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組み込み向け「x86」の現状に迫る(1/4 ページ)

パソコン向けとして広く認知されてきたx86系プロセッサ。これが、最近では組み込み機器においても検討の俎上に載るようになってきている。実際、Intel社やAMD社、VIA社らは、組み込み機器をターゲットとしたx86系製品をいくつも提供している。本稿では、この3社の過去、現在、そして将来の動向を基に、組み込み分野におけるx86系プロセッサの可能性を探ってみたい。

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パソコンから組み込み機器へ

 読者がパソコン以外の電子機器の設計者で、もともとパソコン用に作られた半導体製品や電子部品を採用しようと考えているのならば、注意しなければならないことがある。過去に同じことを試みた設計者によって得られた教訓なのだが、パソコン用の部品に大きく依存するのは避けたほうがよい。

 パソコンの生産台数の多さがもたらす部品の安さと、部品が進化する速度の速さを利用しない手はないようにも思える。しかし、部品が急速に進化するということは、新しい部品が急速に廃れていくという意味でもある。すなわち、部品がすぐに製造中止になる危険性が少なくない。製品の寿命がわずか半年ということすらあるのだ。

 こうした状況にも柔軟に対応できるということであれば、パソコン用のマイクロプロセッサをパソコン以外の機器に採用することは、システムのコストと性能の要求仕様を両立させるための有効な手段となるだろう。また、パソコン用に開発されたマイクロプロセッサでも、電源回路の規模の大きさや、電池の寿命の短さ、放熱の必要性などは、以前に比べると問題の程度としては小さくなってきた。低消費電力化を意識したプロセッサが増えてきたからだ。

 とはいうものの、既存の組み込み用部品を採用したほうがよいシステムがまだまだ多い。組み込み用マイクロプロセッサや組み込み用DSPの開発企業は、パソコン用プロセッサの進化をただ眺めていたわけではない。実際、x86系のマイクロプロセッサは、ほかの製品に比べて抜きん出た特徴を持つとは言い難い。動作周波数当たりの消費電力が最も少ないわけではないし、動作周波数当たりの性能が最も高いわけでもない。プログラムコードの効率が最も良いとも言えない。

 しかし、x86系プロセッサには大きな長所がある。それは全体のバランスだ。総合的な評価では、競合するプロセッサよりも優れていることが少なくないのである。

 x86系プロセッサの歩みを十分に理解しておくことは、次期システムの設計を検討するに当たって大いに参考になるだろう(別掲記事『Intel社に挑んだプロセッサベンチャーの行方』も参照)。まずは、この分野における米Intel社の歴史から振り返ってみる。

Intel社に挑んだプロセッサベンチャーの行方

 新興企業であった米Transmeta社は1995年、プロセッサ製品の設計を極秘に開始した。時間の経過とともに、同社がIntel社に対抗して、ポータブルシステム向けに低消費電力のx86互換プロセッサを開発しているという噂が広まり出した。2000年1月にTransmeta社がx86互換プロセッサの開発計画を発表したころには、業界の期待は最高潮に達していた。製品化されたのは「Crusoe」と「Efficeon」の2つの製品ファミリである。

 同社はその後、大規模な人員削減を実行し、今ではIP(intellectual property)ベンダーとなっている。昔の勢いは失っているものの、当時のIntel社が低消費電力チップの開発を迫られるなど、プロセッサ業界に与えた影響は小さくない。

 数年前に設立された米Montalvo Systems社も、Transmeta社と同じ道を歩もうとしたようだ。断片的に耳にする噂といくつかの申請済み特許を基に、業界筋は「Montalvo社はx86互換の低消費電力プロセッサを開発中である。そのプロセッサは非対称型マルチコアアーキテクチャをベースとしたものになるだろう」と推測した。

 Montalvo社は7300万米ドルを超える出資を受けた。CEO(最高経営責任者)を務めるMatt Perry氏は、かつてTransmeta社のCEOとしてIntel社に挑戦した人物である。

 しかし、Montalvo社は財政的に行き詰まり、増資または売却の道を選択しなければならなくなった。2008年4月21日、米Sun Microsystems社はMontalvo社の技術資産を買収したと発表した。


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