基礎から見直すコイル/トランス:よりよいスイッチモード電源を実現するために(3/3 ページ)
コイルやトランスは、スイッチモード電源などの設計において非常に重要な位置を占める。こうした磁性部品を正しく理解するには、磁気学の知識が必要不可欠だ。しかし現在では、理工系の大学であっても、磁気学に関して実用的なレベルでの指導が十分に行われていないと言われている。本稿では、磁気学の基礎と、コイルやトランスの設計/選択に必要な知識についてひととおり述べる。その上で、スイッチモード電源向けの選択にあたって考慮すべき点を説明する。
SMPS設計時の注意点
SMPSの設計においては、損失を最小に抑えることが1つの大きな目標となる。ただし、EMI(電磁干渉)の最小化も重要な要素であることを認識しておかなければならない。EMIを引き起こす要因の1つは、1次コイルから2次コイルへとコモンモードノイズを結合する巻き線間キャパシタンスの存在である。1 次コイルと2次コイルの間の領域に薄箔または金属膜を挿入する(ファラデーシールド)ことにより、このキャパシタンスを低減することができる。このシールドは、渦電流損を防ぐために浸透深さよりも薄く、また、トランスの1次側の低インピーダンス(スイッチングしない)ノードに接続しなければならない。 EMIの低減は、米Power Integrations社が開発した特殊なコイルの構成によっても実現可能である*1)。トランス内の非終端のコイルを、静電気シールドとして機能させるというものだ(図8)。トランスシールドは、スイッチング信号成分の一部を打ち消し、寄生キャパシタンスを通る複合的な信号成分を大きく減衰させる。これによって、トランスの寄生(容量性)結合経路が大きく減少することになる。
トランスでは、コアにおけるヒステリシス損失、渦電流損、巻き線損失が例外なく生じる。これにより温度の上昇が引き起こされる。固定周波数で動作する降圧型SMPSでは、入力電圧や負荷電流が変化しても、ヒステリシス損失は一定となる。コアの渦電流損は入力電圧に比例するため、入力電圧が高くなると損失も大きくなる。また、巻き線損失は、デューティサイクルに比例する。デューティサイクルは入力電圧が低い場合に大きくなる。
SMPSの設計時には、このような最悪の条件下でも安全な動作温度を維持できるトランス/インダクタを選択しなければならない。負荷電流が急に増加する起動時と過渡時についても考慮する必要がある。フル電流を流す際には、デューティサイクルが最大となるように制御ループが機能する。入力電圧が最大の場合には、トランスのコイルに印加される電圧(volt seconds)は通常よりも数倍高く、コアを飽和させる可能性がある。幸い、最新の制御ICは、ソフトスタート機能や、高度な電流/電圧制限機能を備えており、システムの動作条件とフォルト条件の両方を監視することができる。
SMPS用のフライバックトランスを設計するには、まず回路パラメータを定義し、コアの材料とサイズを選定する。次に、回路のピーク電流、最大磁束密度/ 磁束振幅を決定する。これらの値を定めたら、コアの形状とサイズを暫定的に決定し、磁束密度に対する損失の上限を決める。次に、巻き数、ギャップ長、導体サイズ、巻き線の抵抗値を計算する。最後に、磁束密度、巻き線損失、総損失、温度上昇を計算し、コアのサイズに合わせてこれらの値を調整する。こうした作業を支援するツールとして、Power Integrations社はソフトウエア「PI Expert」などを提供している*2)。コンポーネントの選定やトランスの設計など、電源設計の自動化が可能なパッケージを提供しており、経験の浅い技術者でも、効率性、安全性に優れ、EMIに関する国際規格に準拠したSMPSを適切に設計することができる。
脚注
※1…"Power Supply Design"(http://www.powerint.com//forum/ask-pi-engineer)and "PI Expert Support" technical forums
※2…)"PI Expert Design Software", http://www.powerint.com/design-support/pi-expert-design-software
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