Wi-Fiの“モバイル性能”評価:FMC普及の鍵を握る(2/2 ページ)
Wi-Fi機器や携帯電話機による通信が普及するに連れ、音声/データに常時アクセスできる環境を求める声が高まっている。このような環境を実現するために数年前に登場したのが、Wi-Fiと携帯電話を融合したFMCだ。しかし、FMCには課題も多く、世界的な規模での普及には至っていない。本稿では、そうした課題の1つであるテスト手法について取り上げ、主にWi-Fiの“モバイル性能”を統合的に評価する方法を紹介する。
Wi-Fiモバイル性能の重要性
携帯電話ネットワークでは、事業者がライセンスを取得したRF帯域を独占的に使用する。それとは異なり、Wi-Fiネットワークでは、非ライセンス帯域を、ほかのWi-Fiネットワークだけでなく、BluetoothなどのRFネットワークや、コードレス電話機、電子レンジといった機器とも周波数資源を共有している。そのため、Wi-Fiを採用するFMC機器の性能を評価する際には、その機器が稼働する実環境の影響も考慮しなければならない。
また、同じ帯域を共有するWi-FiネットワークやRF機器が生成するRF干渉に加え、壁や家具などの固定障害物、車両などの移動物体により、マルチパスやフェージングといったWi-Fi機器の性能に影響を及ぼすRF信号条件が生じる可能性がある。ほとんどのFMC方式において、音声データの主要キャリアは、それ専用のIPネットワークではないので、トラフィック負荷の変動に伴って音声品質に直接影響が生じる恐れがある。そのため、可能な限り高品質なFMCサービスを維持するには、Wi-Fi/携帯電話を融合した機器は、このような実際に生じ得るすべての条件下で、最大限のWi-Fiのモバイル性能を提供しなければならない。
Wi-Fiのモバイル性能がユーザーエクスペリエンスに与える影響を調べるには、まず、ユーザーに直接的な影響を及ぼすものとして、いくつかの事例を特定することが重要である(表1)。そうした事例により、データ速度、パケット損失、エラー率、ローミング時間といった、テストの実施を必要とする基本的なWi-Fiの性能指標が決まる。これを用いて、Wi-Fiのモバイル性能を評価するためのテストを構成することができる(表2)。
FMC機器とネットワークをテストするための統合的な手法では、柔軟性の高いプロトコルとトリガー解析を用いたパラメータ測定、インターネットに接続したネットワークのエミュレーションが必要になる。汎用アクセスネットワークをエミュレーションすることにより、技術者は携帯電話側の準拠状態や機能、汎用アクセスネットワークと携帯電話ネットワーク間のハンドオーバーの信頼性をテストすることができる。
モバイル性能のテスト手法
続いて、Wi-Fiのモバイル性能をテストする方法を紹介する。
■OTAテスト
OTA(Over the Air)テストは、技術者が機器の動作環境条件を再現することにより機器の性能をテストする手法である。Wi-Fiのモバイル性能を評価するための最も一般的な手法の1つだ。
OTAテストは、空き家になっているオフィスビル、住宅、稼働中のネットワークを用いて実施する。モバイル性能とローミングに関するOTAテストは、Wi-Fi機器および携帯機器を移動カートに載せてテスト空間内のさまざまな場所に移動させ、各場所で手作業でテスト構成を変更し、テスト結果を記録することにより行う。
この手法は、周囲の環境に大きく依存するため、技術者はほとんどのテストを手作業で実施しなければならない。そのため、モバイル性能に対する有効性には制限が加わる。また、テストの設定なども手作業となるので、作業時間が長くなってしまう。加えて、OTAテストでは、まったく同じテストを後で再度行うことが難しい。同じ場所で実施する場合でも、テストのたびにRF干渉が異なる可能性があるため、再現性が非常に低くなるからである。
■OTAに代わる手法
OTAテストの代替策として、RF環境を制御し、その環境でテストを実施する手法がある。例えば、隔離された試験室で行うテストでは、外部からのRF干渉を排除したスクリーン室内にWi-Fiのテスト装置を配置する。スクリーン室の設置とメンテナンスに多大なコストがかかるため、この手法を用いると金銭的な負担は大きくなる。また、スクリーン室の大きさによって、テスト距離、ローミング、モバイル性能の有効性が大きく制限される。
一方、より高度な手法として、機器を隔離して行うテストもある。この手法では、すべてのテストベッド機器をそれぞれ独立した筐体に配置し、ケーブルを用いてそれらをプログラマブルなRF減衰器、結合器、スイッチに接続する。また、制御された有線の環境によりWi-Fiネットワークを再現して可変的な要素を排除することにより、RF接続を安定化させる。
ほかの手法とは異なり、機器を隔離して行うテストでは、制御可能なテストベッドを使用することによる多くの利点が得られる。まず、テストの対象とする機器を外部のRF干渉から隔離することで、制御可能なRF環境が得られ、再現可能なモバイル性能テストを実施することができる。また、制御された有線のRF環境を使用することにより、独自のテストベッドや高価なRFスクリーン室を設計、構築、維持する必要もなくなり、コストを削減することもできる。さらに、プログラマブルなテストベッドやツールにより、テスト構成の設定やテストの自動化が可能になるといった利点も得られる。ユーザーは任意のネットワーク機器の構成を自動的に設定し、任意のネットワークノードの位置を動的に変更することで、移動による性能への影響を、機器とネットワークの両方に対して評価することができる。また、テスト構成の設定を自動化することにより、設定が容易になる。加えて、プログラミングにより、手作業の場合に比べてテスト時間を大幅に削減することが可能だ。さらに、人間の手を煩わせることなく、自動的に測定を繰り返すスクリプトを作成することもできる。この再現性により、品質管理とベンチマークテストプロセスに費やす時間が短縮され、その結果、市場投入までの期間とテストコストを大幅に削減することが可能になるのである。
機器を隔離して行う手法のもう1つのメリットが、テストに拡張性があることだ。制御されたRF環境を適切に構築すれば、Wi-Fiテストを単一の機器からネットワーク全体へと拡張することが可能である。ユーザーはWi-Fiネットワークの全体について構成を設定し、実際のアクセスポイント、クライアント、その他のワイヤレス機器に対するシステムレベルのテストを実施することができる。すなわち、さまざまなトラフィック負荷やクライアント負荷の条件下で、ネットワークをテストすることが可能になるのである。クライアント負荷/トラフィック負荷のエミュレーションにより、テストの対象とする機器向けに負荷の高いネットワーク環境を再現するテスト設定を構築することができる。これにより、制御された条件下でのWi-Fiモバイル性能のテストが可能となる。このテスト手法を用いることで、RFマルチパスやフェージング、バックグラウンドのWi-Fiトラフィック、RF干渉、IPネットワーク遅延といった各種条件を組み合わせて(または1個の条件でも)、IEEE 802.11a/b/g/nに対応した機器のモバイル性能評価が行える。
FMCの開発者、ユーザー、サービスプロバイダのテストに対する多種多様な要求は開発環境によって異なるが、上述したように、機器を隔離することによって対応が可能になるだろう。また、サービスプロバイダでは、もう1つ重要なテストを実施する必要がある。上記と同様のテストを使用して、さまざまなサプライヤが提供する機器の相互運用性を検証しなければならないのである。サービスプロバイダのネットワーク上で動作するFMC携帯機器を選択する技術者にとって、効果的な性能ベンチマークは、FMC携帯機器のWi-Fiモバイル性能を同一基準で比較するための有効な手段となるに違いない。
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