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インタビュー

景気回復上回る成長を目指す、走行モーター用マイコンも開発中独古 康昭氏 富士通マイクロエレクトロニクス 基盤商品事業本部 自動車事業部長

富士通マイクロエレクトロニクスは2009年8月、「ファブライト型」の事業モデルへの移行や、注力する事業分野の絞り込みをはじめとする新たな事業戦略を発表した。注力する4分野の1つに挙げられている車載半導体の事業戦略について、同社で基盤商品事業本部 自動車事業部の事業部長を務める独古康昭氏に語ってもらった。 (聞き手/本文構成:朴 尚洙)

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2015年度に売上高700億円

 当社は、このほど、事業モデル、費用構造、商品ポートフォリオという3つの項目について改革を推進する新たな事業戦略を発表した。

 事業モデルの改革で目指すのは、「富士通マイクロ型ファブライトモデルの確立」である。当社は、45nmプロセスまでは、微細化プロセス技術の開発を含む製造ラインに先行投資を行う、いわゆる垂直統合型の事業モデルを採用していた。しかし、40nmプロセス以降については、台湾TSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company)社と協業することにより、投資の重点を、商品開発や設計技術、IP(Intellectual Property)/ライブラリ開発などに移すこととなった。つまり、プロセス技術と製造設備への投資を抑制するファブライト型の事業モデルに移行するということだ。

ドッコヤスアキ 1997年、富士通に入社。Java開発およびSPARCliteプロセッサの開発を担当。その後、欧州市場向けの車載FRマイコンの開発を行う。2000年、BUAI(BusinessUnitAutomotive&Industrial)のマーケティング部長代理として、欧州法人のFujitsuMicroelectronicsEurope社に出向。2006年、システムマイクロ事業部ソリューション技術部長に就任。2007年から現職。
ドッコヤスアキ 1997年、富士通に入社。Java開発およびSPARCliteプロセッサの開発を担当。その後、欧州市場向けの車載FRマイコンの開発を行う。2000年、BUAI(BusinessUnitAutomotive&Industrial)のマーケティング部長代理として、欧州法人のFujitsuMicroelectronicsEurope社に出向。2006年、システムマイクロ事業部ソリューション技術部長に就任。2007年から現職。 

 車載半導体については、現行の最先端の製品では90nmプロセスを採用している。65nmプロセスを採用する最初の車載半導体製品は、2010年末に開発を完了する予定である。その後、TSMC社と共同で、車載半導体向けの40nmプロセスの開発に取り組むことになる。

 費用構造の改革については、工場の再編と開発費などの削減によるコスト削減を進めているところだ。

 商品ポートフォリオの改革では、「映像機器」、「モバイル/エコロジー」、「ハイパフォーマンス(産業機器)」、そして自動車事業部が担当する「自動車」という4つの領域に商品開発を集中することとなった。この自動車の領域の売上高として、2008年度の350億円に対し、2013年度は500億円、2015年度は700億円まで成長させる計画だ。

3つの新製品に注力

 2008年後半からの景気後退以降、車載半導体の需要は回復したとは言えない状態にある。2007年を100とすると、2009年は70くらい。2010年も、80弱程度にとどまるだろう。2013年ごろに、やっと2007年と同等レベルに戻るのではないかと見ている。このような状況の中、需要の回復に期待していては先に述べた目標達成は難しい。そこで、商品開発、販売戦略ともに積極的な施策を推進する必要があると考えている。

 商品開発では、グラフィックスプロセッサ、次世代の情報系車載LAN規格である1394 Automotiveに対応したチップ、制御系システムにおけるコスト低減が可能な16ビットマイコンという3つの新製品に注力する。

 まず、グラフィックスプロセッサについては、カーナビゲーションシステムや液晶ディスプレイを使ったメーター向けである「Jade」の次世代品の開発を行っている。Jadeは、英ARM社のプロセッサコア「ARM9」と、当社の2D/3D表示に対応するグラフィックスディスプレイコントローラ(GDC)「Sapphire」を統合したもので、現在、量産車への採用が拡大している。Jadeの次世代品では、画像処理能力を10倍以上に高めたGDC「Ruby」を搭載する。そして、このRubyの高い画像処理能力を活用し、車載カメラで撮影した映像から歩行者やほかの車両などを認識する機能を扱えるようにする。この認識機能は、グラフィックス表示に使用されているプログラム言語を利用して認識機能に必要なアルゴリズムを扱えるように、ハードウエア的な仕組みを実装することにより実現する。そして、プロセッサの処理能力も向上した上で、2010年末までに発表する予定である。

 1394 Automotiveへの対応については、最大データ転送速度が800メガビット/秒の通信コントローラIC「MB88395」を2009年4月に発表したことにより、ハードウエアの開発は一段落した。現在は、ミドルウエアの開発に注力しているところだ。次世代の情報系車載LAN規格としては、欧州の自動車メーカーを中心に規格化が進められているMOST(Media Oriented Systems Transport)150と競合することになる。MOST150は、ワイヤーハーネスが光ファイバであること、接続方式がリングネットワークであることなど、自動車の設計に対する制約が多い。これに対して、1394 Automotiveは、これまでと同様に銅線を使ったピアツーピア接続が可能で、国内/北米メーカーから高い評価を受けている。1394 Automotiveの対応チップについては、2013年までに量産車に採用されることを目標にしている。

FRマイコンの開発を継続

 制御系の車載マイコンでは、ダッシュボード周辺のシステム向けを中心に、自社開発のプロセッサコアを搭載する「FRマイコン」を展開している。現在、当社は、ARM社のプロセッサコア「Cortex-M3」をベースにしたマイコンを開発中だが、これは民生機器向けの製品に限られる。制御系の車載マイコンにおいては、16ビットと32ビットのFRマイコンの開発を継続する。今後も、これらの製品が車載半導体事業の中核を成すことに変わりはない。ただし、欧州市場における高級車向けの制御系マイコンでは、ARM社の「Cortex-R4」を採用した製品を投入する予定だ。

 今後、拡販に注力するのが、自動車メーカーが求めるコスト低減に対応した16ビットマイコン「F2MC-16FXS」である。現行の16ビットマイコン「F2MC-16FX」との互換性を持たせながら、メモリー容量を256Kバイト以下に抑え、パッケージの端子数を48〜144とするなどして、F2MC-16FXよりも価格対応力のある製品に仕上げる方針である。

 新規分野としては、電動自動車の走行モーター向け32ビットマイコンを開発中である。走行モーターの制御に必要な機能を1チップに納めるために、ある企業と共同開発することになる。2010年3月末までにサンプル出荷を開始する予定だ。

欧州での強さ、中国でも

 当社における車載半導体の売上高の海外比率は約30%。これを、中国、インドなどアジアの新興国市場における売上高を拡大することにより、50%にまで伸ばすことを目標としている。

 中国市場では、中国の自動車メーカー/ティア1サプライヤに拡販するだけでなく、欧州メーカーが中国に設けた開発拠点に対する活動を強化する。当社の海外売上高の80%以上を欧州市場向けが占めるなど、欧州メーカーからは高い評価を得ている。この欧州市場における強みを中国市場で生かしたい。

 一方、インド市場では、さらに低価格の製品に対する需要が大きい。制御系マイコンの市場では8ビットマイコンが中心になっている。この市場には、F2MC-16FXSよりもさらにコスト削減を図った製品を開発することで対応したいと考えている。

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