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電源制御ループの周波数特性を測る利得/位相評価の基本を実践解説!(2/2 ページ)

本稿では、スイッチング電源回路のフィードバック制御ループの利得と位相の周波数特性を測定する手法を紹介する。測定にはネットワークアナライザは使わず、信号発生器とオシロスコープ、トランスを利用して、自らボード線図を描くことで特性を把握する。本稿の内容を、周波数特性評価の基本手法として活用していただければ幸いである。

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測定手順の実際

図2 オシロスコープで観測した波形
図2 オシロスコープで観測した波形 制御ループの利得が1(0dB)のとき、電源回路の出力信号(下の線)の振幅が、ポイントBへの入力信号(上の線)の振幅と等しくなる。

 続いて、測定手順の詳細を具体的に説明する。

 信号発生器の電源は、トランスの1次側に同発生器を接続してからオンにする。校正済みの測定プローブをポイントAとポイントBに当て、オシロスコープで20Ωの抵抗に加わる信号を測定する。2本の測定プローブのグラウンド線は、測定対象である電源回路の共通グラウンドに接続しておく。このようにしてポイントAとポイントBに現われる信号の差を観測する。以下、ポイントAをオシロスコープのチャンネルAで、ポイントBを同チャンネルBでモニターするものとして解説を進める。

 オシロスコープでは、測定帯域幅に制限をかける。電源回路のスイッチングノイズによって、観測の対象とする波形がスクリーンから見えなくならないようにするためだ。3チャンネル以上の入力チャンネルを備えたオシロスコープが使えるなら、3つ目のチャンネルに信号発生器の出力を接続し、その信号をトリガーにすることで測定が容易になる。

 続いて、フィードバック制御ループに電力を投入する。その上で、まずは測定の対象となる電源回路の出力に負荷を接続し、出力電圧VOUTの揺れを観測する。ここで行いたいことは安定性の確認である。具体的には、負荷の値や負荷の接続条件などを変えながら、出力電圧VOUTの測定を繰り返す。コントローラIC製品によっては、負荷が軽いときには不連続な電流モードで動作し、制御ループの特性が変わってしまうものがある。電圧モードでの動作であれば、制御ループの特性は入力電圧に応じて変化するようになる。

 フィードバック制御ループが稼働すると、出力電圧VOUT(ポイントA)をつないだオシロスコープのチャンネルAでは、直線状の一定の電圧が観測されるはずである。そしてチャンネルB(ポイントB)では、ノイズの混じった正弦波が観測されるだろう。正弦波が確認できない場合には、オシロスコープの振幅分解能を最大(通常は20mV/div)にする。あるいは、信号発生器の出力振幅を大きくする。

 正弦波を観測できたら、次に信号発生器を操作して正弦波の周波数を変更する。すると、チャンネルAの振幅が変化するはずである。ここで、チャンネルAとチャンネルBで観測される正弦波の振幅が等しくなる周波数を探す(図2)。その周波数が、フィードバック制御ループの利得が1(0dB)となるポイント、すなわちクロスオーバー周波数である。

表1 電圧比とデシベル値の対応表
表1 電圧比とデシベル値の対応表 注)AはチャンネルAでの測定値、BはチャンネルBでの測定値を表す。

 また、2つの正弦波の位相には、ずれがあるはずだ。クロスオーバー周波数での位相差が、フィードバック制御ループの位相余裕である。

 続いて、クロスオーバー周波数以外の周波数でも、チャンネルAとチャンネルBで正弦波の振幅を測定する。両者の振幅の差が利得である。チャンネルAとチャンネルBで測定する正弦波の振幅の比率をデシベル表示に換算すると表1のようになる。

 制御ループが発振していたりしなければ、上述した測定は問題なく実行できるだろう。誤差アンプとしてトランスコンダクタンスアンプ(電圧‐電流変換を行うアンプ)が用いられている場合には、レギュレータICの位相補償用端子(COMP端子)とグラウンドとの間にコンデンサを挿入することで、安定な制御ループが得られる。誤差アンプが電圧入力/電圧出力の標準的なタイプのものであるなら、COMP端子とFB端子をコンデンサでつなぐ。コンデンサの値としては1μFくらいが標準的だ。

 コンデンサの挿入によってポールの周波数が極めて低くなり、利得が急しゅんに下がる。つまり、クロスオーバー周波数が低くなる。電流モード制御の場合には、低い周波数で十分に安定な位相余裕が得られる。

ボード線図の作成

図3 ボード線図の例
図3 ボード線図の例 利得(青色の線)が0dBとなる周波数と、それに対応する位相差(赤色の線と黄色の線の交差点)が読み取れる。

ボード線図を作成するには、信号発生器の周波数を測定対象範囲の全体にわたって変化させ、入力信号(ポイントB)と出力信号(ポイントA)との間で、利得と位相差を測定する。そのようにして得られた値を使って、図3のようなボード線図を描画すればよい。なお、図3では、青色の線が利得の周波数特性を表している。

 利得が極めて大きい、または極めて小さい場合には、オシロスコープによる観測で定量的な値を把握するのは簡単なことではない。例えば利得が30dBくらいになると、チャンネルAとチャンネルBの電圧差を把握するのは難しいだろう。

 しかし、一般的には、クロスオーバー周波数のように、ボード線図において最も重要なポイントについて把握するのは難しいことではない。むしろ、容易かつ正確に観測できる。また、利得が大きい場合には正確な測定は難しくなるものの、例えば「30dBを超えているであろう」との推定は可能である。

 制御ループの帯域幅は、DC利得の大きさとクロスオーバー周波数の組み合わせによって把握できると見なせる。また、制御ループの位相余裕は、制御ループの安定度を表すものだが、これは最低でも45〜50°確保できていることが望ましい。

図4 コントローラICのCOMP端子をモニターする測定系
図4 コントローラICのCOMP端子をモニターする測定系 

 なお、オシロスコープのチャンネルBを、レギュレータICのCOMP端子に接続する測定系も考えられる(図4)。この測定系であれば、補償ネットワーク(レギュレータICのCOMP端子に接続されたコンデンサ)の影響を受けない制御ループの伝達関数を測定できる。その測定結果を利用すると、制御ループの設計目標となる帯域幅と位相余裕を実現する適切な補償部品を選択しやすくなる。

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