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ΔΣ型A-Dコンバータの遅延時間Baker's Best

マルチプレクサを利用してA-D変換を行うシステムを設計する際は、事前にどのような確認が必要になるのだろうか。

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 マルチプレクサを使用すれば、複数の入力チャンネルの信号のうち1つを順次選び、1個のA-DコンバータによってA-D変換を行うことができる。このような方式は、消費電力やコストの面で有利である。ただし、このようなシステムでは、設計に着手する前に確認すべき事柄がある。それは、デジタル化する信号がどのような性質のものなのかということだ。例えば、各チャンネルについて、信号周波数の最大/最小値、必要なデータ精度などを検討した結果、A-Dコンバータの数を増やさざるを得ないこともある。検討の結果、問題がなければこの構成をとればよいが、もう1つ注意すべき事柄に遅延時間(Latency)がある。

 図1に、マルチプレクサの出力を1個のΔΣ変調方式A-Dコンバータ(以下、ΔΣ型A-Dコンバータ)でデジタル値に変換する回路の構成例を示した。マルチプレクサの前段にあるのは、アンチエイリアシング(折り返し防止)用のフィルタである。

図1 マルチプレクサとΔΣ型A-Dコンバータを組み合わせたシステム
図1 マルチプレクサとΔΣ型A-Dコンバータを組み合わせたシステム

 このシステムの入力信号は各チャンネルとも、時間の経過に伴って変動するが、基本的な性質は直流である。しかし、順次チャンネルが切り替えられることから、ΔΣ型A-Dコンバータへの入力はステップ状の信号として変化することになる。そのため、ΔΣ型A-Dコンバータにおける遅延時間が設計時に考慮すべき重要な特性になる。

 この遅延時間はサイクル数の単位で表現することができる。すなわち、入力信号の変換が開始されてから、それに対応するデータが出力されるまでのサイクル数が遅延時間である。このサイクル数内で、ステップ状の入力に対する出力が完全にセトリングされることになる。現在のサイクルにおける変換が、次のサイクルの変換開始までに完了するのであれば、遅延時間のサイクル数はゼロである。マルチプレクサと組み合わせて使用するものとしてΔΣ型A-Dコンバータを選択する場合には、この遅延時間のサイクル数が1つの制約要因となる。

図2 各ポイントでの信号の様子
図2 各ポイントでの信号の様子 各チャンネルの入力が直流であっても、マルチプレクサの出力は、各チャンネルの信号が順次切り替えられるため、高速でステップ信号状に変化することになる。

 図2は3チャンネルの入力を備えるシステムにおける各ポイントでの信号の変化の様子を表したものだ。マルチプレクサは入力チャンネルを順次切り替え、短い時間幅で各信号を出力する。その出力信号は、各チャンネルからの信号がステップ状に並んだ形となり、これがΔΣ型A-Dコンバータに入力される。ΔΣ型A-Dコンバータから見ると、この入力信号はチャンネルの切り替わりに対応して高速かつ大きく変化する。このような信号を入力とするΔΣ型A-Dコンバータでは、内部の処理が高速に行われなければならない。

 ΔΣ型A-Dコンバータの中には、遅延時間のサイクル数がゼロであるものも存在する。この種の製品が、複数のチャンネルをマルチプレクサで切り替えるシステムには適している。

<筆者紹介>

Bonnie Baker

Bonnie Baker氏は「A Baker's Dozen: Real Analog Solutions for Digital Designers」の著書などがある。Baker氏へのご意見は、次のメールアドレスまで。bonnie@ti.com


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