多くの技術者にとっては周知のことだが、「LM317」(例えば、米Fairchild Semiconductor社製)などの低価格な電圧可変型3端子レギュレータを使えば、出力電圧を一定の範囲内で調整可能な可変出力型の電源を構成することができる。ただし、1.25V以下の出力電圧は工夫を施さなければ実現できない。これは、3端子レギュレータに内蔵される基準電圧源の出力電圧が1.25Vである場合が多いからである。この電圧以下の出力を得るには、適切なバイアス電圧を別途印加する必要がある*1)。
この問題に対するアプローチの1つに、2個のダイオードで基準電圧源を構成する方法がある*2)
。この方法は必要な出力電圧が1.2〜15V程度の電源には適用できるが、これより低い固定/可変電圧の電源には適切なものではない。また、この方法にはダイオードの温度特性の問題がある。ダイオードの電圧が温度によってずれてしまうことが、電源の出力変動に直接影響を及ぼしてしまうのである*3)。
このような問題は、Fairchild社の「LM185」あるいは米Analog Devices社の「AD589」といった出力可変型の基準電圧ICを使用すれば解決できる。しかし、これらのICは高価であり、ゼロ点調整が必要になるとともに、部品の特性のマッチング作業を要するという問題がある。
本稿で紹介するのは、出力電圧が0V〜3Vの範囲で可変の電源回路である(図1)。この回路は、温度に対して安定で構成が簡単な定電流源*4)からの電流によって、「LM317T」に加えるバイアス電圧を調整するという方式である。そのメリットは、低価格で構成できることだ。
この回路の定電流源の電流値Iは次式で計算できる。
ここで、VFはダイオードD1の順方向電圧で約2V、VEBはトランジスタQ1のエミッタ‐ベース間電圧で約0.68Vである。これらの値を使用すると、上式は以下のように近似できる。
R3に流れる電流により、例えば−1.25Vといったバイアス電圧を発生することができる。出力電圧を0Vまでの範囲で可変にするには、電流Iを調整するために、可変抵抗R6によってゼロ点調整を行う。
出力電圧VOUTの調整には、可変抵抗R2を使用する。VOUTの値は次式によって決まる。
ここで、VREFはIC1が内蔵回路で生成する基準電圧、VR3は抵抗R3の端子電圧であり、これが基準電圧を“相殺”する役割を担う。仮にVR3をIC1の基準電圧と等しくしたとすると、基準電圧は完全に相殺される。この条件が成立する場合、出力電圧は以下の式のようになる。
R2を適切に選べば、出力電圧を電池の電圧と等しくできる。すなわち、開発時などに電池が必要となる場合、それを代替する電源として利用可能だ。
なお、抵抗R5は、トランジスタQ1の保護素子としての役割も果たす。ダイオードD1としては、LEDを使用して表示灯を兼ねることもできる。
脚注
※1…"LM317 3-Terminal Positive Adjustable Regulator," Fairchild Semiconductor Corp, June 2005
※2…"LM350 3-Terminal 3A Positive Adjustable Voltage Regulator," Fairchild Semiconductor Corp, 2001
※3…Schenk, C, and Ulrich Tietze, Halbleiter-Schaltungstechik, Springer-Verlag Berlin Heidel
berg, 2002, ISBN: 3540428496
※4…Rentyuk, Vladimir, "The Simple Temperature-Stabilized Constant-Current Source," Electro
nics World, November 2006
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