1990年代の前半、筆者はエンジニアとして米ニューメキシコ州にあるホワイトサンズミサイル実験場(White Sands Missile Range)で働いていた。ここでは、その当時に経験した1つの出来事から筆者が学んだことを紹介する。
あるとき、デジタル式のデータ収集システムに問題が発生した。そのシステムは、通常は何の問題もなく正常に動作するのだが、時折、気まぐれのように誤ったデータを出力するという不具合を起こした。そのシステムはラックマウント型で、筺体には手作業で配線されたバックプレーンがあり、約5インチ(約12.7cm)角のプリント配線板(以下、基板)が多数挿入されていた。実装されている回路は、当時の主流であったTTL(Transistor to Transistor Logic)部品によって構成されていた。そして、システムの電源は、1台の5V安定化電源から分配する形で供給されていた。
そのトラブルを放置したままの状態で1カ月ほど経過したころ、上司から「直ちにシステムの修理を始めよ」との指示が下った。しかしながら、1つ問題があった。そのトラブルに対処するための機器が簡単には入手できそうになかったのである。
そこで、筆者は入力データと出力データをモニターするための機器の設計から始めることにした。解析に必要となる機器を自作しようと考えたのである。また、テストを行うために、16ビットの2進データを発生する手段も用意することにした。結果としては、トラブルの原因を見つけることよりも、こうした準備のほうに長く時間を費やすことになった。
トラブルの原因を調査するための準備が整い、テストを行った結果、1つの事実に気が付いた。それは、ある1枚の基板において、グラウンドパターンの電位が0.7Vほど振れてしまうという症状である。
さまざまな調査を行った結果、この症状は、16ビットの入力2進データのうち、12個以上のビットが1である場合に常に発生することがわかった。また、入力デジタルデータのうち、どのビットが1であるかということに依存して、出力データに誤りが生じることも判明した。
問題の基板は両面実装タイプのものであり、基板の一端(エッジ)にコネクタが実装されていた。グラウンドパターンは、コネクタのない3方の基板エッジに沿って周辺を囲むようにレイアウトされていたが、そのパターンは裏面だけにあり、幅は1/8インチ(約0.32cm)ほどだった。一方、5Vの電源ラインは基板の表(おもて)面に形成されており、コネクタを実装してある基板エッジと平行に基板中央部を走っていた。その幅も1/8インチほどだった。検討の結果、筆者は、システムの設計としては問題はないが、基板の設計に問題があるとの判断を下した。
対策として、筆者は、AWG 12(直径2.3mm)の裸単線を「コ」の字型に成形し、その3辺をグラウンドパターンにはんだ付けした。そして、その端部はコネクタのグラウンド端子にはんだ付けした。また、5Vの電源ラインについても同様の処置を施した。その結果、誤ったデータが出力されることはなくなった。問題が起きることが確認されたのは1枚の基板だけだったが、安全を期して残りの基板にも同様の処置を行った。
筆者にとって、この経験は貴重なものだった。それ以来、基板を設計する際には、必ず、グラウンドパターンは基板のエッジに沿って周囲をぐるりと囲むような形状のベタパターンとしてレイアウトしてきた。パターンの幅は、基板の両面ともに、少なくとも0.2インチ(約0.51cm)以上確保するようにし、両面の間は多数のビアで接続することにした。このような手法は、デジタル回路でのグリッチ対策やアナログ回路でのノイズ低減に大いに役立ったのである。
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