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4Gワイヤレスにかかる“霧”3Gからの移行を妨げるものは何なのか?(3/3 ページ)

第4世代のワイヤレス通信技術(4G)について語られるようになってから久しい。しかしながら、現時点でも4Gの「実体」は確定的なものとはなっていない。現状の第3世代から第4世代への移行に当たっては、どのようなことが課題になるのだろうか。そして、設計者は、この新技術に対してどのように向き合っていけばよいのだろうか。

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柔軟性の高いテスト技術

 ここまで述べてきたように、4Gはいまだ確たるものではないという状況にある。このような条件の下で、4Gの基地局やエンドユーザー向けの端末のテストはどのようにして行えばよいのだろうか。

 まず、4Gの候補となる規格は絶えず変化している。そして、各標準化団体は、それぞれ独自のテスト基準を定めようとしている。Buffo氏によれば、「LTE-Advancedの要件は明確だ」というが、Mobile WiMAXについては機能がまだ発展段階にあり、最終版がどのようなものになるのかを推定するのは難しい。

 米Azimuth Systems社のマーケティング/製品管理担当バイスプレジデントを務めるGeorge Reed氏は、「最新の規格がどのようなものになろうとも、それに適応できるだけの柔軟性を備えた新しい種類のテストツールが必要となる」と述べている。また、設計者としては、現時点での最新版の規格を参照し、それを基に設計を行って、規格が進化すればそれに応じて必要な変更を加える以外に方法はない。

写真1 LTE信号の3D表示
写真1 LTE信号の3D表示 信号アナライザのスペクトログラム機能を利用して、LTEの信号を3D表示している。この製品では、垂直カーソルによって時間領域における特定のデータ部分を選択することができる。水平カーソルを用いれば、対象周波数を指定することが可能である(提供:アンリツ)。

 こうした状況下にあるものの、テストについての目標は、これまでと異なるものになるわけではない。技術者は最終製品の機能を検証する必要があるが、テスト装置メーカーが、常に最新版の規格に対応した新しい装置を次々に提供し続けてくれることを期待するのは無理がある。とはいえ、最終製品は無線システムであることに違いはなく、テスト装置も無線システムに対応したものであることに違いはない。そして、共通のカテゴリに属するものには、いずれにも共通した部分がある。無線関連機器に共通したトレンドの1つは、汎用性を高めることだ。RF対応のテスト装置は、多くの種類の信号を取得することができ、テストの対象となる規格に対応した測定アルゴリズムを適用することでさまざまな条件に対応する(写真1)。通信機器メーカーは、高性能のDSP、DC-DCコンバータ、A-Dコンバータなどを搭載した多機能ハードウエアシステムを1つ用意し、規格や技術の違いはソフトウエアで吸収するソフトウエア無線(Software Defined Radio)の考え方を追求し始めた。

 MIMOアンテナも、テスト手法を複雑にし、従来とは異なる手法を要求する要素である。National Instruments社のHall氏は、「計測器ベンダーは、MIMOのテストの問題に対応した、より柔軟性の高いハードウエアを提供し始めている」と述べる。最新のRFジェネレータ/アナライザでは、サンプリングクロックと局所発振器の同期をとることができ、より難しいMIMO測定に対応可能となっている。

写真2 Rohde&Schwarz社の無線通信テスト装置
写真2 Rohde&Schwarz社の無線通信テスト装置 このようなテスト装置が、4G技術において重要な役割を担う。

 もう1つの問題は、新しい規格に対応した基地局を設計する設計者の手元には、それが正しく動作することを検証するための端末が存在しない場合が多いということである。また、一般に端末メーカーは、開発中の製品によって実際の基地局にアクセスすることはできない。そこで、端末メーカーは、ネットワークを模したエミュレータを利用する。このような用途に用いるエミュレータは、柔軟性を高められるように設計されている。また、4Gの導入により、すべての3G技術が突然姿を消すわけではない。遠い将来、4G規格に準拠した製品が当たり前になるまでは、既存のインフラストラクチャとともにシームレスに動作するような機器を設計する必要がある。しかし、そのころには、おそらく5G(第5世代)や6G(第6世代)の技術が出現し、また同じ状況が繰り返される。1つの設計が古い規格に基づく通信ネットワークとの互換性を維持していることを検証する上で、基地局や端末のエミュレータの存在が非常に重要な役割を果たすのである。

 Rohde&Schwarz社の製品ラインマネジャであるPaul Goodling氏は、「LTE-AdvancedもMobile WiMAXも、同一の物理レイアウト上に構築される」と語る。LTE-Advancedでは、ハンドオーバーや信号のセキュリティなどの問題に対処してきた3GPPのこれまでの慣習にならい、仕様がより詳細に定義されている。同氏は、「LTE-Advancedがワイヤレス通信の主流となり、WiMAXは、家庭用の電話システムやノート型パソコンなど、モバイル性の低いアプリケーションにおいて普及するのではないか」と考えている。「しかし、テストの観点からは、LTE-AdvancedとMobile WiMAXは同一プラットフォームを利用する別のバージョンであると考えてよい。シングルボックスの計測ソリューションによって、すべての現行規格に対応することができるはずだ。このことから、4Gへの移行はスムーズに進むだろう」と同氏は述べる(写真2)。

4Gはゴールにあらず

 4G通信への移行は、急に加速したかと思えば停滞するという動きを繰り返しながら進行している。当初は部分的に4Gが導入され、時間の経過とともに拡大していくという流れになるだろう。これは、2Gから3Gへの移行のときと同じ状況であり、4Gの次の世代でもまた同じことが繰り返されるはずだ。設計者は柔軟性の高い製品を設計し、規格の進化に伴う継続的な変化に対応できるようにしておく必要がある。

 本稿で述べたとおり、4Gを巡る状況は“混沌”という言葉で表現できる。しかし、1つだけ確かなことがある。繰り返しになるが、通信性能に対する要求は4Gで終結するわけではないということだ。その後の世代においても、要求がとどまることはない。

 数年前、業界のある専門家は、「今後の10年間で、通信の世界は、これまでの10年間に実現されたコンピュータの進歩が見劣りするほどのスピードで発展するだろう」と予測した。この予測ですら、控えめな意見だと指摘する声さえあるのだ。

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