図1に示すのは、比較的低速に変化する任意の電圧波形をパルス列に変換する回路である。各パルスの振幅の絶対値は元の波形の瞬時電圧レベルに等しく、その符号が交互に正負に変わるパルス振幅変調波を生成することができる(図2)。生成された波形は、元の波形の情報を保持することに加え、平均値がほぼ0Vになるため、トランスによって絶縁した状態で容易に伝送できる。
図1の回路には、オペアンプを3個内蔵するビデオアンプIC「ADA4856-3」(米Analog Devices社製)を使用している*1)。各オペアンプには、図のとおり、それぞれ2個の抵抗が接続されている。図の配線により、オペアンプA1、A3はゲイン(増幅度)が1の正転増幅器として働く。同A2はゲインが−1の反転増幅器として機能する。
IC2は高速マルチプレクサ「ADG772」であり*2)、A3の入力への接続先をA1の出力とA2の出力とで交互に切り替える。ここで、IC2の制御用ロジック信号IN2はデューティサイクルを50%近くに保つ必要がある。これにより、A3の出力電圧の平均値をほぼ0Vにすることができる。変調速度、つまり制御用ロジック信号の周波数が約6MHzの場合で、出力電圧のDC成分は、わずかに平均4mV以下の低周波オフセット電圧だけとなる。
筆者は、このDC成分について、グラウンドレベル(0V)と0.8188Vの精密基準電圧の2とおりの電圧をINに入力して実験を行った。実験では、制御用ロジック信号の周波数を60MHzとした。その結果、出力電圧のDC成分は、入力電圧が0Vの場合は約4mVで変化せず、0.8188Vの場合には約175mVに上昇した。この特性は、ADG772がBBM(Break-Before-Make:先切り後入れ)型のマルチプレクサであることを考慮すると、十分に良好だと言える。スイッチの接点S2AとS2Bは、典型的には5nsのtBBM(Break-Before-Make Time Delay:遮断から接続までの遅延時間)で両方が一時的にオフになる。制御周波数が60MHzの場合、各スイッチがオンしているのはその半周期の約8.3nsとなるはずだが、実際のオン状態の期間はtBBMが存在するため3.3nsとなる。また、スイッチの接点S2AとS2Bのターンオン時間に違いがあると、それもDC成分として結果に現れる。
図1の回路に使用するマルチプレクサは、ADG772と同等の速度と帯域を必要とするが、それに加えてMBB(Make-Before-Break:先入れ後切り)型動作であることが望ましい。このタイプのマルチプレクサであれば、周波数が60MHzでの導通期間が3倍以上にもなり、スイッチ間のターンオン時間の差がもたらす影響も小さくなる。なお、MBB型のマルチプレクサを使用する場合、オペアンプA1とA2の出力が短絡することによる過負荷を防ぐ必要がある。それには、A1とA2の出力に、約20Ωの表面実装抵抗を挿入する。
脚注
※1…"ADA4856-3 Single-Supply, High Speed, Fixed G=+2 , Rail-to-Rail Output Video Amplifier," Analog Devices, 2008 to 2009
※2…"ADG772: CMOS Low Power Dual 2:1 Mux/Demux USB 2.0 (480 Mbps)/USB 1.1 (12 Mbps)," Analog Devices, 2007 to 2008
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