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「3Gワイヤレス」最新事情米国、そして世界での普及を阻むものは何なのか?(2/2 ページ)

長い間待ち望まれていた3Gワイヤレスの機能のうちいくつかが、米国内でも利用できるようになってきた。しかし、3Gの本格的な普及までにはまだ時間がかかりそうだ。本稿では、米国で3Gを普及させるために課題となっていることを整理するとともに、各社が行っている取り組みについてまとめる。

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バックホールの問題

 3Gや4Gネットワークにおいて予測されるデータトラフィックの増加に関する議論では、バックホールネットワークやコアネットワークへの影響が論じられることはあまりない。しかし、これらの分野における設備や技術は、ネットワークにとって少なくとも接続技術や端末機器技術と同程度に重要である。通信事業者が検討すべき選択肢は多く、また増大するデータトラフィックの管理に関する問題の数も増える。より高速な4Gネットワークへと移行が進めば、さらに事態は深刻になる。


図2 フェムトセルの構成例
図2 フェムトセルの構成例 通信事業者は、フェムトセルのような、3Gを超える次世代の携帯電話基地局技術に着目している(提供:Skyworks Solutions社)

 米iSuppli社の無線通信担当ディレクタ兼主席アナリストであるJagdish Rebello氏は、「データを中心としたサービスの増大に伴い、バックホールやコアネットワークの対応能力に対する要求が高まっている。そして、通信事業者はネットワークの容量を増やすために、既存のT1/E1線を持つリース回線モデルをやめて、基地局の直前までは光ファイバを引き込むようになっている」と話す。このトラフィックを基地局コントローラやスイッチングステーションで処理する代わりに、設備メーカーは基地局にインテリジェントな機能を搭載している。これにより、コアネットワークのトラフィックは減少し、遅延が小さくなる。これは、ソーシャルネットワーキング、コンピュータゲーム、Push-to-Talkアプリケーション(電話番号をダイヤルするのではなく、通話する相手を表すボタンを押すだけで通話を実現するサービス)にとって特に重要である。米Skyworks Solutions社のフロントエンド製品担当エグゼクティブバイスプレジデント兼ゼネラルマネジャであるGreg Waters氏は、「多くの通信事業者が、3Gワイヤレス以上の能力を有するフェムトセル(通話エリアが半径数十m程度の小型携帯電話基地局)などの次世代技術に着目している」と語る(図2)。

 米Fulcrum Microsystems社は、顧客であるOEM(Original Equipment Manufacturer)企業から、音声トラフィックにおける遅延の削減、同期イーサーネット、および音声/映像/データの混雑管理のためのメカニズムを求められるという。「つまり、QoS(Quality of Service:通信のサービス品質)を確保するための制御技術が必要なのだ」と同社製品マーケティング担当ディレクタを務めるGary Lee氏は語る。音声トラフィックでは、最大遅延時間を保証することが求められ、映像トラフィックの場合には、最小帯域幅を保証しつつ、遅延時間をある程度まで小さく抑えることが求められる。しかし、これらの要求を満たす機能を同一のネットワークに統合することは困難になっている。初期の携帯電話の通信ネットワークでは、帯域幅を増やすことによりQoSの問題を解決することができた。しかし、「現在では映像ストリームのデータ量が膨大であるため、QoSのためのメカニズムのサポートが困難だ」と同氏は説明する。また、半導体チップについては、最小帯域幅を保証し、混雑管理機能を実現するためのネットワークプロセッサ、マルチコアCPU、スイッチファブリックが必要となる。

 米Continuous Computing社のシニア製品ラインマネジャであるTodd Mersch氏は、「携帯機器の通信ネットワークにおけるデータ通信の利用率は著しく増大したが、必ずしもQoSに対処するようには設計されていない」と語る。iPhone 3Gの何百万人ものユーザーが、最初に行わなければならない利用開始手続きのために、米AT&T社の通信ネットワークにアクセスしようとしてもアクセスできない、という問題を経験した。この問題が、典型的な例である。なお、QoSを向上するために、ある種類のトラフィックを優先させることを目的として有線ネットワークに採用されているDPI(Deep Packet Inspection)が、携帯機器ネットワークでよく利用されるようになってきている。

 米Semtech社の高度通信部門マーケティング担当バイスプレジデントを務めるSameer Vuyyuru氏は、「通信事業者は、コスト効率の良いIP(Internet Protocol)ネットワークを利用して、基地局へのハンドオフ中に過度のパケット損失や通話切断を生じることなく、3G/4Gサービスにおいて増大する通信量に対処する。そのためには、時間同期が最も重要な問題になる」と指摘する。無線通信ネットワークの同期方式の1つであるFDD(Frequency Division Duplex:周波数分割複信)では、有線ネットワークと同じ技術が用いられる。もう1つの方式TDD(Time Division Duplex:時分割複信)では、携帯電話ネットワークにおけるすべての基地局の周波数を正確に合わせ、位相をそろえる必要がある。

 マスターGPS(Global Positioning System)クロックと多数のGPSスレーブから構成される現在のGPS同期システムは、基地局の内部でさえも一貫性を持って動作させることが難しい。また、その実装コストも高くなる可能性がある。これに対して、IEEEは2008年3月に、時間同期プロトコルであるIEEE 1588 Precision Time Protocol(PTP)規格のバージョン2を策定した。パケットスイッチネットワークを介してクロックデータを送信する同規格を利用すれば、「マスターはやはりGPSモジュールでなければならないが、数の多いスレーブとしてより安価なものが利用できるため、コストを低減することができる」(Vuyyuru氏)という。

図3 無線通信メッシュネットワークによるサービスとバックホールの共有(提供:MeshDynamics社)
図3 無線通信メッシュネットワークによるサービスとバックホールの共有(提供:MeshDynamics社) インテリジェントなノードや動的チャンネル管理機能を搭載した「ストラクチャードメッシュ」を分離して構築する(a)。通常の無線通信サービスのアドホックメッシュネットワークとバックホールネットワーク(b)を(a)で代替することができる。(a)で代替されたネットワークでは、サービス/バックホールのいずれのチャンネルも動的に再割り当てが行われ、チャンネルの相互干渉の影響も最小限に抑えることが可能である(c)。バックホールチャンネルを局所的に変更しても、ネットワークのその他の部分には何の影響も及ばない。

 米MeshDynamics社の創設者でCTO(最高技術責任者)を務めるFrancis daCosta氏は、「現行のバックホールを補完するために、インテリジェントなノードや動的チャンネル管理機能を搭載し、別個に構造化された無線通信メッシュネットワーク(ストラクチャードメッシュ)として、5.8MHz帯域のWi-Fiを利用することが可能だ」と提案する。「一般的な2.4MHzのWi-Fi帯域は、かなり混雑している可能性が高い。5.8MHz帯域、もしくは周波数干渉や混雑の問題などを排除することを目的とした専用の帯域を設ければよい」と同氏は語る。混雑の激しい地域では、通信事業者が、中継塔に達する前にデータの一部を補助的なネットワークに移すだけで、携帯電話サービス全体を改善することができる(図3)。都市部におけるWi-Fiサービスの展開が失敗した理由はいくつかあるが、バックホール向けの無線通信メッシュネットワークとして展開することにより、携帯電話事業者との競合という主な障害の1つを取り除くことができる*3)。daCosta氏は「携帯電話事業者は、必要な場所にWi-Fiノードを配置することができる。このことは周囲に影響を与えず、ライセンスの問題も生じない」と話す。この恩恵を受けることができるiPhoneなどのデュアルモード携帯電話機やWi-Fi端末は、普及が進みつつある。

 米Andrew社の無線ネットワークソリューショングループ 技術マーケティング担当バイスプレジデントを務めるJohn Baker氏は、「一からネットワークを構築する場合、コストの高いバックホールは重要な要素の1つになる」と語る。主に固定電話回線の存在しない地域では、通信事業者はマイクロ波バックホールネットワークを導入している。同氏は「もちろん、固定電話回線上でIPを用いることも可能だ。ただし、その場合、帯域幅が広くコストが低いというメリットを享受できるものの、基地局をコアネットワークに同期させなければならないという問題が存在する」と指摘する。

ICや組み込み部品の現状

 現在、多くの半導体メーカーから、WiMAXやその他の通信技術向けのフロントエンドチップが提供されている。それらのチップには、RF回路、ミキサー、A-Dコンバータ、D-Aコンバータ、デジタルフィルタなどが含まれる。ベースバンドSoC(System on Chip)や組み込みマルチコアプロセッサも提供されている。米Freescale Semiconductor社の高性能組み込みプロセッサポートフォリオマネジャを務めるStephen Turnbull氏は、「無線ネットワーク設備のメーカーは、マルチコアチップを利用して、3Gなどの技術で必要となる膨大な量のデータ処理に対応する装置を製造している」と語る。

 米Texas Instruments社の通信インフラストラクチャグループで無線基地局インフラストラクチャ製品担当マネジャを務めるRamesh Kumar氏によれば、「W-CDMAネットワーク向けの主な基地局の中には、マルチコアDSPを利用して設計されているものもある」という。開発途上地域へ普及させるには、3Gネットワークに対する低コスト化の要求が厳しくなる。しかし、マルチコアチップによってチャンネルカードの密度を増加させれば、コストと消費電力を比較的低く維持することができるようになる。Kumar氏は「これまでは各チャンネルカードが1台の携帯電話機または基地局用のL1/L2処理を実行していた。現在では1カード当たり3台の携帯電話機に対応している。今後3〜4年で1カード当たり6台に増えるだろう」と説明している。

 基地局の機能が向上しているのにもかかわらず、設置に必要なコストは以前とほぼ変わっていない。エレクトロニクス関連部品のコストは毎年低下していくが、「集積度が高まり、製造数も急増しているため、基地局のコストに占めるエレクトロニクス関連部品の割合が減少しつつある」とAndrew社のBaker氏は話す。

 米Intel社のノート型パソコン向けプラットフォーム「Centrino 2」では、統合モジュールによって、Wi-Fiに加えてWiMAXもオプションでサポートすることになった。これにより、Wi-FiとWiMAXのいずれの無線通信にも対応するデュアルモードのパソコンや携帯機器の開発が可能となる。米Sprint社情報/ネットワーク部門の最高責任者であるKathy Walker氏は、「3GのEVDO(Evolution Data Optimized)通信に加えて、WiMAXを利用できる都市部のユーザーは、デュアルモードの通信機器を使用することになるだろう」と期待している。

※3…Wright, Maury, "Is municipal Wi-Fi a technical failure or a business failure?" EDN, Oct 11, 2007, p.12


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