RFノイズの侵入を阻め!:イミュニティを高める設計技法(5/5 ページ)
携帯電話は電波をやりとりする代表的なシステムである。これが電磁波ノイズの原因となることは容易に想像がつく。しかし、実際にはインバータ方式の蛍光灯といった機器ですら、ほかの電子機器を誤動作させる電磁波ノイズの発生源となり得る。本稿では、RFノイズによって電子機器にどのような症状が起きるのか、またノイズ耐性(イミュニティ)を高める手法はどのようなものになるのかを解説する。
イミュニティ確保のための設計ルール
RFイミュニティの向上を理論的に図るには、次の3つの設計原則を知っておくべきだ。
・インピーダンスは低いほうが望ましい
・電流のループ面積は小さいほうが望ましい
・配線は短いほうが望ましい
どこがアンテナになるかが理解しやすいように具体例を考えてみる。例えば、空間に張られたケーブルをアンテナとして想定しよう。そのケーブル(ワイヤー)が1MΩの抵抗を介してグラウンドに接続されている場合、5Ωの抵抗で接続されている場合と比較してケーブルの電位が大きく変化する。
ガウスの法則によれば、強度が一定な電磁界により誘起される電圧は、配線のループ面積が大きくなるほど高くなる。従って、差動信号のように2本の配線によって伝送される信号がある場合、大きな面積のループを形成するように配線するのではなく、互いに近接するよう配線すべきである。
また、アンテナはその長さがRFノイズの波長と等しい場合に最も強力に働く。例えば、グラウンドパターンに取り付けられた1cmの長さのパターン/配線には、周波数1GHz以下のRFノイズでは電圧は誘起されない。しかし、その長さが3インチ(約7.6cm)になると、周波数900MHzのRF信号に対して1/4波長のアンテナとなる。その長さが1/8波長の場合でも、ある程度はアンテナとして働き電圧が誘起される。これらのことから、プリント基板のパターン長をできるだけ短くし、レイアウトをコンパクトにすることの重要性が理解できる。
技術者の中には、ありとあらゆることを試しても問題解決に至らない場合、装置をシールドされた筺体内に格納しなければならないと考える人もいるだろう。だが、この手法はコストが高くつき、実用的でない場合が多いことを覚えておいてほしい。
以下に、RFノイズの放射を最小限にし、高いRFイミュニティを得るためのルールをまとめる。
- すべてのケーブルは、グラウンド層/電源層のいずれかまたはその両方に1点接続すること
- センサーICのグラウンドは、信号が入力される端子に近接したグラウンドに接続すること
- センサーへの配線が2本あり、一方が信号で、もう片方がグラウンドまたは電源である場合、それらは近接したペア線を用いて配線すること。それによって、侵入したRFノイズがコモンモードノイズとなり、オペアンプで除去できないシングルモードノイズになるのを防止できる
- センサーからの信号線はグラウンド層と電源層の間を通すこと。これにより両層間で構成される容量によるデカップリングの効果が得られる
- 電源のインピーダンスは、電源回路の許容範囲内で極力小さくすること
- 基板レイアウトは極力小さい面積に収めること。そのために、使用する部品は、極力小さいものを選定すること
- グラウンドパターンはベタパターンとし、デジタルノイズがアナログ回路領域に侵入しないよう部品の配置や信号パターンを厳格に管理すること
- 電流変動が大きい電源回路において、基準電圧に付加するコンデンサは、出力コンデンサが接続された表層のグラウンドパターンに接続すること
- 1平方インチ(6.45cm2)よりも広い電源パターンには、RFノイズが侵入する可能性があることを念頭に置き、そのパターンに接続される各ICの電源端子にフィルタを挿入すること
- 信号の伝送ケーブルが長い場合、出力インピーダンスを低くすること
- 信号の伝送には、ベタパターンの層間に形成されたマイクロストリップラインを使用すること
- 可能ならば、グラウンドや電源からのノイズの影響を受けないように差動信号を使用すること
- RFノイズを除去するフィルタには、容量が100pFのコンデンサを使用すること。容量が0.1μFのコンデンサは、自己インダクタンスが大きくRF帯域に対する十分なフィルタ効果が期待できない。また、コンデンサを選択する場合、メーカーのデータシートを参照して、対象の周波数帯において十分に低いインピーダンスになることを確認すること*8)
- ノイズの影響を受けやすいオペアンプの入力端子などでは、ICの端子間や、基板パターンと端子との間などの部分に小さい容量が形成されることに注意すること
推奨される設計手法
筆者が推奨する設計手法は、次のようなものになる。まず、外層に信号パターンを配置したプリント基板を用いて基本設計に対するデバッグを行い、設計要件が満たされたことを確認する。続いて、プリント基板の外層に電源とグラウンドを配置した基板を試作する。このような設計手法を用いれば、RFノイズの放射やRFイミュニティの劣化の主な原因である長い信号パターンをファラデーケージに閉じ込める形にできる。
また、層間を接続するビアを利用すれば、基板の端部をグラウンドに接続されたビアで囲ってファラデーケージを強固にしたり、回路ブロックごとにファラデーケージの領域を分割したりすることができる。
さらに、6層基板が使用可能なのならば、この考えを発展させてさらに有効な手段を用いることができる。例えば、表裏にグラウンド層を配置し、電源層を含む内側4層に対するデカップリング効果を強化したファラデーケージが構成できるのだ。
上記で示したルールに基づいて、小さなプリント基板に多数の信号線を最短距離で配置し、さらにその信号線のインピーダンスを低くするのは、実際には簡単なことではないかもしれない。しかし、高いRFイミュニティを実現するには非常に重要なことである。RFノイズの発生源に対して対策を施せない場合、その影響が可能な限り小さくなるように検討する。例えば、ICのRFイミュニティを十分に評価して注意深く選択すれば、機器のRFイミュニティを確保/改善できるだろう。
脚注
※8…"Application Notes for Multilayer Ceramic Capacitors," p.46, Kemet Electronics Corp.
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