A-D変換システムを設計する場合、まず最初に、必要とする分解能に着目し、それに合致したA-Dコンバータ製品を選択するというアプローチをとることが多いだろう。このようなアプローチにより、例えば12ビット〜16ビット程度のA-Dコンバータを用いることになったとする。その場合、対象とするアナログ信号の振幅がA-Dコンバータのダイナミックレンジに適合するよう、ゲイン(利得)を調整する回路(以下、ゲイン回路)を挿入するケースが多い(図1(a))。
もう少し詳しく言うと、多くのシステム設計は、センサーの種別を決めるところから始まる。その次に、センサーの出力範囲をチェックし、入力範囲がそれに適合するA-Dコンバータを選定することになる。しかし、実際には入出力の範囲が合致している最適な製品が存在するとは限らない。そのため、センサーとA-Dコンバータの入出力電圧範囲の差異を埋めることを目的とし、アナログ信号のゲインを調整するためのゲイン回路を使用するのである。
実は、これとはまったく異なるアプローチをとることもできる。例えば、24ビットクラスのA-Dコンバータを使用し、ゲイン回路は用いないという方法だ(図1(b))。このアプローチは、図に示したとおり単純である。さらに、12〜16ビット品を用いるのと同等以下の価格で、システムとしてはより高い性能が得られる可能性がある。
24ビットのA-Dコンバータを採用しても、そのダイナミックレンジの一部しか使用しない設計になることもあるだろう。そのことは、機能の実現という目的からすれば、さしたる問題ではない。不要なビットは捨ててしまえばよいのである。それでも、12〜16ビットのA-Dコンバータを用いる場合より、高い精度が得られる可能性がある。24ビットのA-Dコンバータと12ビットのA-Dコンバータを比べると、前者ではプログラマブルゲインアンプ(PGA)機能を外付けで用いなくても、4096倍高いシステムゲインが得られるからだ。また、使用するA-DコンバータがΔΣ変調方式のものであるならば、製品によっては、内蔵するPGA機能により、ゲインをさらに64〜128倍高くすることも可能である。
図1(b)の構成では、24ビットのA-Dコンバータを使用しており、センサーの出力をゲイン回路で調整するということが行われていない。しかしながら、この構成は、12ビットのA-Dコンバータを用いてゲインが4096のゲイン回路を付加したのと意味的には等価である。また、このとき、差動入力型のA-Dコンバータを使用すれば、アナログ回路で発生する不要なレベル変動(同相ノイズ)を除去することができる。さらに、この構成ではセンサーの出力信号が負(−)の電圧になる場合でも、一定の電圧をオフセットとして加えることによって、A-Dコンバータに入力する信号を正(+)の電圧に変換することが可能である。
センサーの出力が、24ビットの全域を使い切ってしまうとは限らない。そのような場合には、変換特性が良好になるよう、A-Dコンバータの入力範囲を調整することもできる。仮に、使用する24ビットのA-Dコンバータの有効分解能が23ビットであったとしよう。その場合でも、前段に2048倍のゲイン回路を挿入した12ビットA-Dコンバータを全入力電圧範囲で使用するのと等価なのだ。
次回からは、応力センサー(ロードセル)や温度センサーを使用する実際的なシステムの構成方法について述べる予定である。そこで用いるのは、本稿で紹介した24ビットのA-Dコンバータを使用するアプローチだ。システムの性能について説明するだけでなく、コストについても言及するつもりである。比較的低速な回路の構成をいくつか取り上げ、12ビットのA-Dコンバータと24ビットのA-Dコンバータを使用するシステムを比較して、後者を用いるアプローチのメリットを示すことになるだろう。
<筆者紹介>
Bonnie Baker
Bonnie Baker氏は「A Baker's Dozen: Real Analog Solutions for Digital Designers」の著書などがある。Baker氏へのご意見は、次のメールアドレスまで。bonnie@ti.com
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