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乗算器を使わずに太陽電池の最大電力を得るDesign Ideas

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太陽電池は、化石燃料に代わるさまざまなグリーンエネルギーの中では最も効率が良く、コスト効果が高くて拡張性に優れる。そのため、太陽電池に関する研究は活発に行われており、毎日のように新たな技術成果が発表されている。ただし、太陽電池の利点を十分に引き出すためには、その電力変換効率を厳重に監視/管理することが不可欠となる。

 図1に、太陽電池の特性の例を示した。この図は、太陽電池によって得られる電圧、電流、電力の関係を表している。


図1 太陽電池の電圧‐電流特性
図1 太陽電池の電圧‐電流特性 太陽電池から常に最大限の電力を得るためには、電圧、電流が最適な条件となる最大電力点に追従制御する必要がある。
図2 最大電力点の追従制御回路
図2 最大電力点の追従制御回路 この回路は、トランジスタの電圧‐電流特性が対数式で表されることを利用したものである。

 太陽電池が供給する電圧(以下、太陽電池電圧)は、負荷変動の影響を受ける。太陽電池のアレイから取り出すことのできる電力は、そうした影響やアレイの温度に敏感に反応する。また、太陽電池電圧は日射量、すなわち太陽光の照射強度にも依存する。太陽電池の動作条件(電流‐電圧特性のプロット上の位置)が最大電力を取り出すのに最適でない場合には、効率が低下し、貴重なエネルギーが無駄になる。そのため、先進的な太陽電池の電力管理システムでは、諸条件の変化に応じて最大電力の得られるところ(最大電力点)に追従制御する機能が用いられている。それにより、電力の利用効率が30%ほど改善されている。

 最大電力点の追従制御には、「山登り法(Perturb and Observe)」と呼ばれるアルゴリズムが広く利用されている。このアルゴリズムでは、太陽電池電圧に周期的に変調をかけ、それに対応する瞬時電力の変化を計算する。その結果を利用し、太陽電池の出力電力が増大する方向に動作条件(電圧、電流)をフィードバック制御することで最適な条件に追従させる。

 図2の黄色い網掛けで示した部分は、この山登り法を基本とする最大電力点の追従制御回路である。本稿で紹介するのは、これと組み合わせて使用するために新しく工夫した回路(図2の青色の網掛け部)だ。これを用いることで、複雑な乗算回路を使用することなく、電流×電圧の乗算結果を使うのと同等のフィードバック制御が行える。

 考え方の基本にあるのは、トランジスタの接合電圧と電流の間に自然対数式で表される関係があることだ。つまり、ベース‐エミッタ間電圧VBE、コレクタ電流IC、飽和電流ISに関して、以下の関係が成立することを利用する。

 ここで、kはボルツマン定数、Tはトランジスタの絶対温度、qは電子の電荷量である。

 回路の動作は次のようになる。図2において、IC2は2チャンネル×3のマルチプレクサ/ディマルチプレクサ「CD4053B」である。これを使い、S2とS3によって発振回路を構成している。同回路から出力されるのは、ピークツーピーク電圧が約1Vで周波数が100Hzの矩形波である。これがコンデンサC2を介して太陽電池の正極電圧Vに重畳される。太陽電池のアレイから流れる電流は、この変調電圧に対応する、電圧‐電流特性上の動作点における値になり、これにより負荷に供給される電力に変調がかかる。

 図中のIC1は4チャンネルのCMOSオペアンプ「LMC6064」である。そのうちの1チャンネルIC1Aの作用により、トランジスタQ1のエミッタ電流IQ1がI×X1に等しくなる。ここで、Iは太陽電池が供給する電流の値である。一方、X1はゲインを表す定数であり、昇降圧型DC-DCコンバータIC3「LTM4607」の動作によって値が決まる。また、IC1Bの働きにより、トランジスタQ2のエミッタ電流IQ2はV/499kΩとなる。以上のことから、次に示す式が成立する。

 ここでVQ1とVQ2は、それぞれトランジスタQ1とQ2のベース‐エミッタ間電圧、T1とT2はそれぞれQ1とQ2の絶対温度、IS1とIS2はそれぞれQ1とQ2の逆方向飽和電流である。

 これらの式において、k、q、IS1、IS2、X1、499kΩはすべて定数である。また、T1=T2=Tとおくことができる。そのため、変調に伴って変化する成分だけを取り出すと、以下のような式が得られる。

 これらを観測すれば山登りアルゴリズムによる制御が行える。

 Q1とQ2を直列に接続していることから、IC1Bの非反転入力端子への入力となる電圧VPFは以下の式で表される。

 IC1Bの出力VIPについては、IC1Bが利得3の非反転アンプを構成するので以下の式が成立する。

 このように、VIPは太陽電池が供給する電力の対数値(logVI)に比例する信号である。この式を計算すると、W単位の電力VIが1%変動した場合のVIPの変化量は、24℃のときで約765μVとなる。そして、この電圧VIPがコンデンサC1を介してIC2のS1に入力される。S1は同期復調器として働き、その出力はコンデンサC3の一端の電位をDC的に変化させる。この電位の変化は、IC1Cを用いた回路において積分される。IC1Cから出力される信号(誤差信号)はDC-DCコンバータIC3のVFB端子にフィードバックされ、最大電力点を追従するようIC3におけるDC-DC変換の条件を変化させる。

 この最大電力点の追従制御回路は、設計面での考慮に加え、消費電力の少ない部品を選んで使用したことから、消費電力が約1mWに抑えられている。これは、電力効率の改善効果に比べると無視できるほどに小さい値である。また、最大電力点の追従制御回路とレギュレータのインターフェースは、図2に示すように、I、V、Fの3カ所の接続だけで済むよう簡略化してある。従って、この回路はほとんどのスイッチングレギュレータに適用可能である。筆者は、本稿で紹介した最大電力点の追従制御回路が、簡略化/低コスト化/低消費電力化が不可欠な小規模太陽電池システムでの利用に最適なものだと考えている。

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