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ホールICの利用で、エンジンの回転数を検知Design Ideas

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 ホール効果(Hall Effect)素子を組み込んだIC(ホールIC)は、機器回転部における回転数の計測や、近接検知のためのセンサーなどとしてよく使用される。ホール効果素子は、対象物の動きを非接触で検知できるという特徴を持つからである。そして、この特徴は、ホール効果を利用した磁気検知の仕組みによって得られる。

 図1は、半導体の一方向に電流を流したときの様子を表している。図ではY方向に電流IBを流しているが、このときX方向に発生する電圧は無視できるほど小さい。しかし、この状態でZ方向から磁界を印加すると、X方向に比較的容易に検知できる大きさの電圧が発生する。これがホール効果である。このとき発生するX方向の電圧(図中のVH)は、ホール電圧と呼ばれる。この現象は、「ホール電圧をモニターすることにより、磁界の検出が行える」と言い換えることができる。この考え方に基づき、ホールICは、磁界に起因して発生する電界(信号)を計測する機能を備える。ここで注目したいのは、磁界以外の何らかの要因によって、十分に大きい電界が半導体内のX方向に生じたならば、ホールICはその電界を感知できるということだ。本稿では、この考えに基づいてエンジンの回転数を検知する回路を紹介する。

図1 ホール効果の概要
図1 ホール効果の概要 

 内燃エンジンでは、燃料への点火のタイミングを正確に制御することが不可欠である。マイクロコントローラによるエンジン制御では、ピストンの位置を基準として点火のタイミングが制御される。より先進的なエンジンでは、可変バルブのタイミングを制御するために、点火のタイミングの情報をフィードバックすることが必要になる。

 一方、この点火のタイミングを計測することによって、エンジンの診断や修理などを効率的に進めることができる。例えば、芝刈り機では、キャブレタの基本的な調整において、エンジンの回転数の計測が必要になる。小型の4サイクルエンジンの場合、1回転ごとに点火が行われるので、点火を検知した結果を、回転数そのものを表すものとして利用できる。

 本稿で紹介する方式では、ホールICによって点火を検知する。点火プラグの電極の近くにホールICを適切な向きで取り付けておくと、ホールICが点火プラグから発生する電界の作用を受ける。すなわち、点火に伴って発生する電界によって、図1でいうX軸方向のパルス電圧が生じるので、それを検知するのである。

 ICの取り付けは、点火プラグの配線の絶縁被覆に導電性テープで巻きつけることにより行う。使用するホールICが、信号に対して前処理を行う機能やヒステリシスを付加する機能を搭載しているものであれば、部品を追加することなくパルスを検出できる。このことが従来の電流トランス方式に比べた場合の利点である。そして、先述したように、点火と回転数とを関連付ければ、エンジンの回転数の検知回路としても利用できる。

図2 ホールICを利用したエンジン回転数の計測回路
図2 ホールICを利用したエンジン回転数の計測回路 ホールICからのパルス数をDC電圧に変換し、電圧計に表示する。

 図2に示したのは、ホールIC「UGN3030T」を用いてエンジンの回転数を計測する回路である。この回路では、ホールICからのパルスを一般的な電圧計で計測できるようDC電圧に変換する。具体的には、米National Semiconductor社の周波数‐電圧変換用IC「LM2917」を利用して、ホールICからのパルス列をDC電圧に変換する。周波数と電圧の関係は、LM2917の2番端子、3番端子のそれぞれに接続するコンデンサC1および抵抗R1の値により決まる。4サイクル/単シリンダ型のエンジンを対象とする場合で、5000rpm(回/分)が計測できれば十分だ。

 ホールICの出力(3番端子)はオープンコレクタ出力なので、プルアップ抵抗(22kΩ)を使用している。また、電源としては9Vの電池を用い、出力電圧としては最大5Vを得ることができる。

 使い方は単純であり、点火プラグ用の配線にホールICを取り付けるだけで、デジタル電圧計の読みから回転数を求めることができる。この計測は非接触で行われるので、多シリンダのエンジンについて、解析のための計測を繰り返し行う場合などに重宝する。

 なお、自動車のエンジンにおける計測に利用する場合には1つ注意すべきことがある。それは、自動車のエンジンは機械的ディストリビュータ(分配器)を備えており、1回転おきに点火が行われるということだ。また、シリンダごとに1個の始動コイルを備えるエンジン始動システムも同様に1回転おきに点火する。

 この計測回路は、点火系統との電気的接触を持たず、高い電圧から絶縁されている。そのため、マイクロプロセッサ/マイクロコントローラとのインターフェースもロジックレベルについてのみ考慮すればよい。ホールICは4.5V〜24Vの電源電圧で動作するので、ロジック用/自動車用の標準的な電源を利用できる。複数のホールICを組み合わせて使用すれば、エンジンの点火状況や点火タイミングの診断に効果的に活用することが可能である。

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