非補償型オペアンプの基本を知る(2/2 ページ)
ユニティゲインでも安定に動作するよう内部補償されたオペアンプには、ユーザーにとって、より容易に安全な回路を設計できるというメリットがある。しかし、そうした「完全補償型オペアンプ」では、AC性能の主要部分を犠牲にしていることも事実だ。本稿では、この種の製品とは異なる方針で設計された「非補償型オペアンプ」の概要とそのメリットについて解説する。
非補償型オペアンプ
オペアンプ製品は、どのような方針で内部回路による位相補償を行っているのかという観点から2つに分けられる。1つは、ユニティゲインでの安定性を内部の位相補償回路によって確保する「完全補償型オペアンプ」である。これとは異なり、オペアンプ回路を構成した際、あるゲイン以上で使用することを前提として、位相補償量を軽減しているタイプのものがある。これが「非補償型オペアンプ」である。
実際のオペアンプ回路の有効帯域幅は、信号経路中でのオペアンプの使い方に大きく依存する。例えば、多くのセンサーアプリケーションでは、オペアンプはセンサーからの信号を一定の増幅度で扱い、A-Dコンバータの入力範囲に整合させる。このときに必要な増幅度は、10以上となることが多い。オペアンプ回路での実際の増幅度が高いのであれば、ユニティゲインでの安定性を考慮する必要はない。そのため、内部での位相補償が不完全な非補償型オペアンプを利用することができる。非補償型オペアンプであれば、完全補償型オペアンプと同一の消費電力で、広い帯域幅と高いスルーレートを得ることができる。
完全補償型との比較
完全補償型オペアンプと非補償型オペアンプの具体例を基に、両タイプの比較を行ってみよう。National Semiconductor社のオペアンプ「LMV793」と「LMV796」は、チップ内部の位相補償量を除けば同一の設計となっている。完全補償型のLMV796はユニティゲインでも安定に動作する。一方、LMV793は非補償型であり、増幅度が10以上の場合に安定動作するようになっている。
両製品の開ループゲイン特性は、図2のようになっている。完全補償型オペアンプであるLMV796は典型的な単極応答特性を示す。極の周波数が60Hzで、ユニティゲイン周波数(ゲインが1になる周波数)が17MHzである。一方、非補償型オペアンプのLMV793は内部補償が完全ではないことから、開ループゲイン特性に2つの極を持つ。
この図において、LMV793の開ループゲイン特性はLMV796に比べ右側に位置しており、より高周波特性に優れていることがわかる。約500Hzの位置に第1の極があり、この周波数はLMV796の極周波数より440Hzも高い。第2の極は45MHzに位置し、それより高周波側での開ループゲインは−40dB/decadeで減少して、ゲイン0dBのラインと交わる周波数は約56MHzとなっている。非補償型オペアンプであるLMV793の広帯域特性は、完全に内部補償されたLMV796と比較して消費電力の増加なしで得られている。完全補償型の高速オペアンプは一般的に大きな電源電流を要するが、同じ消費電流であれば非補償型オペアンプのほうが高周波特性に優れるということである。
非補償型オペアンプであるLMV793のGB積は、10以上の閉ループゲインにおいて88MHzである。第2の極は開ループゲインが1になる周波数である約51MHzより低い45MHzの位置にある。非補償型オペアンプではユニティゲイン周波数とゲイン帯域幅は同一ではない。
閉ループゲインの周波数特性は、オペアンプのGB積に依存する。オペアンプのデータシートには、GB積の規格値が記載されている。この規格値と設計したオペアンプ回路の閉ループゲインから−3dB周波数を簡単に計算できる。例えば、LMV796はGB積が17MHzであり、これにより閉ループゲインが100のオペアンプ回路を構成すると、その帯域幅は0.17MHzとなる。これがオペアンプ回路としての−3dB周波数である。この周波数でのゲイン誤差は約30%となる。一方、非補償型オペアンプのLMV793は、閉ループゲインが10以上の場合のGB積が88MHzである。これを使用するオペアンプ回路のゲインが100ならば、オペアンプ回路全体としての帯域幅は0.88MHzとなる。
LMV793とLMV796を比較した結果をまとめると、次のようになる。非補償型のLMV793は、ゲイン10におけるGB積が88MHz、立ち上がり時のスルーレートが40V/μsである。一方、完全補償型のLMV796は、ゲイン10におけるGB積が17MHz、立ち上がり時のスルーレートが9.5V/μsとなる。
有効帯域幅の比較
多くのセンサーアプリケーションでは、オペアンプ回路に対する入力信号はAC信号であり、数十キロヘルツに達する周波数成分を含む。こうした信号の振幅を正確に再現するには、オペアンプ回路のゲインが、対象とする周波数全体にわたって正確でなければならない。信号を正確に増幅するには、ゲイン誤差が周波数の関数になることを考慮して設計を行う必要がある。
表4に示したのは、LMV796とLMV793を使用した場合の有効帯域幅の比較である。表の左から4列目は、LMV796を用いて閉ループゲインが100、帯域幅が170kHzの増幅回路を構成したときのA-Dコンバータの分解能に対する有効帯域幅である。例えば、A-Dコンバータが14ビットの場合には、有効帯域幅が1328Hzとなる。この例からわかるように、有効帯域幅は−3dB帯域幅よりもはるかに低い。それに対し、非補償型オペアンプならば有効帯域幅がはるかに広く、高分解能のA-Dコンバータとの接続に適しているのである。
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