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組み込み向け「x86」の現状に迫る(4/4 ページ)

パソコン向けとして広く認知されてきたx86系プロセッサ。これが、最近では組み込み機器においても検討の俎上に載るようになってきている。実際、Intel社やAMD社、VIA社らは、組み込み機器をターゲットとしたx86系製品をいくつも提供している。本稿では、この3社の過去、現在、そして将来の動向を基に、組み込み分野におけるx86系プロセッサの可能性を探ってみたい。

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x86系CPUボードを供給――VIA社

 台湾のVIA Technologies社は、x86系プロセッサ関連のチップセットベンダーとしてよく知られていた。同社は1999年にNational Semiconductor社の子会社である米Cyrix社と、米IDT(Integrated Device Technology)社の子会社である米Centaur Technology社を買収し、マイクロプロセッサ事業にも進出した。

 Centaur Technology社は設立当初から一貫して、プロセッサ製品におけるチップサイズの縮小と消費電力の低減に注力してきた。この分野でも、最近でこそ珍しくなくなった考え方だが、当時はプロセッサの動作周波数の向上が優先された時代であることを考えると、貴重な姿勢である。

 VIA社の代表的なマイクロプロセッサ製品である「C3」シリーズは「Nehemiah」というコアをベースとするが、一部にはコアとして「Samuel2」を採用した製品が残っている*5)。またNehemiahとコアロジックのノースブリッジを集積した製品「CoreFusion」がある。

 Nehemiahは浮動小数点ユニットとMMX(マルチメディア)拡張の実装、SSE(streaming single instruction/multiple data extensions)命令のサポート、ハードウエア乱数発生器の内蔵といった特徴を有する。また、Nehemiahの改良版では、標準的な暗号方式であるAES(Advanced Encryption Standard)のデコーダ機能が追加された。

 C3シリーズの後継品種が「C7」シリーズである。C7シリーズは米IBM社が製造しており、同社の90nm SOI(silicon on insulator)プロセスが使われている。C7はRSA(Rivest‐Shamir‐Adleman)に代表される公開鍵暗号を高速処理するためにモンゴメリ乗算器を備えるほか、SHA(secure hash algorithm)-1/256をサポートする。また、バッファオーバーランに乗じた外部からの攻撃を防ぐために、NX(no execute)ビットを採用した。

 C7シリーズの応用分野はノート型パソコンやデスクトップ型パソコン、組み込み機器などである。例えば、米HP社が最近発表したミニノート型パソコン「2133 Mini-Note PC」がC7を採用している(写真3)。

写真3 VIATechnologies社のx86系プロセッサに関連した製品
写真3 VIATechnologies社のx86系プロセッサに関連した製品 VIA社は、早くから低消費電力、低コストのx86系プロセッサを開発してきた。(a)はVIA社がフォームファクタを規格化したCPUボードのPico-ITX。(b)は、HP社ミニノート型パソコンの2133Mini-NotePCで、VIA社のC7を搭載している。(c)は2008年に出荷が開始されたx86系マイクロプロセッサのNano。

 VIA社は、元来、x86系プロセッサ全般に向けてチップセットを供給するベンダーであったが、現在は同社のマイクロプロセッサだけを対象としてチップセットを開発/販売するようになった。同社のチップセットには豊富なオプションがある。MPEG-2/4、2D/3Dグラフィックスなどに対応したハードウエアアクセラレータを内蔵するチップセットがその例だ。外部インターフェースのオプションとして、SDR SDRAM(single data rate synchronous DRAM)コントローラ、DDR(double data rate) SDRAMコントローラ、パラレルATAコントローラ、シリアルATA(advanced technology attachment)コントローラ、PCIバスインターフェース、PCI Expressインターフェース、USBポートなどが用意されている。

 VIA社は、顧客によるシステム設計の効率化を実現するために、規格化されたフォームファクタにのっとったCPUボードにマイクロプロセッサを実装した状態で供給している。大きさが6.7インチ(170mm)角のボード「mini-ITX」、4.7インチ(120mm)角の「nano-ITX」、3.9インチ×2.8インチ(100mm×72mm)の「pico-ITX」がある。

 これらの小型ボードは、マイクロプロセッサとチップセット、イーサーネットトランシーバ、3チャンネル以上のサラウンドサウンドに対応したアナログ/デジタルオーディオ、TPM(trusted platform module)、IEEE 1394イーサーネット、アナログビデオエンコーダ、DVI(digital visual interface)、LVDS(low voltage differential signaling)に対応した各機能を搭載する。

 上述した3種類のフォームファクタの中で、VIA社が2001年に発表したmini-ITXは発表が最も早かったことと、従来のマザーボードよりも小型であったことから、サードパーティのCPUボードベンダーが製品に採用した。現在では、Intel社とAMD社のx86系プロセッサを搭載したmini-ITXボードがCPUボードベンダーから入手できる。また、Intel社自体が独自にmini-ITXボードを製造している。なお、Intel社は、Atomを搭載したmini-ITXボードの設計仕様を開発者フォーラムで公表している。

 VIA社の次期マイクロプロセッサ「Nano」(開発コード名は「Isaiah」)にも触れておこう。同プロセッサでは、同社の既存プロセッサとは異なり、新規開発のマイクロアーキテクチャによって高い処理性能を意欲的に追求した。3ウェイのスーパースカラー構造やアウトオブオーダー実行などを採用した64ビットのマイクロプロセッサである。製造は富士通が請け負い、65nmプロセス技術を駆使している。目標性能は、整数演算性能でC7の2倍、浮動小数点演算性能でC7の4倍である。TDPは動作周波数が1.8GHzのときに25W。

 NanoをサポートするチップセットもVIA社が提供する。また興味深いことに、GPUベンダーの米NVIDIA社もNanoに向けたチップセットを供給する予定である。


脚注

※5…Dipert, Brian,“Hands-on project: And then there was one,”EDN, March 4, 2004, p.44


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