RFIDの“真の魅力”:組み込み用途で実力を引き出す(1/2 ページ)
RFIDを取り込んだ組み込みシステムの開発が活発になってきた。RFIDタグを取り付けた物品や動物などと、組み込みシステムのRFIDリーダーがデータをやり取りすることで、新たな利便性が生み出されているのだ。本稿では、標準規格の動向や各社製品の情報などを交えて、組み込み分野におけるRFIDの現状を俯瞰してみる。
広がる用途
RFID(Radio Frequency Identification)が、組み込み機器の標準的な機能となる可能性が出てきた。従来は、RFIDの用途と言えば在庫管理くらいにとどまっていた。それが、最近ではアクセス制御、偽造防止、支払い処理の簡易化、医療機関での認証、製品価格の動的な設定、製品に関する履歴の取得、遠隔からの資産追跡といった用途にRFID技術が利用されるようになっている。この状況は、RFIDの進化と、読み取り距離が長く高速なRFIDリーダー(RFIDからデータを読み取る装置。以下、リーダー)が開発されたことによってもたらされたものだ。
通常、RFID技術を利用した組み込みシステム(以下、RFIDシステム)は、装置あるいはホストシステムにリーダーを内蔵しておき、分散配置されたRFIDタグのデータを収集する形をとる。RFIDが使われている場所には、自動車、軍用車、ホテル、刑務所、病院、小売店、農場、カジノ、有料道路、工場などがある。今後、こうした新しい応用分野で、RFIDの需要は大きな広がりを見せるだろう。
長い歴史
RFIDの歴史は長い。20世紀の半ばにはすでに考案され、大きく発展することが期待されていた。第2次世界大戦当時、米国の軍隊では戦闘機の敵/味方の識別用に初期のRFIDを使っていた。1970〜1980年代には、一般用途向けの最初の商用RFIDが登場した。それらは、特定地域内での品物の追跡や識別などに利用された。
初期の商用RFIDシステムは、ベンダーがRFIDの仕様レベルから独自に開発しており、通信方式もベンダーごとに異なっていた。RFIDタグとリーダーとしては、同じベンダーが供給するものが使われていた。言い換えれば、異なるベンダーの製品間で互換性がなかったということだ。共通の技術仕様が存在しなかったことは、RFIDシステムを閉じたものにとどめてしまい、普及は進まなかった。
しかし、今日では技術仕様の標準化が進んだことで、RFID市場が急激に成長している。特定用途向けのRFIDシステムが開発され、新しい用途が次々と出現した。流通管理、アクセス制御、偽造の防止、在庫管理、非接触式での料金の支払いなどである。
RFIDシステムが数多く利用されている代表的な用途としては、小売店向けのEAS(Electronic Article Surveillance)がある。いわゆる「万引き防止システム」のことだ。年間で数十億米ドルにも上る万引きの被害総額に比べれば、高価な電子システムを導入するコストですら高が知れているのである。
EASシステムでは、店舗の出口に大きなアンテナパネルを設置し、RFIDを利用したセキュリティタグを商品に付けておく。アンテナパネルは電磁界を発生し、セキュリティタグを検知する役割を担う。セキュリティタグがアンテナパネルの近くを通過すると、タグ内部の同調回路または磁性体によって電磁界が変化するので、アンテナパネルはその変化を検出し、警告音を発生する仕組みだ。このシステムでは、正規に購入された商品の場合、店員がセキュリティタグを取り除くか、またはセキュリティタグを無効にしなければならない。購入された商品がアンテナパネルで検知されるのを防ぐためである。
パッシブ型とアクティブ型
最新のRFIDシステムの多くは、安価なタグまたはトランスポンダ(応答装置)をベースとする。タグは、データメモリーおよびデータ通信回路を集積したICチップと、外部アンテナで構成される。アンテナの構成は、用途や読み取り環境、動作周波数などによってさまざまである。
タグは、パッシブ型とアクティブ型に分類されることが多い。パッシブ型タグは電池などの電源を持たない。パッシブ型タグのアンテナには、リーダーが送信したRF信号によって電流が生成される。このとき流れる電流の量は、タグの応答に十分なものである。タグは、アンテナが反射するエネルギーの量を変化させることでリーダーにデータを送信する。
パッシブ型タグの通信距離は最長で30フィート(約9.14m)程度である。もちろん、この通信距離はリーダーの出力電力やアンテナの構成、動作周波数によって異なる。ドイツBielomatik Leuze社のパッシブ型タグ「RF-LoopTag」は、アンテナを拡張可能であり、中距離通信と短距離通信の両方に対応できる(写真1)。
一方、アクティブ型タグは内蔵電池をはじめとする電源を使用する。そのため、長い通信距離を実現しやすい。アクティブ型タグは、一般的には高価なシステムに使われる。具体的には、軍用車や貨物コンテナなどが用途として挙げられる。
RFIDの周波数帯域
RFIDが通信に使用する周波数帯域は、政府機関によって割り当てられる。その周波数帯域は国ごとに異なり、世界全体では統一されていない。
代表的な周波数帯域には、LF(Low Frequency)、HF(High Frequency)、UHF(Ultrahigh Frequency)がある。1つ目のLF帯域のタグは、125kHz〜134kHzの周波数範囲でデータをやり取りする。主な用途としては、アクセス制御、動物の個体識別、資産の追跡、自動車用の防犯機能付き鍵などがある。
HF帯域のタグは、周波数13.56MHzの電波を通信に使う。読み取り可能な距離は3フィート(約0.91m)未満のことが多い。HF帯域のタグには、金属や水などの近くでも干渉を受けずにデータを送信できるという特徴がある。
UHF帯域のタグは通信に周波数860MHz〜960MHzの電波を使う。読み取り可能な距離が3〜5mと長く、データ転送速度が高い。これらの特徴から、UHF帯域のタグの用途は広がりを見せている。代表的な用途は、パレットや出荷コンテナなどにタグを装着することによる資産追跡である。リーダーを搭載した個所の近くをパレットやコンテナが通過することで、作業員がパレットの存在を認識/記録する。
ここ数年、これらの周波数帯域におけるタグとリーダーの標準規格が集中的に策定されている。ISO(International Organization for Standardization:国際標準化機構)とIEC(International Electrotechnical Commission:国際電気標準会議)は、数多くの項目を規定した標準規格を策定した。それらの標準規格には、周波数帯域やデータの符号化手法、採用したRFID技術などの規定が盛り込まれている。
例えば、ISO/IEC 14443とISO/IEC 15693は、それぞれ近接型、近傍型と呼ばれる非接触式ICカードの通信プロトコルを規定している。一方、ISO/IEC 18000シリーズは、RFIDのエアインターフェースやプロトコルなどを定義している。同規格は、サプライチェーンで商品を追跡するための自動識別システムや商品管理システムなどを想定したものである。通信周波数の違いによってISO/IEC 18000-2から同-6までの規格が用意されている。
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