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オンラインツールでアナログ設計を効率化(3/3 ページ)

アナログ回路の設計技術者にとって、その設計を支援するツールは必須の道具である。最近になって、多くの半導体メーカーから無償かつオンラインで利用できる設計支援ツールが発表されるようになっており、アナログ回路の設計をさらに容易化しようと試みられている。本稿では、設計支援ツールの進化の歴史と、半導体メーカーが提供する最新のオンライン設計ツールについて紹介する。

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Maxim社らも参入

 オンラインツールの分野に新たに参入してきたのが、米Maxim Integrated Products社である。同社が強力なオンラインツールを提供し始めたのは最近のことだが、多くの優れた機能を提供することにより、後発としてのハンデを克服しつつある。

 Maxim社は、ほかのアナログ半導体メーカーと同様に、オンラインの設計ツールの前に、オンラインのパラメータ選択ガイドを開発した。そして、同社は、製品選定を支援するさらに進化した手段として、オンラインの設計ツール「EE-Sim」を投入した(画面6)。2009年3月の時点では、4つの部品しかサポートされていないが、同社は2009年末までにサポートする部品の数を大幅に増やす予定である。


画面6 Maxim社の「EE-Sim」
画面6 Maxim社の「EE-Sim」 EE-Simでは、仕様または部品を変更しなければ回路が動作しない場合、その旨を警告するダイアログボックスが表示される。

 EE-Simは、一般的なSPICEエンジンの代わりに英SIMetrix Technologies社の「SIMPLIS」を使用している。SIMPLISでは、行列演算をSPICEのような繰り返しの形式で実行しない。その代わりとなるのが、ダイオード曲線やトランジスタ特性を正確に線形近似したモデルである。この演算処理エンジンによるシミュレーションは、精度が少し犠牲になる欠点を補って余りあるほど高速である。Maxim社で戦略アプリケーションエンジニアを務めるEric Schlaepfer氏によれば、EE-Simの計算速度は、一般的なSPICEエンジンの約10倍に達するという。EE-Simにはダウンロード版もあるので、インターネットに接続可能な環境でなくてもシミュレーションを行うことができる。


画面7 Fairchild社の「FETBench」
画面7 Fairchild社の「FETBench」 

 また、Maxim社もTI社と同様に、パターンジェネレータを駆動するデータを生成するツールなど、設計のための簡単なソフトウエアを数多く提供している。

 設計ツールを提供するのは、幅広い市場を対象とするアナログ半導体メーカーだけではない。例えば、米Microchip Technology社は部品の選択ガイド「MAPS(Microchip Advanced Parts Selector)」を提供している。また、米Power Integrations社は、ダウンロード提供しているツール「PI Expert」により、PFC(Power Factor Correction:力率改善)回路を搭載する高電力共振電源を含むスイッチング電源の設計についての支援を行っている。米Fairchild Semiconductor社からは、米Transim Technology社と共同で開発した、MOSFETの選定を支援するオンラインツール「FETBench」が提供されている(画面7)。なお、Transim社の技術については、米Intersil社とオランダNXP Semiconductors社も採用している。

 FETBenchでMOSFETを選定した後には、Fairchild社が米ANSYS社と共同開発したオンラインツール「WebSIM Thermal」により熱シミュレーションを行うこともできる。基板サイズ、気流、部品の配置などの条件を指定して部品の熱性能を評価することが可能である。WebSIM Thermalは、ユーザーが独自の部品を定義する機能も提供しているので、任意のプリント配線板に対して熱シミュレーションが行える。

画面8 Intersil社の「iSim」
画面8 Intersil社の「iSim」 

 Intersil社は、電源やオペアンプ回路の設計およびシミュレーションを支援するオンラインツール「iSim」を提供している(画面8)。ダウンロード版では、回路図データを取り込んで性能を評価することができる。

 米International Rectifier社は、PFC回路や簡単な降圧型レギュレータの設計を支援するオンラインの設計ツール群を提供している。それらのツールには、完全な熱解析を行う機能はないものの、この種の回路の設計時間を短縮することが可能である。「解析」ボタンをクリックすると、その設計に対応するPDF形式の解析ファイルが生成されるので、それを設計マネジャに提出したり、設計のレビューに使用したりすることができる。

 同社は、モーター制御用の計算ツール、照明バラストの設計を支援するソフトウエア(ダウンロード提供)、フルブリッジ/ハーフブリッジ/フォワードコンバータなどさまざまなコンバータ構成における部品の選定を支援するツールなども提供している。同社のウェブサイトでは、モーターの制御アルゴリズムをカスタム開発できる統合設計プラットフォーム「iMotion」向けの設計支援も行われている。

顧客の誘導

 多くの企業が、簡単な登録によりオンラインツールを使用できるようにしている。例えば、Maxim社は、オンラインツールを利用する際に、電子メールアドレスとパスワードの入力のみを要求する。

 一方、Analog Devices社は、ユーザー登録しなくてもオンラインツールを利用できるようにしている。同社も以前はユーザー登録を行っていたが、ユーザーは登録の作業を煩わしく感じてウェブサイトにとどまってくれないという事実に気付いた。同社でアプリケーションエンジニアリング担当ディレクタを務めるDave Kress氏は、「クリック率から、多くの技術者が登録ページを訪問しているものの、そこで登録作業を面倒に感じて立ち去っていることがわかった」と説明する。同氏は、登録する直前に去っていった“失われた顧客”は、登録ページの訪問者の30?50%を占めると推定している。「これでは目的が果たせていないと感じた」(同氏)という。

 オンラインの設計ツールが普及していることは、大手アナログ半導体メーカーのホームページの構成からも明らかである。

 例えば、TI社とAnalog Devices社のホームページは、製品、アプリケーション、設計サポートという3つのカテゴリに大きく分類されており、設計サポートのカテゴリから自社が提供するツールにアクセスすることができる。Intersil社のホームページには、製品と設計リソースという2つの欄がある。National Semiconductor社は、同社のウェブサイト全体にわたってWEBENCHを前面に押し出しており、ウェブサイト内の各所で同ツールにアクセスできるようにしている。例えば、同社のレギュレータIC「LM5574」の製品ページから同ツールにアクセスすると、WEBENCHの機能が起動し、つまみを用いて電源回路の効率やサイズの検討を行うことができるようになっている。


 本稿で紹介したものは、オンライン版であれ、ダウンロード版であれ、数ある支援ツールの一例にすぎない。多くのアナログ半導体メーカーが、SPICEモデル、リファレンスデザイン、IBIS(Input/Output Buffer Information Specification)モデル、BSDL(Boundary Scan Description Language)モデル、技術ライブラリをオンラインで提供している。オンラインのほかの活用例としては、TI社の技術者向けコミュニティ「E2E Community」がある。このコミュニティでは、技術者の成功事例や失敗事例の情報を共有できるようになっている。

 そして、問い合わせれば力を貸してくれるフィールドアプリケーションエンジニアの存在も忘れてはならない。有能なフィールドアプリケーションエンジニアこそ、“最高の設計支援ツール”なのである。

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