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電磁界ソフトのユーザーにエキスパートが贈る助言Signal Integrity

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博士は以前、「実測を行うことによって、大いに“心の慰め”が得られるかもしれない。しかし、実際に得られる結果は時に有用なものでないことがある」と語っているが、その意味は

多くの技術者は、測定装置によって得られる実測結果を、それが絶対的な真理であるかのように、あまりにも簡単に受け入れすぎる。現実には、実測時にさまざまな間違いを犯す可能性がある。計測用のプローブが負荷として重過ぎるために回路の動作条件が変化してしまったり、適切なグラウンド面への接続が十分でなかったりといった具合だ。

 実測が重要であることは確かだ。しかし、正確さを期するには、常にその結果が信じられるものであるか否かを確認することが不可欠だ。シミュレーションについても同じことが言える。

差動ビアを設計する場合、どのようなシミュレーションツールを使用すればよいのか

対象とする信号の周波数(ビットレート)とビアの寸法によって異なる。周波数が数ギガビット/秒以下で、基板の厚さが1.5mm〜2.5mm(60〜100mil)の範囲にあるなら、3次元準静電磁界法(3-D Quasistatic Field Solver)を使用して、集中定数のL(インダクタ)、R(抵抗)、C(コンデンサ)から成る構造として解析するのが適当だ。しかし、周波数がもっと高く、バックプレーンのような分厚い基板を扱う場合には、準静電磁界の前提が成立しなくなる。そのため、3次元のフルウェーブ(Full-Wave)ツールを使用すべきだ。ビアのSパラメータモデルを構築し、それを使ってSパラメータに対応したSPICEシミュレータによってシミュレーションを行えばよい。

フルウェーブシミュレータによって正確な結果を得るためには、どのようなことに気を付けるべきか

シミュレータのユーザーは、どのような条件をツールに与えればよいのかを理解しておかなければならない。

 まず、シミュレーションの対象とする事柄に関し、物理的/電磁的特性の基本について理解しておかなければならない。そうした理解なしには、どのようなツールを使用しても有用な答えは得られない。

 さらに、モデリングの手法によって扱える範囲や、それぞれのツールの限界も理解しておく必要がある。このような手法には多くの種類があり、ある目的においては優れていても、ほかの目的に対しては得意でないといったことがある。例えば、モーメント法(MOM:Method of Moments)は長い配線からの放射を解析する用途には優れているが、シールド効果の解析に用いるのは適当ではない。時間領域差分法(FDTD:Finite Difference Time Domain Method)や有限積分法(FIT:Finite Integration Technique)はシールド効果の解析には向いているが、長い配線からの放射の解析は不得手だ。

 また、部分要素等価回路(PEEC:Partial Element Equivalent Circuit)法を用いれば、プリント配線板に関するシミュレーションのほとんどが行える。この手法は、時間領域と周波数領域の両方を扱うことができ、電源プレーン面のフルウェーブシミュレーションが可能だ。また、この手法では、L、R、Cなどの集中定数部品をフルウェーブシミュレーションに含めることができる。しかも、計算負荷がそれほど増大しない。この点がほかのフルウェーブ手法とは異なる。

将来的には、コンピュータを使って設計すれば物理学の基礎を勉強しなくても済むようになるのか

確かにソフトウエアツールは役に立つし、私自身そうしたツールを活用している。私の場合、フルウェーブシミュレータによって複雑な構造の電磁特性を解析し、簡単なルールチェック用ソフトウエアを使用して、3次元レイアウト設計者が私が決めたルールどおりに設計したかどうかを確認している。しかし、こうしたことよりもレベルの高い部分では、電磁界に関する自身の知識に頼って設計することになる。

 ツールのメーカーは、ある種のエキスパートシステムを使えば技術や物理に関する知識がなくても済むかのように宣伝しているが、そのようなことはあり得ない。極めて高速な回路を設計しようとするなら、電磁界の基本を理解することが必須だ。さもなければ、目隠しした状態で設計しているような状態に陥ることは間違いない。

<筆者紹介>

Howard Johnson

Howard Johnson氏はSignal Consultingの学術博士。Oxford大学などで、デジタルエンジニアを対象にしたテクニカルワークショップを頻繁に開催している。ご意見は次のアドレスまで。www.sigcon.comまたはhowie03@sigcon.com。


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