モバイルテレビ向けLNAの設計:バイパス機能で強電界入力に備える(2/4 ページ)
携帯電話機などに組み込まれるモバイルテレビは、着実に普及し続けている。このような小型テレビの受信機に使われるRF ICでは、利得を大きくすると、電波強度が高い状態においてミキサーやIF増幅段に負荷がかかり、信号品質が劣化してしまう。本稿では、バイパスモードを付加することで利得の低減を可能にするLNAの設計/製作の実例を示す。
利得を下げる3つの方法
LNAの利得を低減するために一般的に用いられている方法には、大きく分けて以下の3つがある。
1つは、LNA段の直前で信号を並列にグラウンドに落とすことである(図2(a))。この方式は、RFスイッチング素子の数が最も少なくて済むので広く採用されている。しかし、この方式には、スイッチを閉じたときにLNAの入力に大きなインピーダンス不整合が生じ、それによって生じる定在波が、ほかのシステムパラメータに影響を及ぼすという大きな欠点がある。これと同様の考え方で、LNAの入力部において信号を減衰させるために、LNAに並列に接続した共振回路網の高インピーダンス側に減衰素子を接続するという方法もある(図2(b))。共振回路網としては、プレセレクタとしても知られる可変同調並列共振LCフィルタを使用する。この方法は、車載オーディオ機器や家庭用テレビ受信機で使われている。しかし、同調回路を短絡する方法なので、利得の制御範囲が大きい場合には、LNAの前の周波数選択度が犠牲になってしまう*4)。
もう1つの方法は、受信信号によってミキサーやIF増幅器が過負荷の状態になるときには、LNA段を1対のRFスイッチでバイパスするというものである(図2(c))。この場合、アンテナからの信号は増幅されることなく、RF IC(ダウンコンバータ)に直接送られる。アンテナやバイパス経路のマイクロストリップライン、RF ICへの入力といった代替経路内の構成要素が、同じ特性インピーダンス(例えば、75Ω)で設計されている場合は、信号経路に不整合は生じない。しかし、1対のRFスイッチを使用することにはデメリットがある。図2(c)は概念図なので簡単なものに見えるが、実際の回路は多数の素子を必要とし、ほかの方法よりも回路が複雑になる。
3つ目の方法は、LNAのバイアス電流(アイドル電流)を減らすことによって、利得を低下させるというものである(図2(d))。この手法は、デュアルゲートMOSFET*5)や、カスコード回路*6)、差動ペアのエミッタ接地増幅器*3)*7)、直角位相ペア*3)を用いて、さまざまなLNAの設計で使われている。そのメリットは、バイアス電流を制御するために、既存の非RF入力端子(デュアルゲートMOSFETの一方のゲートや、カスコード回路のベース接地段のベース)をうまく利用できることだ。つまり、スイッチング素子が不要であり、単純な回路で実現できる。ただし、素子の通常のDC動作点からコレクタ/ドレイン電流が減少するので、線形性が次第に低下するというデメリットがある*7)。
ここで説明した3つの方法におけるコスト効果について、表2にまとめた。
脚注
※3…C. Baringer and C. Hull, "Amplifiers for Wireless Communications," in RF and Microwave Circuit Design for Wireless Communications, L. E. Larson, Ed. Norwood, MA: Artech House, 1997, p.369
※4…D. M. Duncan, "AGC in Transistor Broadcast Receivers," IRE Transactions on Broadcast and Television Receivers, Jul. 1962, pp.125〜134
※5…U. L. Rohde and T. T. N. Bucher, "Amplifiers and Gain Control," in Communication Receivers, Intl ed. Singapore: McGraw-Hill, 1994, pp.235〜237
※6…C. L. Lim, "Adjustable Gain Cascode Low Noise Amplifier," High Frequency Electronics, Jul. 2009. http://www.highfrequencyelectronics.com/Archives/
※7…W. Hayward and D. DeMaw, "Receiver Design Basics" in Solid State Designs for the Radio Amateur, Newington, CT: ARRL Inc., 1986, pp.88〜89
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.