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複数のセンサーで高度化する組み込みシステム(2/2 ページ)

組み込みシステムの性能を高めるために、設計者はシステムに搭載するセンサーの数を増やし、よりインテリジェントな処理機能を追加しつつある。センサーの数が増加することで、システムの設計はより複雑になるが、従来のシステムから大幅にコストを増やすことなく、より多くの機能を追加できる可能性がある。複数のセンサーを活用しようという傾向は、ハイエンドの製品に限らず、家電製品などの安価な製品にも拡大しつつある。

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半自律型システム

 半自律型システムも、多くのセンサーを搭載する代表的なものとして用途が拡大している分野である。ハイエンドのものとしてはフライバイワイヤー(Fly-by-wire:FBW)の航空機や自動車があり、ローエンドのものとしては洗濯機などの民生電気製品がかなり増えてきている。

 半自律型システムは、オペレータ(人)からの高レベルの指示をある程度受けるが、システムの低レベルの細かい動作を監視/制御/管理する能力を持つ。広い意味においては、ほとんどの組み込みシステムがこの半自律型システムの分野に属しているとも言える。そのため、組み込みシステムの設計者は、センサーやデータを多用するほかの設計から得られた知識を参考にすることができるはずだ(別掲記事『スーパーコンピューティング』を参照)。

 先述したBigDogのような複雑な遠隔制御システムは、その時点における環境や状況に自律的に反応する必要がある。この種の機器は、システムが適切に動作するようオペレータが膨大な数の調整を指示するに十分なデータの帯域幅や遠隔制御インターフェースは備えていない。一方、半自律型サブシステムを実装する場合は、普通のオペレータが手作業で行うよりも、高速かつ正確にその作業を行える必要がある。

 半自律型のFBW飛行制御システムは、物理的に行う制御を電気的な処理に置き換えるものである。制御システムはパイロットの命令を受けると、センサーからのデータに基づいて各アクチュエータの最適な動作を割り出し、指示されたとおりの挙動を正確に実行する。インテリジェントな飛行制御システムによって、パイロットは各サブシステムを制御する作業から解放され、飛行時に、より高いレベルの制御に集中することが可能になる。つまり、パイロットの貴重な認知能力を、飛行制御システムでは補うことのできない問題などに集中させることができるのである。

図1 自動車のエンジン管理システムの例
図1 自動車のエンジン管理システムの例 自動車のエンジン管理システムは、10個以上ものセンサーを連携させてエンジンの動作を最適化する(提供:ドイツInfineon Technologies社)。

 自動車にも、安全性と効率をより高めるために、運転者とオンボード制御サブシステムの間の高レベル制御と低レベル制御を分離するという同様の方法が多く採用されるようになってきている*5)。自動車における自律型サブシステムの例としては、アンチロックブレーキシステム、電気的安定性制御、トラクション制御、ヨー制御、およびインテリジェントな制止システムや、エアバッグのような衝突緩和システムが挙げられる。運転者は、これらの制御システムから恩恵を受けていることに気付いていない場合も多い。

 自動車のエンジン管理システムは、多くのセンサーが搭載された半自律型組み込みサブシステムの代表的な例である(図1)。同管理システムは、運転者とペダルとのインターフェースのモニタリングに加えて、温度、圧力、およびシステム内の空気、燃料、排気の化学組成など、多くのその他の慣性データポイントを追跡している。また、ほかのセンサーと連携して、スパーク、ノック、クランクシャフト位置を測定することにより、エンジンの出力、燃費、排気性能、運転性などを最適化するといったことが可能になる。

誤作動を防ぐ

 半自律型の組み込み制御システムを設計する際には、設計や実装コストに加え、あいまいな状態や未定義の状況に対して何らかの判断を下してしまうことで、システムの能力が制限されることを考慮する必要がある。誤った警告を多発したり、エンドシステムを故障させる可能性があったりすると、オペレータの介入が頻繁に必要となり、せっかくの「高度な」システムの価値が著しく低下してしまう。

 より多くのセンサーデータを連携させるのは、半自律型の組み込み制御システムがより複雑な判断を安全に下せるようにするためである。それにより、システムはますます適切な認識ができるようになり、誤った判断に基づいて動作することがなくなる。ハイエンドの自動車における衝突検出機能は、長距離/短距離レーダー、赤外線センサー、ビデオセンサー、慣性センサー、超音波センサーなど、連携して動作する多くのセンサーを利用して、潜在的な、または差し迫った衝突に対して必要な動作を検出する。これらのセンサーのそれぞれが、周囲の環境に関する情報を提供し、制御システムは、その情報をほかのセンサーからのデータと部分的に連携させることによって、それぞれのセンサーの死角部分を補う。そうすることで、例えば自動車のバンパーに小石が当たっただけでエアバッグが誤作動してしまうといったことが防げるようになる。

 自動車における警告サブシステムとして増加しているのは、車線からの逸脱や死角の検知などに対して補助的な警告を発することで、運転者に対する情報や支援を提供するものである。こうした警告システムは、複数のセンサーからの入力データを総合的に判断することで、無駄な警告を発したり、誤作動を起こしたりすることを回避している。例えば、車線からの逸脱を検知するサブシステムは、運転者に警告を発する前に、視覚、慣性、車輪位置、ステアリングコラム位置を監視する各センサーのデータを総合して、誤った警告を発生することを防止する。

民生機器での利用も加速

図2 民生機器でのセンサーの利用例
図2 民生機器でのセンサーの利用例 複数のセンサーを用いて決定を行うには、各センサー用に追加のメモリーが必要となる。それにより、データをほかのセンサー入力と連携させるためのバッファリングと処理をサポートする(提供:米Freescale Semiconductor社)。

 組み込み制御システムに多くのセンサーと高度な処理能力を搭載する場合、コストと設計の複雑さが問題になる。このことが部品ベンダーによって解決されるに連れ、設計者はより高度な自律型制御システムを、ミドルレンジの民生製品などにも搭載し始めている。米Microchip Technology社の主席アプリケーションエンジニアであるPriyabrata Sinha氏は、「電子機器は単なる機械の枠を超え、より多くのセンサーやインテリジェントな機能を判定回路として搭載するようになっている」と指摘する。

 例えば、ある最新式の洗濯機は、3個のマイクロコントローラを用いて、システムとユーザーインターフェースを管理している(図2)。ここで注目すべきは、複数のセンサーを搭載する場合には、プロセッサのアーキテクチャに変更があるのではなく、フラッシュメモリーの容量が増えるという点である。メモリーの容量が大きければ、システムは新しいセンサー用の追加のコードを搭載することができ、プログラムコードには、センサーを連携させるためのより複雑な制御アルゴリズムを実装できるようになる。

 米Renesas Technology America社の製品担当シニアマネジャを務めるRitesh Tyagi氏によると、「応答が迅速なシステムを構築する際に重要となるのは、センサー用のプロセッサをどのように組み合わせて接続するかということだ」という。ミドルレンジの価格の冷蔵庫には、おそらく最大8個程度のマイクロコントローラが適切な局所センサーとともに搭載され、冷凍庫や野菜室など冷蔵庫の庫室ごとに最適な制御が行われる。このような構成においては、集中型と分散型の処理をうまく組み合わせて、信頼性を高め、厳しい消費電力要件を満たし、機器の使用方法を簡素化している。

 残念ながら、複数の種類のセンサーデータを利用して、制御アルゴリズムにおいてそれらを連携させる方法は、多くの企業においてプロプライエタリな機密情報である。しかし、本稿で示した例は、センサーからの情報を収集し、それをシステムにおけるほかの情報と連携させて、全体のコストを抑えつつ、付加価値の高い新しい機能を効率良く実行する、より優れた設計を実現する方法を模索する上でのヒントになるだろう。

スーパーコンピューティング

 センサーフュージョン(センサーの融合)という言葉がある。これは、複数のセンサーから得られたデータを組み合わせることで、個々のセンサーを単体で使用するときよりも、正確かつ信頼性の高い情報を生成するという意味である。それに対し、必要なデータが、ある特定の分野に関する膨大な量の類似データを収集する1種類のセンサーから得られる例もある。例えば、CT(Computed Tomography)スキャン、MRI(Magnetic Resonance Imaging)スキャン、薬品と遺伝子のマッチング、さらには油田発掘のために地中に向けて発したインパルス信号による振動データの利用などである。これらの用途においては、データ量があまりにも膨大であるため、まずコンピュータによって管理/使用できる形式に変換しなければ、人間がその全体像を把握することは不可能である。連携を実現するためのデータ量は非常に多いため、現実的な時間内に有効な情報を生成するには、多くのプロセッサを搭載したスーパーコンピューティング技術が必要になる。

 スーパーコンピューティングと膨大な量のデータ相関機能を適用するCAD(Com puter Aided Detection)技術は、例えば、レントゲン技師にとっての“もう1つの目”となって、医学画像の読み取りと解釈を支援する。CADソフトウエアは、画像処理技術に代わるものではなく、大量の演算処理によって医学画像を解釈する際の視覚的なサポートを行う。CADシステムにおけるトレードオフの1つは、データ相関の品質と、その品質レベルを得るためにかかる時間である。CADソフトウエアは、医学画像から特徴的な部分を検出し、レントゲン技師にそれを提示することによって、偽陰性(False Negative)の判定を減らす。

 医学分野ではCAD技術を、CT検査、マンモグラフィ、肺結節検査における大量のデータ処理に利用している。装置としては米Hologic社の「ImageChecker」システムなどがある。

 これらスーパーコンピューティングの応用例のようなシステムにおいてユーザーが得た知識は、さらに複雑な検出と意思決定をリアルタイムに実施可能な、将来の組み込み制御システムを構築するためのヒントになる可能性がある。


※5…Cravotta, Robert, "Making vehicles safer by making them smarter," EDN, June 8, 2006, p.49. http://www.edn.com/article/CA6339246.html


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