オンラインツールでアナログ設計を効率化(1/3 ページ)
アナログ回路の設計技術者にとって、その設計を支援するツールは必須の道具である。最近になって、多くの半導体メーカーから無償かつオンラインで利用できる設計支援ツールが発表されるようになっており、アナログ回路の設計をさらに容易化しようと試みられている。本稿では、設計支援ツールの進化の歴史と、半導体メーカーが提供する最新のオンライン設計ツールについて紹介する。
設計支援ツールの進化
電子回路がこの世に登場して以来、多種多様なシミュレーションツールが、電子工学の技術者に利用されてきた。特に、数値仕様が何桁にも及び、1つの回路要素の変更がほかの(おそらく本来は無関係な)要素に未知の影響を及ぼし得るアナログ回路の設計において、そうしたツールは非常に重要な役割を果たしてきた。
現在では、昔に比べてアナログ回路はより複雑になっている。かつて、20kHzで動作していたスイッチングレギュレータだが、最新のICには4MHz、8MHzといった周波数で動作するものがある。また、最新のアナログ信号パスで求められるノイズや精度の要件も非常に厳しい。インターフェース信号の周波数はギガヘルツ単位になった。こうした信号は、互いに干渉する恐れがあるだけでなく、内部および外部の信号源から干渉を受けやすい。そのため、機器全体の動作の信頼性を低下させることにもなる。さらには、過度なノイズを放射する可能性もあるため、それによって製品がFCC(Federal Communications Commission:米連邦通信委員会)からの規格認定を取得できないということもあり得る。
最初に述べたように、アナログ回路の設計技術者を支援するツールはかなり以前から存在している。そうした支援ツールには、およそ10年ごとに新しい技術が採用されてきた。
例えば、1950年代のアナログ設計者は、電流に反応してライトグレーや青から濃い黒に色が変化する「Teledeltos(電気感光紙)」を用いて回路をシミュレーションしていた。1960年代に入ると、7000行のプログラムから成る米IBM社の「ECAP(Electronic Circuit Analysis Program:電子回路解析プログラム)」が登場し、回路設計を支援した。そして、1970年代に、カリフォルニア大学バークレー校でSPICEが開発された。このSPICEが、現在でも多くのツールの基盤となっている。
SPICEベースのツールが主流に
現在、SPICEはパッケージソフトウエアとして提供されており、購入またはリースにより入手することができる。このSPICEベースの代表的なツールとしては、現在は米Cadence Design Systems社が所有する「PSpice」、米Synopsys社の「HSPICE」がある。ほかにも、米Intusoft社のアナログ/ミックスドシグナル回路シミュレーションツール「ICAP/4」や、オーストラリアAltium社の「Altium Designer」の回路シミュレータ機能がSPICEベースのツールとして知られている。また、米National Instruments社の傘下にあるカナダElectronics Workbench社の「Multisim SPICE」は、その直感的で斬新なユーザーインターフェースにより大学や研究機関などからの絶大な人気を誇っている。
アナログ設計のシミュレーションツールは、初期の時代と比べると大きな進化を遂げている。例えば、カリフォルニア大学バークレー校が1972年に開発した最初のSPICEツール「Berkeley SPICE」は、パンチカードにネットリストを入力し、メインフレームで処理を行うというものだった。これに対して、最新のSPICEベースのツールであるMultisim SPICEでは、回路図を描画し、仮想的な試験装置を回路のノード上にドラッグすることにより、回路性能のシミュレーションおよび評価を行うことができる。
そして現在では、パソコン用のソフトウエアにおける最近のトレンドと同様に、アナログ設計のシミュレーションについてもオンラインで利用するタイプのツールが注目されている。米National Semiconductor社のシミュレーションツール「WEBENCH」では、設計した回路の解析を同社のサーバー上で行うことができる(画面1)。米Analog Devices社のオンラインツールでは、Multisim SPICEを用いて同様の処理を行うことが可能である。また、スイッチング電源に使われる整流ダイオードやトランスの磁性部品は非線形な特性を持つため、そのシミュレーションは困難な作業である。米Linear Technology社のSPICEベースのツール「LTspice」は、スイッチング電源の回路シミュレーションにおいて高い性能を発揮する。
そのほかの回路シミュレーションツールとしては、米The MathWorks社の「MATLAB」、あるいは米PTC社の「MathCAD」などの技術計算ソフトウエアがある。これらを用いれば、数値演算プログラムにより、Z変換を用いてデジタル電源チップの応答を計算するといったことが可能である。物理モデルとマクスウェルの方程式を用いるフィールドソルバーにより、電場や磁場を解析して、回路の性能を予測することができる*1)。
脚注:
※1…『電磁界解析ツール活用のススメ』(Paul Rako、EDN Japan 2007年4月号、p.51)
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