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始動するFlexRay次世代の制御系車載LAN規格が本格採用へ(3/4 ページ)

次世代の車載LAN規格として注目を集めてきたFlexRay。その本格採用が、間もなく始まろうとしている。同規格は欧州を中心として策定されてきたが、その最終仕様が2009年末までに発表される見込みだ。この最終仕様には、日本の自動車メーカーの意見も取り入れられており、2010年以降は、日米欧で FlexRayを採用した新車開発が本格化する。

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■FR3.0でJasPar規格が採用へ

 上述したように、BMW社やAudi社らの欧州メーカーは、スター型のトポロジをベースとしてFlexRayネットワークを開発していた。ただし、スター型のトポロジでは、スターの中心となるスターカプラーや高性能な処理能力を持つゲートウエイECUが必要であるため、コストが高くなるという欠点がある。

 一方、日本では、2000年以降、CANの本格採用と同期するように自動車の電子化が爆発的に進展したことにより、ECUの搭載数や、ECU間で通信するデータの量が増えた。さらに電子化が進めば、制御系の車載LANをCANではまかない切れなくなることが、ほぼ確実になっていた。そこで、日本の自動車メーカーは、バス型で利用しているCANを、バス型のトポロジのまま、CANと同程度のコストで収まるように置き換えることのできる高速車載LAN規格として、FlexRayを利用したいと考えていた。

 こうした経緯から、トヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業、デンソー、豊通エレクトロニクスの5社が中心になって2004年9月に設立されたのが、 JasPar(Japan Automotive Software Platform and Architecture)である。JasParは、車載ソフトウエアの標準化を目的とする組織であるが、設立当初はその活動の対象をFlexRayに絞り込んでいた。

 JasPar運営委員で車載LANワーキンググループ主査を務める日産自動車 電子・電動要素開発本部 電子システム開発本部 統合システムグループ主担の松本孝氏は、「JasParでは、FRCが策定するFlexRayの規格に基づいて、その規格を低コストでかつ使いやすく実装できるような推奨環境として『JasPar規格』を策定してきた。当初は、FRCが規格の文書化を完了してから、それに対してJasPar規格を策定するという状態で、FRC とJasParの協力関係は良いものとは言えなかった。しかし、現在は、文書化の前の段階から、規格策定に関する情報を共有できるほどに良好な関係を築くことができている。2009年末までに発表されるFlexRay Version 3.0(FR3.0)では、JasParの提案を取り入れることで合意した」と説明する。

表3JasParが提案したFR3.0における変更点
表3 JasParが提案したFR3.0における変更点 

 FR3.0では、現行の最新規格であるFlexRay Version 2.1a(FR2.1a)から、データリンク層(プロトコル)で7項目、物理層で4項目の変更が行われる。これらの変更点のうち、データリンク層で3項目、物理層で2項目がJasParが提案したものとなっている(表3)。

 1つの事例となるのが、通信サイクルの回数をカウントするサイクルカウンタである。FR2.1aのサイクルカウンタは、2進法をベースとした数値を使用する。一方、CANでは、1回分の通信サイクル(たとえば10ms)が単位となっている。もし、CANで運用されていたシステムをFlexRayに置き換える、もしくはFlexRayとCANを同時にネットワークに接続する場合には、FlexRayのサイクルカウンタに合わせ直す必要が出てくる。「そこで、コスト増にならない形で、サイクルカウンタを10msなどの時間を単位として扱うことができる手法を開発し、FR3.0で採用されることになった。これで、CANで開発したシステムをFlexRayに置き換えることが容易になる」(松本氏)という。

 FRCでは、FlexRayの規格の仕様だけでなく、そのコンフォーマンステスト(適合性試験)の仕様も策定している。JasParは、FR3.0の規格が発表された後に、別途FR3.0に準拠したJasPar規格を発表することを予定しているが、コンフォーマンステストについては、FR3.0に合わせて作成する仕様に統合することとなった。これについて、JasPar運営委員でFlexRayコンフォーマンスワーキンググループ主査を務める本田技術研究所 四輪開発センター 第4技術開発室 第2ブロック 主任研究員の橋本寛氏は次のように語っている。

 「FlexRayを実装する上で、関連する半導体チップ、電子部品、ソフトウエアが実際に使えるか否かを確認する上では、コンフォーマンステストが非常に重要な役割を果たす。FRCがJasParを評価するようになった理由としては、このコンフォーマンステストについて、FRCだけではカバーし切れない部分の情報提供を積極的に行ったことが大きい。FR3.0のコンフォーマンステストの仕様には、データリンク層で50〜100項目、物理層で約60項目を JasParから追加することになるだろう」。

■AUTOSARとの連携運用

 現時点で、国内自動車メーカーの量産車開発においてFlexRayが採用される予定はない。FR3.0の規格策定が完了するのを待っている段階である。FR3.0の規格は2009年末に発表されるので、それに準拠したコントローラチップの開発が完了するのは2011〜2012年ごろになる。そして、このFR3.0準拠のチップを使った新車が登場するのは、どれだけ早くても2014年〜2015年ごろになる見通しだ。松本氏と橋本氏は、「現時点で、FlexRayを採用できるのは、ユーザーに対する付加価値の提案に結び付き、なおかつCANでは実現できないシステムだけだ。単にCANを置き換えるのであればコスト増は許されない。国内メーカーのFlexRayの採用時期は、各社の戦略によるところが大きいだろう」と口をそろえる。

 FlexRayを実装する上で、重要な役割を果たすのが車載ソフトウエアの標準規格AUTOSARである。AUTOSARは、車載ソフトウエアをモジュール部品のように再利用できることを大きな特徴としている。CANをFlexRayに置き換える場合には、半導体チップや電子部品などのハードウエアだけでなく、車載ソフトウエアにも大幅な変更を加える必要がある。しかし、車載ソフトウエアがAUTOSARに準拠していれば、ソフトウエアの変更にかかわる作業やコストは大幅に削減できる。JasParは、FlexRayとAUTOSARを連携して運用することについて、今後の活動の対象として扱っていく方針だ。

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