アナログ分野で最先端に位置する会社に入社したばかりのころ、筆者は、初めての仕事で次から次へと出くわす難問に悩まされていた。その中の1つが、回路の安定性の問題であった。オペアンプを用いて構成した単純なバッファ回路に容量性の負荷を接続すると、その回路が発振してしまうのだ。
筆者の身近には熟練の技術者が何人もいた。そこで彼らにアドバイスを求めることにした。得られた答えは、「バッファ回路の出力と負荷容量(コンデンサ)との間に、100Ωの抵抗を挿入してみなさい」というものだった。その根拠を尋ねたが、答えは「まずはやってみることだ。信用したまえ。きっとうまくいくから」というものだった。
そこで、アドバイスのとおりにバッファ回路を作り直した。しかし、発振は止まらなかった。発振周波数は異なっていたが、変更前と同様のことが起きていたのである。アドバイスをくれた先輩にそのことを伝えたところ、彼の答えは「抵抗の値を500Ωに変えてみよう」というものだった。前回と同様、何の説明も受けられなかったが、そのアドバイスにより問題は解決したのである。自分にとっては宿題が残ったが、その後、数年間は彼に同様の教えを乞う必要はなく、同様の対策で問題を乗り切ることができた。しかし、問題の原因は何だったのだろうか。何がどうなって効果が得られたのだろうか。ここで改めて考えてみたい。
当時は理解できなかったことだが、コンデンサと抵抗をバッファ回路の出力に挿入すると、同回路の開ループゲイン特性が変化する。開ループゲイン特性には、負荷容量CLと負荷抵抗RL、オペアンプの開ループ出力抵抗ROによってポール(極)が生じる。同時に、CLとRLによってゼロ(零)も生じる(図1)。このようなポールとゼロが生じても、それらが開ループゲインのプロットAOLと閉ループゲインのプロットACLが交差する周波数より低周波数側に位置して相互に影響をキャンセルすれば、バッファ回路の安定性に問題は起きない。しかし、プロットAOLと同ACLが−40dB/decadeの傾きで交差する場合には、安定性に余裕がなく、条件によっては発振することになる。
図1の回路において、開ループゲイン特性に生じるポールの周波数fPとゼロの周波数fZは、それぞれ以下の式で表すことができる。
以上のことから学ぶべき事柄とは何か。ここに、熟練技術者が経験則だけに従って簡単に結果を導き出せる理由がある。すなわち、基本的な概念を把握しておくことが重要なのである。要点さえ十分に理解しておけば、特に熟考することなくとも、問題の解決への指針が立てられるのである。
<筆者紹介>
Bonnie Baker
Bonnie Baker氏は「A Baker's Dozen: Real Analog Solutions for Digital Designers」の著書などがある。Baker氏へのご意見は、次のメールアドレスまで。bonnie@ti.com
脚注
※1…『SAR型A-Dコンバータの入力バッファ回路』(Miro Oljaca/Bonnie Baker、EDN Japan 2009年2月号、p.59)
※2…Green, Tim, "Operational Amplifier Stability, Part 9 of 15: Capacitive Load Stability: Output Pin Compensation", http://www.en-genius.net/site/zones/acquisitionZONE/technical_notes/acqt_121106
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