リチウムイオン電池や電気2重層キャパシタなどの蓄電セルを直列に接続して使用する際には、1つ注意しなければならないポイントがある。それは、各セルの容量や、内部抵抗、自己放電率などが不均一であることに起因して、各セルの電圧(以下、セル電圧)にばらつきが発生するということだ。セル電圧がばらつくと、セルの劣化が加速的に進行したり、利用可能なエネルギー量が低下したりするのである。そこで、セル電圧のばらつきを解消するために、各種の均等化回路が提案されている*1)。しかし、従来の方式では、直列に接続するセルの数に応じて、必要なスイッチやトランスの数が増えて、回路が複雑化してしまう。
本稿では、コンデンサとダイオード、交流電源のみで構成可能な均等充電回路を紹介する。図1において、B1、B2、B3はリチウムイオン電池や電気2重層キャパシタなどの蓄電セルである。各セルには、直列に接続した2つのダイオードD1/D2、D3/D4、D5/D6が、それぞれ並列に接続されている。直列に接続した2つのダイオードの中点は、それぞれコンデンサC1、C2、C3を介して交流電源VACに接続されている。
VACが図の上方向に向かって電力を供給する期間には、添え字が偶数のダイオード(図1の場合、D2、D4、D6)が導通する。それにより、C1、C2、C3がVACならびにB2、B3によって充電される。ここで、B1、B2、B3はC1、C2、C3と比較して容量値が十分に大きいものとする。そうすると、交流電圧であるVACの1周期の間において、B1、B2、B3のセル電圧VB1、VB2、VB3の変動は十分に小さいと見なすことができる。一方、この期間におけるC1、C2、C3の充電電圧VC1A、VC2A、VC3Aは、VACのピーク電圧をE/2、VDをダイオードの順方向電圧とすると、それぞれ以下のように表すことができる。
同様に、VACが図の下方向に向かって電力を供給する期間では、添え字が奇数のダイオードが導通することで、B1、B2、B3はVACとC1、C2、C3によって充電される。ここでVACの負側のピーク電圧を−E/2とすると、この期間におけるC1、C2、C3の電圧VC1B、VC2B、VC3Bは、それぞれ以下のようになる。
ここで、C1、C2、C3の容量値をそれぞれG1、G2、G3とし、VACの交流周波数をfとすると、C1、C2、C3からB1、B2、B3に向かって流れる平均電流IC1、IC2、IC3は、「電流=容量×周波数×電圧変動」の関係から、以下のように表すことができる。
IC1=G1×f×(E−2VD−VB1)
IC2=G2×f×(E−2VD−VB2)
IC3=G3×f×(E−2VD−VB3)
オームの法則より、1/G1f、1/G2f、1/G3fをそれぞれ抵抗R1、R2、R3で置き換えることで、図2のような等価回路が得られる。ここで、VDCは出力電圧がE−2VDの直流電圧源である。コンデンサC1、C2、C3の値G1、G2、G3が等しい場合、抵抗R1、R2、R3の値も等しくなる。そのため、図2において、B1、B2、B3の各セル電圧が等しい場合には電流値も等しくなり、B1、B2、B3は均等に充電されることになる。
図3に示したのは、図1の回路のシミュレーション結果である。これらは、B1、B2、B3として容量値が2F(等価直列抵抗は50mΩ)のコンデンサを用い、C1、C2、C3に100μF(同600mΩ)のコンデンサを用いた場合のものだ。2つの結果のうち、図3(a)は、VACの周波数を1kHzとし、B1、B2、B3の初期電圧が等しい状態から3Vまで充電した場合の結果である。各セル電圧は常に均一に保たれたまま、最終的に3Vまで充電されていることがわかる。一方、図3(b)は、B1、B2、B3の初期電圧をばらつかせた状態から充電を行った結果である。等価回路を用いて考えた場合、各セルに流れる電流はセル電圧と直流電源電圧VDCの差に比例する。そのため、充電過程において各セルの電圧上昇の勾配が異なることが確認できる。各セル電圧は最終的に3Vとなり、図1の充電回路がセル電圧を均等化する機能を有していることがわかる。
脚注
※1…J. Cao, N. Schofield and A. Emadi, "Battery Balancing Methods: A Comprehensive Review," IEEE Vehicle Power and Propulsion Conference, pp.1〜6, September 2008
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