太陽光発電を支える電力変換手法:小規模システムに最適な方式とは?(1/3 ページ)
太陽光発電システムの発電性能を向上するためには、太陽電池だけではなく、太陽電池から得られる直流の電力を交流に変換するパワーコンディショナの技術開発も重要になる。本稿では、まず、米国における太陽光発電システムの市場動向について述べる。続いて、太陽光発電システムとパワーコンディショナの概要について説明する。さらに、小規模の太陽光発電システムで鍵となるマイクロインバータなどの新たなパワーコンディショナ技術を紹介する。
小規模システムの市場が拡大
10〜20年前、米国内における太陽光発電システムの市場の中核は、発電量が数MW(メガワット)クラスの「ソーラーファーム」(日本ではメガソーラーと呼ぶことが多い)が担っていた。しかし、現在は、1MW以下の小規模なシステムの市場が拡大しつつある。
その理由としては、以下のようなことが考えられる。まず、多くの電力会社が、民家や小規模な企業の屋根を局所的な太陽光発電ステーションとして使用することによって、既存の発電所の重要度が相対的に低下していることである。そして、民家や小規模な企業の屋根に太陽電池パネルを設置して管理するコストを負担する代わりに、そこで発電される電力を使用する「ソーラーPPA(電力売買契約)企業」が出現したことが挙げられる*1)。
小規模の太陽光発電システムは、規模の大きいソーラーファームとはいくつかの点で異なる。ソーラーファームの太陽電池パネルは、すべて同じ方向を向いており、各パネルの1日当たりの日照量はおおむね同じである。また、周辺に木や電柱などが存在しないため、太陽電池パネルが発電するのに必要な太陽光が障害物によって遮られるということがほぼ起こらない。つまり、各パネルが発電する電力に大きな差は生じない。一方、小規模の太陽光発電システムは、さまざまな屋根の形状に対応しなければならず、パネルの向きを同一にすることができない。そのため、システム全体として最適な発電効率が得られにくいことが多い。
各パネルでばらつく出力
ここで、一般的な太陽光発電システムの構成について見てみよう。
まず、太陽光発電システムに用いられる太陽電池パネルは、複数の太陽電池セルを直列に接続することによって構成されている。パネル1枚につき、通常は25V〜30Vの直流の電圧出力を持つ。そして、これらのパネルを直列に並べて、300V〜350Vの直流の電圧出力を持つストリングを形成する。場合によっては、これらのストリングを並列に並べた太陽電池アレイを用いることもある。
ストリングやアレイから出力された電圧は、パワーコンディショナに送られる。パワーコンディショナでは、直流電圧を交流電圧へと変換し、交流電圧を電力網と同期させる。民家などに設置される太陽光発電システム用のパワーコンディショナは、定格出力電力が2.5kW〜3kWである。一方、太陽電池アレイを形成する程度に発電規模が大きい場合、定格出力電力が6kW以上のパワーコンディショナを用いることもある。
太陽光発電システムが出力する電圧は、季節や時間帯、気象条件などの外的環境によって変化する。また、パネル上の遮断物やほこり、汚れによって発電効率が著しく低下する。そのため、太陽電池パネルの表面は定期的にクリーニングしなければならない。しかも、設置されているパネルは、それぞれが異なる速度で老朽化する。このことが原因で、各パネルが発電する電力に差が生じるようになる。そもそも太陽電池パネルが出力する電圧は常に一定ではない。たとえ同じ外的環境であったとしても、出力する電圧は異なる。製造時に生じるばらつきにより、各パネルはそれぞれに異なる特性を持っているからである。
このように、太陽電池パネルの出力電圧はさまざまな要因によって大きく変動する。その出力電圧に対して、パワーコンディショナにおける電圧変換を最も高い効率で行うために用いられているのが、MPPT(最大電力点追従)制御という手法である。MPPT制御では、「山登り法(Perturb and Observe)」と呼ばれるアルゴリズムが広く利用されている。このアルゴリズムでは、太陽電池電圧に周期的に変調をかけ、それに対応する瞬時電力の変化を計算する。その結果を利用し、太陽電池の出力電力が増大する方向に電圧、電流をフィードバック制御することで最適な条件に追従させる。
既存の太陽光発電システムは、その規模の大小にかかわらず、1つのパワーコンディショナによってMPPT制御を行っている。ここで問題になるのが、先に述べた太陽電池パネルごとの特性の相違である。各パネルには、それぞれ特有の最大電力点があり、それがパネルのストリング、そして最終的にはアレイの最大電力点にも影響を与えてしまう。
もし、太陽電池アレイの中に、変換効率の低いパネルが1つでも存在すると、パワーコンディショナによるMPPT制御のアルゴリズムは、そのパネルの最大電力点の影響を大きく受けてしまう。そして、アレイ全体として最も効率の良い最大電力点で電力変換を行うことができなくなる。すべてのパネルの特性が均一であれば、このような問題は起こらないが、実際には、老朽化、雲、障害物の影、パネル上のほこりなどの影響によって、パネルの特性が完全に均一になることはあり得ない。
この問題への対処法の1つが、1台のパワーコンディショナですべてのパネルの最大電力点を検出する代わりに、パネルごとの最大電力点を検出する各パネル専用のパワーコンディショナを設けることである。この場合、各パネル専用のパワーコンディショナが出力する電力は、電力網または電力の分配回路に直接送られる。欧州の太陽光発電関連企業が、この手法を用いた「ACパネル」を試作したのは、10年以上も前のことである。各ACパネルが交流電力を生成するので、そのまま電力網に接続することができた。しかし、ACパネルでは、各パネルに小型ではあるが必ず1台のパワーコンディショナが必要になる。そのため、中央に設置する1台の大型パワーコンディショナ、もしくはストリングごとに1台のパワーコンディショナを使用する太陽光発電システムよりも、トータルコストが高くなるという欠点があった。
なお、大規模システムでは、定期的なクリーニングを行うことと、障害物などによって日照が遮られないようにすることで、パネル間のばらつきをできる限り小さくしている。しかし、市場が拡大しつつある小規模な太陽光発電システムでは、建造物の構造上の制約によりパネルの向きがまちまちになったり、電柱や木によって個々のパネルへの日照が遮られたりする場合がある。このため、ACパネルのように、パネルごとに最も効率の良い発電ができるような最適化の手段が必要とされ始めているのである。
脚注
※1…Velosa, Alfonso III, "PV-industry power shifts downstream," EDN, Oct 22, 2009, p.64, http://www.edn.com/article/CA6702283
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