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高速スイッチング対応のSiCインバータ、電力損失をSiインバータ比で90%低減

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 三菱電機は2009年11月、SiC(炭化シリコン)デバイスを用いた3相インバータ(以下、SiCインバータ)において、一般的なシリコン(Si)デバイスを用いた3相インバータ(以下、Siインバータ)と比べ、20kW出力時の電力損失を約90%低減できることを実証したと発表した。

 三菱電機は2009年2月に、11kW出力時の電力損失について、Siインバータ比で約70%低減したSiCインバータを発表している。今回発表したSiCインバータは、2009年2月の開発成果を基に、さらにインバータの回路構造を最適化することにより実現された。同社でパワーエレクトロニクスシステム開発センター長兼電機システム技術部長を務める小山健一氏は、「SiCインバータは、SiCデバイスの持つ物理的特性により、Siインバータよりも大幅に電力損失を低減できることを最大の特徴としている。このSiCインバータの電力損失をさらに低減するためには、SiCデバイスの性能向上のみならず、より高速なスイッチングが可能なSiCインバータの回路構造が必要となる」と語る。

2つの課題への対応

 インバータのスイッチング速度を高めるためには、スイッチング時に瞬間的に発生する高電圧(サージ電圧)の抑制と、トランジスタを高速に動作させるための駆動回路の開発という2つの課題を解決しなければならない。

写真1 新開発のSiCインバータの構造
写真1 新開発のSiCインバータの構造 左はSiCインバータの外観、右はSiCデバイスが配置されているSiCインバータモジュール内部の様子である。SiCインバータモジュールは、冷却ファンとプリント基板の間(SiCインバータ外観で黄線で囲んだ部分)に組み込まれている。なお、SiCインバータのサイズは、幅約40cm×奥行き約15cm×高さ約5cmとなっている。

 まず、サージ電圧の抑制については、サージ電圧の要因となるインバータ回路の寄生インダクタンスを低減するために、新たな回路構造を設計した。具体的には、SiCインバータ内に組み込むSiCインバータモジュール上のSiCデバイスの配置と、SiCインバータ内におけるSiCインバータモジュールの主回路配線構造を最適化した(写真1)。寄生インダクタンスは、Siインバータと比べて1/5〜1/10に低減されたという。また、高速の駆動回路については、2009年2月に発表したSiCインバータと比べて、約2倍のスイッチング速度を実現する駆動回路の開発に成功した。

 同社は、これらの技術を適用して、定格出力が20kWのSiCインバータを試作した。このSiCインバータを周波数20kHzで駆動し、22kWの誘導モーターを動作させる実験により、Siインバータと比べて電力損失を約90%低減できることを実証した。

 なお、SiCデバイスについては、SiC-MOSFET、SiC-SBD(ショットキーバリアダイオード)とも、2009年2月の発表のときとほぼ同じものを使用している。小山氏は、「インバータ内で発生する磁束が互いに打ち消し合うように、原点に立ち戻って一から回路構造を再設計した」と説明する。

 小山氏によれば、「Siインバータと比べて電力損失を約90%低減したことにより、SiCインバータとして実現し得る性能目標を達成できた」という。同氏は、今後の開発課題として、長期信頼性の向上などを挙げた。

 なお、現在の一般的なSiインバータの変換効率は96〜97%と言われている。この数字を基にすると、今回のSiCインバータは、Siインバータと比べて電力損失が約90%低減されているので、変換効率は99.6〜99.7%となる。

(朴 尚洙)

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