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ドイツ大手自動車メーカーの最新クリーンディーゼル技術(2/2 ページ)

 いよいよ北米50州でのディーゼル乗用車発売が本格化してきた。Volkswagen社の「VW Jetta TDI」を皮切りに、Audi社、Daimler社、BMW社というドイツの大手自動車メーカーが年内発表を表明している。そして、ディーゼル乗用車の本場ともいえる欧州でも、よりクリーンで、よりパワフルな新型エンジンの投入が相次いでいる。

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シーケンシャルツインターボ

 次に、BMW 123dとM.Benz C250CDIだが、こちらは欧州仕様。これらの共通する技術アイテムはシーケンシャルツインターボだ(図3)。こちらはディーゼルエンジンがガソリンエンジンに劣っていると思われる出力性能を向上させる事を目的としている。個々のモデルを説明する前に、簡単にターボシステムについて説明する。


図3 M.BenzC250CDIに搭載するディーゼルエンジンのシーケンシャルツインターボシステム(提供:Daimler社)
図3 M.BenzC250CDIに搭載するディーゼルエンジンのシーケンシャルツインターボシステム(提供:Daimler社) 

 ディーゼルエンジンだけでなくガソリンエンジンにも過給システムは出力向上に有効だが、ノッキング限界が事実上存在しないディーゼルエンジンには過給システムが非常に有効な手段となる。まずその理由を簡単に説明する。ディーゼルエンジンの出力/トルク限界はスモーク限界といってよい。きわめてシンプルに考えると、あらゆるエンジン回転数においてスモーク発生が始まる空気過剰率(下限)が燃料噴射量の限界(上限)となる。つまり、より多くの空気をシリンダに入れられるだけ入れられれば、同じ空気過剰率としたときの燃料噴射量を増やせる。つまり、より多くの出力が得られる。

 さらに過給システムの種類には排気エネルギを利用するターボ式と、エンジン自身の回転エネルギを利用する機械式が存在するが、エネルギ効率を考慮すると、そもそも有効活用できていない排気エネルギを回生できるターボ式が圧倒的有利になる。しかし、ターボ式の弱点は排気エネルギが少ない領域(低回転等)にある。もちろんその欠点を補う可変ノズル式による低回転領域での過給効率の性能が向上してきて、今日のターボディーゼルの基本形となっているのはよく知られているが、昨今の増々厳しくなる排ガス規制と出力向上の両立にはさらなる過給特性の向上が求められる。

 そのため、低回転にふさわしい小さいターボと、高回転高負荷にふさわしい大きなターボを組み合わせるシーケンシャルツインターボが現れてきたのだ。最も一時のガソリンエンジンにおけるターボ技術開発でも、シーケンシャルツインターボは特に富士重工業が「レガシィ」で、マツダが「RX-7」で先行したように、日本メーカーが得意としてきた分野でもある。それが昨今の高まるCO2排出量低減要求にともない、ディーゼルエンジンが注目されてきた流れで、よりふさわしい相手ともいえるディーゼルエンジンと組み合わされ始めたということもできる。

 話題を、BMW 123dに戻す(写真2)。この車両に搭載される4気筒ユニットのエンジンは、2008年の Engine of the Yearを受賞したことでも有名だ(写真3)。先に説明したシーケンシャルツインターボにより、2000rpmという低回転から400Nmのトルクを発生する。また、最大出力は、150kW(204ps)/4400rpmを誇る。つまり、排気量当たりで比較する比出力は100ps/Lを超えていることになる。この高出力高性能にも関わらず、CO2排出量は138g/kmと少なくとても優秀だ。エミッション適合は欧州市場ということで「Euro 4」なのが残念だが、ディーゼルエンジンも100ps/Lを達成できることを証明したこのエンジンの功績は素晴らしい。

写真2 BMW123d(提供:BMW社)
写真2 BMW123d(提供:BMW社) 
写真3 BMW123dのクリーンディーゼルエンジン(提供:BMW社)
写真3 BMW123dのクリーンディーゼルエンジン(提供:BMW社) 
図4 シーケンシャルツインターボによる出力向上の比較(提供:Daimler社)
図4 シーケンシャルツインターボによる出力向上の比較(提供:Daimler社) 

 さて、最後はこの秋に登場予定のM. Benz C250CDIだ。エンジンは4気筒で排気量2143cc。BMWがパワーなら、こちらは最大トルクで勝負だ、と言わんばかりに、スペックが強烈だ。1600rpmという極低回転から500Nmという高トルクを絞り出し、4200rpmにおいて150kWという最高出力を発生する。こちらを、排気量当たりのトルクに換算すると、230Nm/Lを超えていて、もちろん最強だ(図4)。この秋にCクラスに搭載されるディーゼルエンジンは、同スペックを最強仕様として、125kW/400Nm仕様のC220CDIもラインナップされており、CO2排出量がそれぞれ、143g/km、136g/kmといずれも140g/km前後と優秀な性能を持つ。排ガス適合は2009年から施行予定のEuro5に先行適合となり、ユーザーは、CO2排出量と出力パフォーマンスによって、自分にあったCクラスディーゼルを選ぶことができる。

 今回取り上げた、VW、BMW、M. Benzだが、それぞれに今後もディーゼルエンジン開発にかける意気込みには強いものを感じる。VW/Audiグループは、現在の新世代ディーゼルエンジンの基本形(コモンレール+ターボ)を初めて作った(1989年)という自負に満ちあふれ、M. Benzは1936年に260Dという乗用車初のディーゼルを発表したことを誇り、ディーゼルエンジンでは若干遅れていたBMWは、昨年から今年にかけてオーストリア北部のシュタイヤーにあるディーゼル開発センターに1400万ユーロもの投資を行い、この勢いをさらに強固なものにしようとしている。

 日本では、日産自動車がポスト新長期規制に先行適合させた「エクストレイルディーゼル」を2008年9月に発売する。三菱自動車もポスト新長期規制には適合しないものの「パジェロ」のディーゼルエンジン車を同じく2008年9月発売と発表し、ホンダも発表するという噂がある。欧州勢が北米のTier2 Bin5に適合させられるということは、日本のポスト新長期規制への適合もそう困難ではないはずだ。ここ数年、特に来年のポスト新長期が始まってからの、日本で選択できるディーゼル乗用車急展開は間違いないと思え、非常に楽しみでもある。

(モータージャーナリスト、長沼 要)

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