太陽光発電を支える電力変換手法:小規模システムに最適な方式とは?(3/3 ページ)
太陽光発電システムの発電性能を向上するためには、太陽電池だけではなく、太陽電池から得られる直流の電力を交流に変換するパワーコンディショナの技術開発も重要になる。本稿では、まず、米国における太陽光発電システムの市場動向について述べる。続いて、太陽光発電システムとパワーコンディショナの概要について説明する。さらに、小規模の太陽光発電システムで鍵となるマイクロインバータなどの新たなパワーコンディショナ技術を紹介する。
もう1つのアプローチ
Enphase社は、マイクロインバータのみの販売も行っている。さまざまな太陽電池パネルに対応するこの製品を用いれば、太陽光発電システム全体を制御する大型のパワーコンディショナを使用しなくても済む。ただし、変換効率は、大型パワーコンディショナが98%であるのに対し、マイクロインバータは95%弱にとどまる。これに対して、「各パネルに対して最適なMPPT制御が行えるので、システム全体で見れば実用的な変換効率を高めることができる」というのがEnphase社の主張である。
米National Semiconductor社のフェニックスデザインセンターでマーケティングマネジャを務めるKevin Kayser氏によると、マイクロインバータの課題は、電解コンデンサの寿命だけではないという。「どの太陽光発電システムの設計者に聞いても、システムの中で最も信頼性が低いのはパワーコンディショナのインバータ回路だと言うだろう。マイクロインバータを用いる構成だと、太陽電池アレイに接続されるインバータ回路の数が非常に多くなってしまう」と同氏は述べる。
同社は、大型パワーコンディショナと連携して、太陽電池パネルそれぞれの発電効率を高めるモジュール製品として「SolarMagic」を展開している(写真2)。SolarMagicは、マイクロインバータのように、大型パワーコンディショナに取って代わるものではない。例えば、あるパネルの出力電圧が、ほこりなどの影響によって低下するような場合には、SolarMagicが電流を調整することによってその出力電力を最適なレベルまで引き上げてくれる。このように、各パネルの発電効率を最適化して、出力する直流電力が最大となるように電流と電圧を調整するのである。この製品がベースとしているのはDC-DC変換技術だが、同社はSolarMagicのような製品を「パワーオプティマイザ」と呼んでいる。
Kayser氏は、「SolarMagicのDC-DC変換の手法は、従来のパワーコンディショナほど複雑ではない。電力網に直接接続されるマイクロインバータでは、電力網の交流周波数である60Hzに対応するために、信頼性が高いとは言いがたい電解コンデンサまたはフィルムコンデンサが必要となる。これに対して、SolarMagicでは、より高い信頼性を持つセラミックコンデンサを使用することができる」と説明する。なお、SolaMagicの価格としては、その電力変換効率を向上する効果から見積もって、1台当たり約175米ドルが想定されている。
この種の製品市場に参入しているのはNational Semiconductor社だけではない。ドイツSolarEdge Technologies社も、パネル単位で行うDC-DC変換による電力管理手法を発表している。ただし、同社の技術を利用する場合には、専用の大型パワーコンディショナが必要となる。同社の場合、各太陽電池パネルを制御する電子回路を別個のモジュールとして販売するのではなく、パネル内に組み込んでいる。これによって、MPPT制御が行われているパネルを使ってストリングを構成し、アレイを構成する各ストリングの出力電圧を固定した上で、中央の大型パワーコンディショナに接続する。MPPT制御はパネル単位で実行されているので、この大型パワーコンディショナは直流から交流への変換のみを行う。
独自開発も可能
太陽光発電システム向けのパワーコンディショナを独自に開発しようと考えている設計者向けに、PWM(パルス幅変調)方式の昇圧型DC-DCコンバータIC「SPV1020」を展開しているのがスイスSTMicroelectronics社である。同ICを用いることで、太陽電池パネルの温度や日照量に関係なく、パネルが発電する電力を最大化することができる。SPV1020には、太陽電池パネルを構成する太陽電池セルそれぞれの最大電力点を計算するアルゴリズムがハードウエアレベルで実装されている。
もし、太陽電池パネル内で1つでも太陽電池セルが故障すると、パネルが出力する電力に影響が及ぶ可能性がある。このため、パネルには、パネル内部で直列接続されているセルから、性能の低下したセルだけを切り離すためのバイパスダイオードが設けていることが多い。SPV1020は、このバイパスダイオードと置き換えて、太陽電池パネルの接続ボックスに設置する。SPV1020には、DC-DC変換におけるコントローラ機能とともに、同期整流用のパワーMOSFETも集積されている。SolarMagicの技術と同様に、DC-DC変換が比較的低い電圧で行われるので、セラミックコンデンサを使用することができる。
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