

 1つは、周囲を漂う電力の周波数は広い帯域にまたがるということである。RFエネルギを収集する最善の方法は、その周波数に対応するアンテナと電力回路を設計することだ。つまり、その環境で動作可能とするために、広帯域か、または少なくとも多帯域のアンテナと電力回路が必要になる。

 2つ目は、周囲を漂うRF信号をハーベスティングする際に、電磁波がどのように偏っているかはまったく分からないということである。Popovic氏は、次のような例を挙げた。

 「部屋のある隅からワイヤーアンテナを用いて垂直偏波を送信すると、エネルギが部屋中で反射し、反対の隅に到達するころには、電力は水平にも垂直にも均等に分散されている。そのような電力を効率良く収集するには、水平/垂直両方の偏りに対応できる設計を行わなければならない」。

 3つ目は、複数のパスが存在する環境であるため、RFレシーバにおける電力は周波数と偏波の関係にあるだけでなく、電力レベルに関しても変動するということである。Popovic氏の研究チームは、DC電圧を生成する整流回路を持つアンテナである「レクテナ」を備えたRF電力レシーバ回路を設計した(別掲記事『高効率なRFレクテナの設計例』を参照)。電力レベルの変動に伴い、レクテナの出力におけるDC電圧も変動する。充電池やコンデンサなど、エネルギを保存するデバイスは、電圧が大きく変動する状態には対応できないため、レクテナとエネルギを保存するコンポーネントの間に、電力管理/電力バッファリング段を設けた。

 ほかの技術としては、(非接触ではないが)米WildCharge社の製品がある。同社のWildcharge技術に対応した機器は、フォトリソグラフィプロセスによって製造されたスパッタ金属パッドである抵抗性のコンタクトを介して充電パッドと接触し、携帯電話機などの民生機器を充電することができる。同社は2007年の夏に、複数の低消費電力機器を充電可能な15Wのレベルの充電パッドを発表する予定である(価格は40米ドル)。充電パッドを使用するにはアダプタが必要になるが、Wildcharge技術を適用した回路を機器に内蔵すれば、Wildcharge対応のどの充電パッドからでも充電可能とすることができる。

 新しいワイヤレス電力伝送技術の例としては、マサチューセッツ工科大学の物理学者であるMarin Soljacic氏が発表した数メートル未満の距離で利用する「非放射共鳴型エネルギ転送」がある。これは、同一の磁界で共振するように設定された銅コイルを利用する技術だ*3)。また東京大学の研究者らは、プリントコイル、有機トランジスタ、MEMS(micro electro mechanical systems)スイッチを持つ4層プラスチックシートを開発した。インダクティブカップリングを用いて、レシーバのコイルを設置した機器に電力を伝送するというものである*4)。どちらの技術もまだ研究段階にあり、商品化は少なくとも数年先であろう。

交換不要な長寿命の電池

 Fulton Innovation社やPowercast社の手法でさえもまだ新しい技術であり、欠点や未知の部分が残されている可能性がある。その一方で、電池の技術も向上していることを忘れてはならない。

 電池はどれも同じというわけではなく、寿命が決して長いとはいえないアルカリ充電池だけが低消費電力機器を充電するための方法というわけではない。例えば、米Tadiran社は、「当社の産業/軍事用塩化チオニルリチウム電池であれば、使い方によっては寿命は20年以上で、故障率は100万個につき1個未満だ」と主張している。

 この非充電式1次電池は、リーク電流が少なく、エネルギ容量が大きい。例えば、民生機器用の単3電池が1.5Vであるのに対し、Tadiran社の単3型高電力リチウム電池の公称電圧は4Vである。また、セル当たりの容量も2Ahr以上を実現している。この電池は、消費電力81mAhr/年のシステムに対し、最終電圧3Vで20年以上給電可能だ。その価格は1個10米ドル未満なので、1年当たり50セント未満のコストということになる。

 より高価な新しい技術に投資する前に、産業用電池を利用できない否か検討してみる価値はある。

高効率なRFレクテナの設計例

by Hubregt J Visser/J Theeuwes/M van Beurden/G Doodeman

図A プリント配線板の概観
図A プリント配線板の概観 プローブ給電アンテナとインピーダンス整合およびフィルタリングネットワークを持つ、平面マイクロストリップレクテナのプリント配線板レイアウトでは、マイクロストリップネットワークと同じグラウンドプレーンを共有する。

 レクテナは整流アンテナである。最も簡単なのものは、ショットキーダイオードとアンテナで構成し、アンテナで受信したRF電力をDC電圧に変換するというものになる。問題は、例えば入力電力レベルが0dBm以下である場合に、どのようにしてレクテナの電力変換効率を高めるかということである。われわれは、整流回路をマイクロストリップパッチアンテナに直接、共役整合(conjugate matching)する手法を採用した。これにより、両者の間の整合用ネットワークは不要になり、レクテナの効率は向上する。このインピーダンス整合手法では、マイクロストリップパッチアンテナからの高調波の放射は整合しないので、高調波の再放射は自動的に抑制される。

 プローブ給電アンテナを持つ従来の平面マイクロストリップレクテナでは、プリント配線板のレイアウトにおいて、マイクロストリップネットワークとグラウンドプレーンを共有する(図A)。われわれは、アンテナと整流器の解析モデルを利用して、入力電力レベルが低く、内部で整合とフィルタリングを行う単層プリント配線板ベースのレクテナを設計した。

図B レクテナの外観
図B レクテナの外観 新しく開発したレクテナは、52%の効率を実現する。単層プリント配線板を用いており、大きさは28mm×31mm。

 われわれは、キャビティモデルを用いて方形マイクロストリップパッチアンテナを解析した。それを通して、効率的な長さと幅で、マイクロストリップパッチアンテナのフリンジフィールドに対処した。また、4次のRunge-Kutta法を用いて、パッケージダイオードの電圧とジェネレータの電流値を決定した。時間領域のパラメータは、FFT(fast fourier transform)を用いて周波数領域に変換する。周波数領域では、各高調波に対してパッケージダイオードのインピーダンスが固定の入力電力レベルに対して決定される。

 複雑なダイオードインピーダンスを算出した後、ダイオードの共役インピーダンスを得るために、マイクロストリップパッチの端の給電部分を決定する。これによりアンテナとダイオードとの間の共役整合がとられることになる(図B)。

 開発した解析モデルにより、レクテナの出力電圧を、アンテナの入力電力の関数として正確に求めることができる(図C)。2.45GHz/0dBmの入力電力に対し、従来のレクテナ設計よりも効率が10%以上向上し、52%となった*5)。このレクテナを直列接続することにより、最大6m離れた標準的な家庭用壁時計に電力を供給することが可能である(図D)。最終的な目標は、遠隔から充電池を充電できるようにすることだ。

図C シミュレーションと実測の比較
図C シミュレーションと実測の比較 レクテナの出力電圧は、アンテナの入力電力の関数として表される。
図D 壁時計への適用例
図D 壁時計への適用例 2.45GHzのレクテナを8つ直列に接続し、壁時計に電力を供給する(a)。壁時計の背面には電圧保護回路を備える(b)。


脚注

※1…OET Bulletin 65, "Evaluating Compliance With FCC Guidelines for Human Exposure to Radiofrequency Electromagnetic Fields".

※2…Popovic, Zoya, Regan Zane, A Dolgov, J Branna, J Moroni, T Paing, and J Shin, "Efficient low-power energy harvesting and power management," NanoPower Forum 2007, Colorado Power Electronics Center, Department of Electrical and Computing Engineering, University of Colorado at Boulder.

※3…Fildes, Jonathan, "Wireless energy promise powers up," BBC News.

※4…Takamiya, Makoto, Tsuyoshi Sekitani, Yoshio Miyamoto, Yoshiaki Noguchi, Hiroshi Kawaguchi, Takao Someya, and Takayasu Sakurai, "Design Solutions for a Multi-Object Wireless Power Transmission Sheet Based on Plastic Switches," 2007 IEEE International Solid-State Circuits Conference.

※5…Akkermans, JAG, MC van Beurden, GJN Doodeman, and HJ Visser, "Analytical Models for Low-Power Rectenna Design," Antennas and Wireless Propagation Letters, Volume 4, 2005, p.187.


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