磁気センサー活用への第一歩:用途に最適な製品を選択するために(5/5 ページ)
「磁気センサー」には、いくつもの実現方式があり、それぞれに長所/短所が存在する。呼び方だけ見ても、ガウスメーター、テスラメーター、磁束計、磁力計などさまざまだ。しかも、数米ドルから数万米ドルまでと、価格帯の幅も広い。では、多くの選択肢の中から、用途に最適な製品を的確に選択するには何を理解しておけばよいのか。本稿では、こうした観点から、磁気センサーに関する基本的な情報を整理して提供する。
核磁気共鳴型センサー
核磁気共鳴(NMR:Nuclear Magnetic Resonance)を利用するセンサーもある。NMRとは、外部の静磁界中に置かれた原子核が、固有の周波数の電磁波と共鳴する現象のことである。
NMRの共鳴周波数が外部の磁界に比例することを利用した核磁気共鳴型センサーの1つにプロトン磁力計がある。プロトン磁力計は、水素原子核内のプロトン(陽子)のスピンの状態(向き)に依存する共鳴周波数を検出する。原子の特性に基づくものであるため、高い精度が得られ、センサーの分解能はppmオーダーに達する。プロトン磁力計のセンサー部は、プロトン(水素イオン)を多く含有した液体(灯油など)や水を入れた非磁性の容器と、その外部に巻かれた励磁用のコイル、検出用のコイルから構成される。励磁用コイルに電流を流して強い磁界を生成すると、プロトンのスピンの方向が同じ向きに整列する。続いて、励磁用の電流を遮断して印加する磁界を消失させる。これにより、プロトンのスピンの方向は時間をかけてランダムになる(緩和される)。この緩和過程で、第2のコイルに微弱な電流が誘起される。この電流の周波数が核磁気共鳴周波数となり、これが外部の磁界の強度に比例する。外部の磁界が地磁気の場合には、共鳴周波数は1.5kHzになる。
もう1つ、核磁気共鳴を原理とするものにオーバーハウザー型磁力計がある。この方式では、水の励磁に約45MHzの高周波を使用する。この周波数が共鳴周波数となり、計測の対象となる磁界の強度に対応することになる。正確な測定が行え、ドリフトもなく、共鳴現象に軸依存性がないため3軸測定が可能である。ただし、このタイプのセンサーはほかの方式に比較すると価格が高い。また、この方式には特有の欠点がある。というのは、「センサーに使用する水が寒冷地では氷結し、容器が破損する恐れがある」(GMW Associates社社長のBrian Richter氏)のだ。この問題は、例えばセンサーを滑走路に設置し、気温が氷点下になった場合などに起こり得る。
また、核磁気共鳴型センサーでは、測定の対象とする磁界の強度が容器内で均一であることが必要となる。このことから、DCまたは低周波のAC磁界しか測定できない。
■製品の例
Metrolab社のNMR型テスラメーター「PT2025」は、医療用MRIに広く使用されている(写真6)。0.043T〜13.7T(430G〜137kG)の範囲で磁界強度を測定でき(ただし、一定磁界強度範囲ごとにプローブの交換を要する)、絶対値精度は5ppm、分解能は0.1μT(1mG)である。オプションのプローブマルチプレクサを使用すると、最大64個のセンサープローブを同時に使用できる。同製品は、MRIや分光計の分野での磁界マッピング、精密な磁界制御、磁気センサーの校正などに使用されている。対応する磁界の種類はDCおよび周波数の低いAC。価格は2万650米ドルで、GMW Associates社が販売している。
Metrolab社は、32本のセンサープローブをアレイ化した「MFC-3045-D」という製品も供給している。これは、MRIトンネル内を球面状に走査して、磁界強度の均一性を測定するために使用される。価格は3万1580米ドルで、GMW Associates社が販売している。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.