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組み込み市場としての「カジノ」の可能性(2/3 ページ)

カジノは、組み込み機器メーカーにとって、市場規模の面で非常に魅力的な存在である。最新のゲーム機器は、最先端のエレクトロニクス技術によって支えられているからだ。では、この分野で必要となる技術とはどのようなものなのだろうか。また、この市場の成長を妨げる要因があるとすれば、それは何なのか。本稿では、こうした疑問に対する答えをまとめる。

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セキュリティ対応は必須

 カジノで用いられるゲーム機器では、ハッカーからの攻撃を防止したり、内部回路を保護したりするために物理的な対策を講じる必要がある。一般に、こうした機器のメーカーは、特殊な道具がなければこじ開けられないように製品の筐体を頑丈なものにする。また、プリント回路基板に実装する部品はセキュリティの確保を念頭に置いて設計されている必要がある。例えば、重要な信号の端子がBGA(ball grid array)パッケージの中央側に隠れていれば、プロービングやリバースエンジニアリングは行いにくい。ハッカーが化学薬品を使ってパッケージを除去する可能性もあるが、特殊な樹脂や絶縁コーティング材を使えば、製品の重要な内部回路を保護することができる。

 カジノで用いられるゲーム機器には、セキュリティに関する各種標準規格も適用される。例えば、TCG(Trusted Computing Group)1.2規格では、保護されるべきデータへのアクセスを制限し、個々のコンピュータを認証して、ユーザーの個人情報を管理するよう規定されている。機器に組み込むTPM(trusted platform module)デバイスが定義されており、それがブートプロセスを監視することになっている。ブートプロセスでは、BIOS、デバイスドライバ、OSローダーなどの重要な要素に関するハッシュ値やチェックサムが生成される。TPMはこれらの値を保存し、その値と、プラットフォームの信頼できる状態を定義する基準値を比較する。また、TPMは、公開鍵/秘密鍵を用いるRSA(Rivest/Shamir/Adleman)暗号化方式の実装と、鍵とパスワードのための不正解読防止策の講じられたオンチップメモリーを提供する。

図1 Advansus社のシングルボードコンピュータ「iQ965-CI」
図1 Advansus社のシングルボードコンピュータ「iQ965-CI」 ゲーム機器向けにTPMによるセキュリティ機能とマルチメディア向けのI/Oを組み合わせたものとなっている。

 台湾ASUSTeK Computer社とAdvantech社の合弁企業であるAdvansus社は、ゲーム業界におけるマルチメディア性、セキュア性、長期使用性のニーズに対応したシングルボードコンピュータ「iQ965-CI」をリリースした(図1)。同製品は、米Intel社のプロセッサ「Core 2 Duo」とチップセット「Q965」に、TPMセキュリティ技術と7.1チャンネルのオーディオ機能を組み合わせたものとなっている。MiniITXマザーボードモジュールは、ドイツInfineon Technologies社のチップセット「SLB 9635 TPM」を搭載し、ネットワーク通信における信頼性、ソフトウエアの一貫性、機密性を保証する。

 iQ965-CIは、Intel社のグラフィックスメディアアクセラレータ技術「3000」を利用している。同技術は、DirectX 9.0c、Pixel Shader 2.0、256Mバイトのビデオメモリーをサポートする。また、高度なデジタルディスプレイ、またはメディア拡張カードにより、互いに独立した2つのディスプレイに対応する。マザーボードには、2つ目のディスプレイ用のPCI Expressが1本(16レーン)と、GbE(gigabit ethernet)ポートが1つ、SATA(serial advanced technology attachment)ポートが2つ、USBポートが6つ、シリアルポートが2つある。

ゲーム機器向けの通信規格

 ゲーム機器メーカーが新たな組み込みシステム技術を採用するのに伴い、複数のメーカーのボード、サブシステム、サーバー、管理システム間の通信のための標準規格が必須となった。GSA(Gaming Standards Association)は、そのウェブサイトから無償でダウンロード可能な一連の通信仕様を提供している。通信プロトコルのGDS(gaming device standard)は、スロットマシンのコントローラと、紙幣の識別機、カードリーダー、チケットのプリンタといったカジノ施設内の周辺機器との間の情報の流れを制御する。

 またGSAは、イーサーネット、TCP/IP(transmission control protocol/internet protocol)、XML(extensible markup language)をベースとした規格であるG2S(game to system)も提供している。この規格に従うことにより、イントラネット/インターネット環境上で稼働するサーバーベースのゲームといった形態のものに、安全に移行することが可能になる。

テーブルゲームの変貌

図2 テーブルゲーム用の自動システム「TableiD」
図2 テーブルゲーム用の自動システム「TableiD」 このシステムは、RFIDチップやカードリーダーからの情報を収集し、各プレイヤの賭けの状態をスナップショットとして提供する。

 組み込み技術は、従来型のテーブルゲームにも浸透してきている。例えば、データ取得ツールを利用することにより、カジノ運営者はプレイヤの行動を監視してカードのカウンティング行為を発見したり、配当率を調整したり、ディーラの誤りを少なくしたりすることができる。

 米国のInternational Game Technology社、Shuffle Master社、Progressive Gaming International社は、テーブルゲームの自動化システム「Table iD」を共同開発した。同システムは、ソフトウエアベースのテーブル管理機能、RFID(radio frequency identification)チップをベースとしたスキャナモジュール、光学機能を活用したカードシャッフル用シュー(カードの入れ物)で構成される(図2)。RFIDチップは13.56MHzの周波数で動作し、10Kビット以上のデータの保存が可能である。プレイ中には、何カ所かに配置されているチップリーダーが、各プレイヤの賭け金を認識して記録する。また、カードシャッフル用シューは、各プレイヤに配られるすべてのカードの記録を行う。こうした機能により、プレイの様子がディスプレイに表示される。

 Table iDは、ディーラの行った仕事の結果をまとめ、1時間ごとのプレイヤの賭け状態を記録する。このシステムを利用すれば、人手を介することなく、賭け金の平均値や勝敗情報の記録を自動的に更新することができる。

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