単電源のCMOSオペアンプが登場して以来、技術者は従来よりも単電源のシステムを容易に設計できるようになった。正負2電源のオペアンプの場合、THD+N(全高調波歪+ノイズ)を決める主な要因は、入力ノイズと出力段のクロスオーバー歪(ひずみ)である。単電源のオペアンプの場合も、同様に入力段と出力段でTHD+Nが決まる。しかし、単電源のオペアンプでは、入力段の構造が理由となって、THD+Nの発生原因はより複雑なものとなる。
単電源のオペアンプの中には、電源電圧範囲いっぱいに変化する入力信号を受けられる方式を採用したものがある。その1つである相補型差動入力方式のオペアンプでは、入力信号の電圧が負の電源レール近くなるとpMOSトランジスタがオンになり、nMOSトランジスタはオフになる(図1)。一方、入力信号の電圧が正の電源レールに近くなると、nMOSトランジスタがオンになり、pMOSトランジスタはオフになる。
この方式のオペアンプは、入力信号のコモンモード電圧に依存してオフセット電圧が大きく変化する。入力信号のレベルがグラウンド近辺の場合は、pMOSトランジスタのオフセット電圧がオペアンプ全体のオフセット誤差の支配的な要素となる。一方、入力レベルが正の電源レール近くになると、nMOSトランジスタのオフセット電圧が支配的な要素になる。
これら2つの領域の中間に入力信号がある場合、pMOS、nMOS両方のトランジスタがオンになる。このような条件で発生するクロスオーバー歪はTHDに影響を及ぼす。相補型差動入力方式のオペアンプによって非反転増幅回路を構成した場合、入力段でのクロスオーバー歪の程度によってTHD+N特性が変化する。例えば、入力信号レベルが入力トランジスタの遷移(切り替わり)領域をまたがない場合、THD+Nは0.0006%となるのだが、入力クロスオーバー歪が含まれる領域におけるTHD+Nは0.004%まで劣化するといった具合である。このタイプのクロスオーバー歪が発生しないようにするには、オペアンプを反転増幅回路構成で使用すればよい。
THD+N特性を決めるもう1つの主な要因は、オペアンプの出力段にある。単電源のオペアンプでは、通常、出力段にはAB級動作が用いられる。この構成では、出力信号が一方の電源レールから他方の電源レールまで変化すると、機能する出力トランジスタが途中で切り替わる。そのため、出力段でも、入力段と同様にクロスオーバー歪が発生する。一般的には、出力回路の静止時電流(無信号時の電流)が増える方向でオペアンプの設計を行えば、THD+Nは改善できる。
また、オペアンプの入力ノイズもTHD+Nの要因である。入力ノイズが大きい、あるいは回路の閉ループゲインが高い、あるいはその両方であると、オペアンプ全体としてのTHD+Nが劣化する。
相補型差動入力方式を採用した単電源のオペアンプを用いる場合に、良好なTHD+Nを得るには、反転増幅回路構成とし、閉ループゲインを低く保つことが望ましい。非反転増幅型のバッファアンプが必要な場合には、単純差動入力方式で、チャージポンプを備えるタイプのオペアンプを使用するとよいだろう。
<筆者紹介>
Bonnie Baker
Bonnie Baker氏は「A Baker's Dozen: Real Analog Solutions for Digital Designers」の著書などがある。Baker氏へのご意見は、次のメールアドレスまで。bonnie@ti.com
脚注
※1…"OPA350, OPA2350, OPA4350 High-Speed, Single-Supply, Rail-to-Rail Operational Amplifiers, MicroAmplifier Series," Texas Instruments, January 2005
※2…"OPA363, OPA2363, OPA364, OPA2364, OPA4364, 1.8V, 7MHz, 90dB CMRR, Single-Supply, Rail-to-Rail I/O Operational Amplifier," Texas Instruments, February 2003
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